第160話 最大火力


『グオオオオオオオオオオオン❤!』


 規格外の怪物が凄まじい獣声をあげていた。

 

 その叫声は大地を揺らし、震動で山裾が崩れる景色さえ見える。

 大都市を潰すような巨体が身じろぎすればそれだけで大気がうねり、遙か眼下の森を大きく揺らす。


 そんな超巨大古龍〈ビッグイーター〉の猛追を、僕はどうにかかわしきっていた。


(よし! ここまでおびき寄せれば心置きなく戦える!)


〈ビッグイーター〉のオスに変身して慣れない飛行を続けていた僕は周囲の景色を見下ろして、ようやくそう判断した。


〈牙王連邦〉の首都レイセントは、比較的近くに海がある。

 その広い海原まで辿り着き、古龍が首都へすぐに引き返す心配もなくなった僕は、そこで変身を解除した。全力で戦うために。


 ボフンッ!


『グオッ!?』


 もう少しで丸呑みにできるというところで突如オスの姿が消え、〈ビッグイーター〉が怒りと戸惑いの声を漏らす。その鼻先で落下しながら、僕は自らの股間に手を伸ばした。


「男根剣!」


 ビュルルルルルルルル!


 変身したままでは使えない僕の武器――男根剣が一瞬で長く延びる。

 向かう先は超巨大古龍の鼻先。

 

 カッ!


 かぎ爪のように尖った僕の男根が、思った以上に硬い古龍の皮膚に引っかかる。

 その状態で男根剣が元に戻れば、僕は瞬く間に巨大古龍の顔面に着地していた。


 生物の弱点が密集している部位に。


 瞬間、僕は迷うことなく男根剣にありったけの魔力を注ぐ。


「男根剣――煌!」


 凄まじい熱量でもって赤熱する僕のアダマンタイト男根。

 さらに強く念じれば男根は熱を持ったまま大きく膨れ上がり、長大な剣と化した。


 そしてそれを、僕は全力で振りかぶる。


「うりゃあああああああああ!」


 ザグッ! ジュザアアアアアアア!


 硬い甲殻と高い魔力防御で守られた古龍の体表が砕け散る。

 そして体内に侵入した僕の男根は、古龍の内部をいとも容易く焼き切った。

 

 だが攻撃は当然、それだけじゃ終わらない。


「ま、だ、だあああああああ!」


 僕の男根が古龍の中でさらに大きく膨れ上がる。

 膨大な熱をもったまま長く長く、可能な限り身体の奥底へ届くように形を変える。


 そしてその状態で、僕は思いっきり男根剣を振り抜いた。

 それは超巨大な古龍の額から上顎を真っ二つに焼き切る常識外れの巨大斬撃。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?』


 断末魔めいた古龍の大絶叫が響き渡り、確かな手応えが男根を通して伝わってきた。

 その瞬間、


「っ!? うわっ!?」


 攻撃を受けた古龍が痛みに耐えかねたかのように身をよじった。

 それだけで天災級の暴風が発生し、〈淫魔〉の膂力を持ってしても体表にしがみついていられなくなる。


「ぐっ!? なんて規格外な……!? けど頭部にあれだけの一撃を食らったなら――」


 すぐに動かなくなるはず――そう思っていた僕の眼前で信じがたいことが起きた。


 ずにゅっ、ぐちゅずにゅるるるるる!


「な――!?」


 男根剣で焼き切ったはずの切断面が、凄まじい速さで回復したのだ。

 それはまるで、孵化前に食らった大量のエサから蓄えた膨大な魔力を利用したかのような異常回復。


 続いて響き渡るのは、地面が揺れるかのような〈ビッグイーター〉の腹の虫だ。


『グオオオオオオオオオオオオッ!』


 いまの回復で消費したぶんを取り返すとばかりに、巨大すぎる口腔が僕目がけて降ってくる。眼下に広がる大海原の生き物ごと、僕を丸呑みにするために!


「クソ! いくらなんでも怪物すぎる!」


 規格外の巨体に常識外れの超回復。

 それはつまり〈ビッグイーター〉を倒すにはあの反則めいた巨体を即死させるほどの火力が必要ということで。


 頭部を完全に焼き切ってなお即死しない怪物を一撃で殺せる手段なんてあるのかと一瞬頭を抱えたくなる。けど、


「……ある、ひとつだけ。男根剣を超える火力が」


 けどそれには長大なタメの時間が必要で。

 空を飛ぶことさえできず、いままさに迫る古龍の捕食からも逃れる術のない僕にはその攻撃を放つ余裕がない。


 だから、


「できれば巻き込みたくはなかったけど……! 〈現地妻〉!」


 僕は今日数度目となるそのスキルを発動させた。

 その瞬間、


「お呼びでしょうかエリオ様!」

「夜とぎでしょうかエリオ様!」

「「救世主エリオ様のためなら、いつでもなんでもやり遂げます!」」


 僕の眼前に現れたのは、見目麗しい2人の少女。

 

 アクメリア・ヴァージニア。

 イクメリア・ヴァージニア。


 かつて教会に洗脳され、〈牙王連邦〉を切り崩す先兵として僕たちと戦った十三聖剣の双子姉妹だ。


 色々とあって僕たちの仲間(?)になった彼女たちはなにかを期待するようにキラキラとした瞳を僕に向けてくる。僕はそんな彼女たちに、

 

「ごめん2人とも! いますぐあの怪物から僕を逃がしてほしい!」

「「え? きゃああああああああ!? なにあれええええええええ!?」」


 空から降ってくる巨大古龍の存在に気づいた姉妹が悲鳴をあげる。

 けど次の瞬間、双子姉妹は即座に臨戦態勢へと移行した。


「〈索敵蜻蛉サテライト・サテライト〉!」


 イクメリアが発動させるのは、広範囲の索敵性能を持つ飛行のユニークスキル。

 短距離での俊敏性や速度はキャリーさんの飛行魔法をも凌駕する強力なスキルだ。

 彼女は僕とアクメリアを抱え、超高速で飛翔する。と同時、


「〈豪魔投擲トール・パニッシャー〉!」


 僕と一緒に抱えられたアクメリアが放つのは、凄まじい威力の魔弾だ。

 その強力無比な魔力弾は古龍の鼻先を砕き、その動きを一瞬だけ鈍らせる。


 そして間一髪、僕たちは古龍の捕食を回避した。

 大気のうねりに翻弄されながら、双子姉妹が叫ぶ。


「「危なかったー!」」

「無理させてごめん! けど、もう一踏ん張り協力してほしい!」


 そして僕は両手に分離した男根――生き恥スキル〈射精砲〉を構えながら端的に説明した。

 僕が古龍に全力の射精を叩き込むまで時間を稼いでほしいと。


 すると姉妹は顔を見合わせ、


「無茶を仰るエリオ様!」

「無茶苦茶言うねエリオ様!」

「「けどそんなのお安いご用! たくさん出すまでわたしたちが守ってあげる!」

「ごめん、ありがとう!」


 僕が声を張り上げると同時、その空中鬼ごっこは始まった。


『ゴアアアアアアアアアアアッ!』


 苛立ったように古龍が叫び、膨大な魔力を狙うかのように僕たちを飲み込もうとその巨体をうねらせる。


 その無茶苦茶な図体をイクメリアが高速機動で回避。

 時折アクメリアが古龍の瞳めがけて魔弾を放ち、目くらましで時間を稼ぐ。


 そんな激闘が続く中で僕は2人に抱えられてシコシコシコシコシコシコ! と全力で砲撃の威力を溜めていたのだけど――その脳裏に、どうしようもない不安が渦巻いていた。


(〈射精砲〉は間違いなく僕がいま放てる最大最高の火力攻撃……けどこの一撃で、本当に古龍を仕留められるのか!?)


 いくら僕がシグマ戦や〈現地妻〉の連続使用で魔力を消費しており、男根剣・煌の射程が不十分だったとはいえ、古龍はあの斬撃に難なく耐えたのだ。


 射精砲で本当に殺しきれるのか、その不安がどうしても拭えない。

 なにせ射精砲の威力は僕の精力に依存する。

 すべてを出し切る全力の一撃を放てばしばらく男根は萎びて機能しなくなり、〈淫魔〉の僕は不能と化すのだ。


 だからこの一撃は、可能な限りその威力を高めた必殺でなければならない。

 

(〈絶倫〉スキルのLv上昇に伴って、〈射精砲〉の最大威力もあがってるはずだけど……)


 なにかもう一押しが必要だと、これまで数多の戦闘を乗り越えてきた僕の直感が告げていた。


 けどこの状況で射精砲の威力を上げる方法を模索するなんて不可能。

 僕にできることはとにかく一刻も早く射精砲の威力を最大まで引き上げることしか――とシコチャージを続けようとした、そのときだった。


「「きゃんっ❤!?」」

「うわっ!? ご、ごめん!?」


 古龍の捕食を避けるために無茶な軌道を描いたせいだろう。

 ヴァージニア姉妹の胸が両サイドから押しつけられて、


 ドクンッ!


 この手に構えていた〈射精砲〉に、いままでよりずっと大きな力が流れ込んだ。 


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 次回、淫魔追放第161話「オナサポ耳舐め手コキASMR」。


※近況報告のほうで2月18日発売の書籍版加筆についてちらっと書いてますので覗いてみてくださいー。

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