第37話 深界の星
その空間はある者は一つの完全な独立した世界だと評した。
漆黒の闇の中にフワリと佇む、真球型の部屋の中央に、一つ椅子が浮かんでいる。
ただそこに在るだけなのだが、それだけでその空間そのものの価値を何倍にも膨れ上がらせ高邁なものへと変えている。
只の一般人が腰掛けるには些か身が重いくその身の存在が薄れる程に。
その椅子を優に超える存在は
「・・・ふう」鼻で大きく息を吐いた。
この世界の主人と万人に言わしめるに相応しいい空気を纏っている。
相貌の皺は今まで生きた人生の個性を感じさせているが、諸目には生命力が強く感じさせる。その為七十歳に見える外見年齢も何歳か若く見間違える。
「この場所は違うか……この場所は滅ぶか」
翁が宙に浮く円球の物体を眺めながら、指を滑らせると周囲も同様に回転する。
「この線はなかなか、……いや、災厄だ蟹が起きる。まだその時ではない」
そして、それに合わせて翁の眼前に浮遊する書物の
書物の厚さは、底板の書物とは比べるまでも無く、何万ものページがある。
「最近はどう行っても人類にとって碌な結果にならん、これも奴の些細な願望を叶えた為か。しかし手をつけるにしても影響力が枯渇している今世界を見渡すことしかできん、うむ、手詰まりだな」
独り言をしていたように見えていた翁は、背後の電話に出る。
「御主はどう思う。一言声をかければいいものを其方からでは通信料も余計にかかるだろう」
時を待たずして鬼が答える。
『気づいていらしたか、呼び鈴を鳴らした覚えはないが』
敬語の冗談交じりの声が出てくる。そこには椅子同様の小さな丸いシルヴァーテーブルが置かれ、上に一台の電話があるだけであった。
今では骨董店や博物館でしか見なくなったアンティーク調のの電話である、しかしながらアンティークなのだが古さを感じさせるモノは到底なかった。金の装飾に包まれた、豪勢とゆう言葉に尽きるものであった。
『お前の用がすみ次第声をかけようと思って待って今のだが、無駄だったな』
受話器から、今は青年の若い声が響く。
「誰も居ないのに声など出すか、普通は心の中にとどめている」
『俺と知っていたのか?』
「そろそろくると思っていたのでな、それにここに入れるのはお前とお前の女を入れても片手に収まる」
翁は微笑を浮かべながら、浮かぶ書物をチラリと見る。
「要件は?まさかもう、帰してくれとは言わぬよな?」
『まさか勿体無い、折角
「そうか……御主まだ人間が嫌いか?」
唐突な質問、昔翁との間にあった関係があるからこその質問。答えは決まっている。
『ああ、ずっと探してる、見つかるまで俺は人間が嫌いで無価値だと信じてる。…………そんな事より今回は礼を言う、態々俺の小さな最後の未練を無くしてくれて』
「気にするな、貴公には貸しがあったからな、それに貴公が貴公の彼女に言ったお陰で儂もまだ此処でも世界を観て居られる」
「そうか、しかし、俺がマグナティアに言っているのは結果的にそうなったに過ぎない、グラサン小僧風に言うなれば、勝手にそうなった、相互関節関係だ」
「それもそうだ」
部屋の星が回っていく。
『そういえば翁、こっちに来る時少女がいる可笑しな空間に一度閉じ込められたのだが、あの演出は何かわかるか?』
翁は受話器を耳の当てたまま椅子に深く腰掛け空いている手で本を持つ。
「それを今調査中だ、本当に神なのか、それとも、類する怪異か、
『わかった、今回はありがとう。そろそろ俺はお暇しよう、こちらでも色々調べておこうわかり次第また連絡する。……あと最後に一つ、あの世界に何人か人間を持ってきてくれ、頼んだ』
「ソロモン、今のお前ならいつでも帰って来られる、用事が済んだら帰ってこい、その世界は取っといてやる、安心しろ」
「帰りの場所は何処が良いんだ?」
「魔力が最も集う地球の穴──」
「・・・極点か」
南極北極そのどちらかであろう。
「そうだ。帰る場合は南極が都合がいい、何方も外界からエネルギーが入ってきているが、解釈的に見た下の方が出口としての役割が大きいからな」
これで当面の目標は決まった、南極を目指す。
誰かを中心として回る世界、娯楽として消されるのか、この世界の人類はどう生きるのか。
今此処に偽りと殺戮と正義感に回される、人類史の幕が開かれる。
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