第4章 淫魔勃興
第165話 〈牙王連邦〉の課題
教会の権勢が及ばない獣人国家〈牙王連邦〉。
僕とアリシア、そしてシスタークレアたちがこの国にやってきたのは、なぜかアリシアの命を狙う教会の目を避けるため。
そして腐敗してしまった教会から被害を受ける〈牙王連邦〉と同盟を結び、教会の総本山であるロマリア神聖法国に対抗するためだった。
そうしてアイラ女王と目標をともにした僕たちはまず、〈牙王連邦〉を蝕むテロ組織を「仲良し」で潰したわけなのだけど、これは対教会のための第一歩にすぎなかった。
教会の総本山、ロマリア神聖法国は大陸最大の宗教国家。
周辺国に比べて抜きん出た力を有しており、教会の最高戦力〈十三聖剣〉を筆頭に〈聖騎士〉の保有数も他を圧倒している。
そんな巨大国家を相手取るには、テロ組織の暗躍でボロボロになった〈牙王連邦〉を早急に立て直す必要があった。それも以前よりずっと強靱な国へと。
そのためにまず最優先でどうにかしなくてはいけない課題はといえば――
「食料の安定供給じゃな」
テロ組織との戦いが終結した数日後。
今後の方針を決める話し合いの席で、アイラ女王が端的に断言した。
円卓に肘をつきながら、〈牙王連邦〉を治める若き女王はさらに言葉を重ねる。
「それも、ただ『民が飢えない』程度の量では足りん。国を立て直し、以前より強固な国家を築こうと思えば、まずは大量の食料が不可欠じゃ。潤沢な食料は強靱な肉体を作るための糧であると同時、様々な『余裕』を生み出すために必須。国民が日々の食糧確保に追われていては、各種生産系〈ギフト〉の技術向上も練兵も疎かになってしまうからの」
「ですわね」
アイラ女王の言葉にシスタークレアが同意する。
教会の指導者〈宣託の巫女〉であるシスタークレアも国を運営する立場として食料の重要性は理解しているようで、くぴくぴとお酒を飲みながら迷うことなく首肯していた。
「しかし大量の食料確保ですか。それはまた難題ですな……」
と、苦々しい表情で意見を口にしたのは〈牙王連邦〉の最高戦力、イリーナ獣騎士団長だ。
「通常の食料確保は国軍および在野のダンジョン探索系冒険者、生産系〈ギフト〉持ちの農夫たちが日々頑張ってくれております。しかし我が国は昨今まで続いていたテロ騒ぎでどこも疲弊しきっている。首都より北の荒れ果てた都市や街、穀倉地帯の復興、テロ組織の残党狩りに国境警備と、追加の食料確保に回せる人員は限られております。輸入に頼ろうにも、長年のテロ対策と経済打撃で国家予算はカツカツ。販路もズタズタ。テロ組織打倒によって長期復興の芽は出てきたとはいえ、すぐさま食料供給を増加させ国力を回復させるのは至難の業でしょうな……」
「そうなんじゃよなー」
イリーナ獣騎士団長が挙げる〈牙王連邦〉の現状にアイラ女王がテーブルに突っ伏す。
けれどすぐに顔を上げて、
「とまあそんなこんなで困っておってな。悪いんじゃがお主にも力を貸してほしいんじゃ、エリオ」
申し訳なさそうに言いながらアイラ女王が僕に手を合わせてきた。
王様がやってはいけない仕草に僕は慌てて止めようとするけど、アイラ女王は構わず続ける。
「お主はその異常なスキルを駆使し、教会から兵糧攻めを受けておる前線都市シールドアに大量の食料を融通しておろう? 可能な範囲で構わんから、その力で〈牙王連邦〉全体の食料供給にも協力してほしいんじゃ。テロ組織討伐といい今回の件といい、同盟関係と言いつつ頼り切りになってしまって非常に心苦しいが……」
「いえいえ、全然気にすることなんてないですよ!」
今度は頭まで下げようとしたアイラ女王に、僕は慌てて言い募る。
「〈牙王連邦〉の人たちも大変な中で精一杯やってるわけですし、僕らとしても国を味方につけられるんですからお安いご用です。それに、教会の目が届かないこの国で匿ってもらってるだけで凄く助かってますから」
「うん……教会のことを気にせず毎晩仲良しに集中できる環境は……とってもありがたい……」
僕の言葉にアリシアが際どい言葉を重ねる。
いやちょっとアリシア真面目な会議の場でそれは……と僕は顔を赤くするのだけど、
「わかっておったことじゃが……お主らは本当にお人好しじゃな」
嘘偽りないその言葉が逆によかったのだろう。
嘘を見抜けるユニークスキルを持つアイラ女王はふっと表情をゆるめる。
「うむ。では遠慮なく頼らせてもらおう。こちらでも捕らえた〈強王派〉に懲罰がてらダンジョンでのモンスター狩りを課すなど食糧供給策はいくつか進めておくから、お主らも無理せぬ範囲で食糧確保を頼んだ!」
「わかりました」
そうして僕たちは〈牙王連邦〉を以前よりも強い国として立て直すため、急いで食糧確保に走ることになった。
――のだけれど、
「うーん。やっぱり街一つならどうにかなっても国全体となると……いくら〈淫魔〉のスキルが頭おかしいくらい高性能でもさすがに限界があるよね……」
〈現地妻〉による瞬間移動と〈ヤリ部屋生成〉による疑似大容量アイテムボックスを駆使した食料輸入をはじめて数日。
城塞都市の商人ルージュさんに食料輸入拡大の相談を持ちかけた帰り道にて。
事前にある程度想定していたこととはいえ、確保できる食糧の限界に僕は頭を悩ませていた。
「輸送費がかからないぶん、食料自体は格安で〈牙王連邦〉に卸すことができてる。けどそもそも確保できる食材の量に限界があるんだよね……。ダンジョン都市サンクリッドでは女帝ステイシーさんたちがモンスター食材の確保を頑張ってくれてるけど、その全部を〈牙王連邦〉に回せるわけじゃないし……」
「……ダンジョンで採れるモンスター食材や素材は魔法鉱石と並んでサンクリッドの主な収入源で……〈牙王連邦〉以外にもお得意様がたくさんいますからね……」
僕の漏らした言葉に、ダンジョン都市で育った狼獣人ソフィアさんが補足するように言う。
「いくら冒険者の多いダンジョン都市サンクリッドでも命がけのダンジョン探索に連日参加できる人材は限られるし、僕とアリシアも鍛錬がてらダンジョンに潜って食材は確保してるけど、まあ気休めだね」
アイラ女王からは『なんじゃこの量は!? 話に聞いておった以上じゃぞ!?』と喜んではもらえたけど、国家全体を潤す必要があると考えると十分な量とは言いがたかった。
(まあ、こっちとしても個人の力で国家規模の食料確保ができるなんて最初から思ってはいないんだけど……)
教会がテロ組織を煽るばかりか、あんな危険な魔剣まで使用して〈牙王連邦〉の崩壊を狙ってきた可能性が高い以上、どうしても焦る気持ちが出てしまう。一刻も早く〈牙王連邦〉に力を取り戻してもらいたいと。
とはいえ国の復興や食料事情の改善がそう簡単に進むわけがないというのは、仮にも貴族家で色々と教育を受けた僕もわかってはいるわけで。
もどかしいけれど、状況好転の方法を教えてくれるシスタークレアのお告げなどもない以上、いまはできることをコツコツとやっていくしかなさそうだった。
モンスターの狩猟はあくまで直近の復興に必要な短期的食料確保策のひとつ。
ある程度長い目で見れば、モンスター狩猟以外にも食料事情を改善する方法はいちおう幾つかあるしね。……まあ、その長期案の効果を最大限引き出すにも、直近の食糧事情改善はできるに越したことはないんだけど。なんにせよ人手がないと難しい話だ。
「なになにー? ごはんのはなしー?」
と、僕たちが色々と頭を悩ませていたところ、懐から可愛らしい声がした。
〈淫魔〉の眷属として様々な力に目覚めたスライムガール、ペペの分体だ。
本体のほうは聖騎士コッコロの体内(意味深)に潜んで万が一にでも裏切ったりしないよう見張ってくれているのだけど、食事のときなどはこうして分体のほうへ意識を移して会話できたりする。
どうやら僕たちの会話を聞いてご飯だと思ったらしく、こっちに顔を出したようだった。
可愛い。
「あはは、ごめんごめん。ちょっと食料確保の話をしてただけなんだ。たくさんのご飯を確保できるための人手がいきなり現れたらいいなーって」
と、僕が自分の考えを整理する意味もこめてペペに事情を軽く説明すれば、
「ふーん? たいへんなんだねー。みんなもペペみたいにごしゅじんしゃまの無限聖液を食べられたらしあわせなのにー」
い、いや、そんなことになったら僕が干からびちゃうから……。無限じゃないから……。
絶倫スキルがLv60なんて領域に達したいまでさえヒヤッとする瞬間がたまにあるから……。
「……ペペだけじゃなくて私も毎日食べてるから幸せだけど……」
と謎に張り合うアリシアの言葉はひとまず聞かなかったことにして……僕は癒やしも兼ねてペペの柔らかい頭を撫でながら、城塞都市内に建てられたとある借家の扉を開いた――そのときだった。
「あ、おかえりなさいませ主様! 今日こそは妾の尻を思い切り踏みつけて――え」
借家の住人――改めて食料集めについて相談しようと訪ねた蟻の女王レジーナが僕のほうを見て固まる。そして、
「に、人間の性奴隷が増えるならまだしも……
「え!?」
あ、あれ!? そういえばずっとバタバタしててレジーナにペペのことを紹介できてなかったんだっけ……!?
自分のうっかり具合に呆れると同時、ペペを指さして絶叫するレジーナに僕は思い切り面食らうのだった。
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