第38話 神の生い立ち

あの部屋から戻ると出発地点に戻っていた。時刻を確認すると、まだ昼前。

 昼食には1時間ほど待たなければならないので、身体機能の低下や上昇が見られないか確かめることに。

 アテナにも色々と聞きたい事があるので同行してもらおう。


「アテナ」


 魔術を使い連絡を入れる


『はい、如何されました?』

「これから、俺の身体測定をはじめるから、実験室に来てくれ」


 実験室 この世界の空気中の物質や土、木、水に至る物をDNAや原子配置に量の測定を行う大型実験施設だ。今後は捕まえてきた、この世界で生息している生命体の調査を計画している。そこで俺の身体的機能を検査しようと言うのだ。


『承知しました、直ちに向かいます』


 俺はアテナが実験室に着く前に移動を開始する。

 景色が一瞬で切り替わり、此処は研究兼実験室。実験室に部屋は清潔感のある白色で統一し、色々な機械がある。

 電子顕微鏡は当然あり、荷電粒子を加速させる加速装置、スーパーコンピュータなどなど。


 このスーパーコンピュータはに68コアCPUやメモリ12EiB ストレージ200EiB 演算速度は800EFLOPSであり最高のコンピュータと言って差し支えないだろう。

 

 研究設備を一通り見ているとアテナが到着した。


「お待たせして申し訳ありません」

「いいさ気にするな」


 お決まりになりつつある挨拶を交わしたところに、白衣を着た研究員がヒロトに告げる。


「ヒロト様、装置の準備はできております、早速測ってもらって大丈夫です」


 そう言ううことなので別室へと移動する。

「レーダー研究員少し席を外してくれないか?」俺はアテナに配慮し彼にはこの場から去ることを催促した。彼女に聞く事これは今後最も大切なことになる。それを知って聞く前と後にどんな変化があっても、それはきっと悪い変化ではない。


「アテナ、君は何者なんだい?」


 前振りもなく聞く。

 アテナは、かなり真剣な葛藤を、暫くの間、一言も発せずに、続けた。時折天井を見つめながら、時折足元の一点を見つめるようにしながら。


 もしかしたらこのまま、答えないかもしれないと思ったが、しかし、やがて、アテナは、「そうですね」と、覚悟を決めたように言った。


「私にもあまり分からないんです」


 そして、彼女は淡々と語り出す。


「最初はそれこそ自我もありませんでした、フワリフワリと、クラゲのように宙に浮いたような浮遊感があり、沢山の景色を見たことだけ覚えています。そして途方もなく長い時の中で私は自我を持ち知性を持ち力を持ちました。ある程度身体も形ずくられて、自由が効くようになると。一つの世界を見ました、とても綺麗で端麗にして艶美にして華麗な世界を。そこに憧れ焦がれて、追いかけていると気づいたら、白く何もない無の世界にいました。また時が流れて、使命を受け百年丁度立った時、あなたが現れましたヒロト様。それこそ私は何処かで見た王子様みたいなだと思いました。その結果此処にいます」


 彼女は一人で、孤独で、存在意義などは存在してから殆どが無かったのだろう、それでも生きて、生き続けた。欲しい物も手に入らなかった。


「願う側の私が誰かの願いを叶える側になるとは、思いませんでした」

「……そうか」


 俺は静かに頷いた。

 不自然なまでの流させやすさ。

 純粋な心。宛ら子供を見ている思いだった。不気味な人間味の無さ。

 説明が、ついた気がした。

 口調の微妙な変化も、行動の変化も、凪に懐いた理由も。

 純粋なアテナと言う白い紙には、色がすぐ映る、神でありながら。


「その言い方だと、俺以外にも誰かの願いも叶えたのか?」

「十年置きくらいに、人が来るので、その度に願いを叶えていました」

「すごいね」

「皆んな、大喜びしてました」

「君が神になった、理由がわかったよ、アテナは力を得たがそれだけでは神にはなれない、神は個人を見もしないが、神もそう安くはない。此処からは俺の憶測で予想の範疇を出ないものだが、きっと、君が願いを叶えた人間もしくはそれに、準ずる知的生命体が君を昇格させた、ヒトの信仰ほど怖いものはない、しかし、それ故に、堅いモノだ。信仰力で英雄にも神にもなれる、神にするのも、英雄にするのも、悪にするのも、ヒトの自由だ創造主は自らの創造主を忘れ、創造主の役目を果たす。人間は周りにとってた大なる悪で、如何しようもなくて破滅への一途を辿っている、それでも良い事する時もある」


 アテナは気づいているだろう知っていただろう、それでもしかし、きっと他人から教えて欲しかった、人間がどれだけ害悪でも、良い所もある事を、知っているとも、今まで見てきたんだ、アテナもまた、世界を観ていた本人なのだから。それを何年も何百年も思い悩んでいた、後悔もした、とも言った。


 俺はアテナは居ても良い存在なのだと言いたかった。

 本当に憶測をミリも出ない証拠のない話だが筋は通ってる、宗教が無くならない理由も、人の思いだった。地球を支配し。世界を犠牲にしても生き延び用とする人間は既に一方から見たら或る種のの存在である。要するに人はなんでもできるある種の神を体現した存在なのだ。


「スッキリしました、お話できて、しかし私はいない方がいい、きっとヒロト様にとって抑止となります」


 近い未来、アテナは、何かしらの形で敵対とか別れることになるかも知れない、しかしこれも憶測でなんの証拠もなく、俺にとってはどうでもいい、俺の予想はアテナは敵にはならない。


「居なくなるなんて言うなよ、たったこの数日だが、アテナは掛け替えのない仲間だ、君は人間と違って居ても良い、これはきっと間違いじゃない」


 近い未来、人は滅ぶかもしれない、その要因は、後世に語り継がれることだろう、人類に全面戦争を仕掛けたあの戦いは、人類史が終わる最後の戦いは。


「ーーああ」


 身じろぎもせず、何も言わない研究員と。

 体勢を崩してそのままわんわんと声を上げて泣きじゃくり始めたアテナを、有栖川ヒロトは隣で寄り添って観ていた。

 数分間アテナは泣き続けた、廊下にある、少し変わったベンチに座り俺はその止みを待続けた。


 その後、アテナは泣き止み一言「有難うございます」と言った。

 本命であった、俺の身体測定を始めるに当たり、検査室へと入った。

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