第154話 魔剣 VS 魔羅剣

「なっ!? があああああああああっ!?」


 地下の大部屋に、テロ組織〈強王派〉の指導者シグマの悲鳴が響き渡る。


 拮抗する戦いの最中、僕が完全なる不意打ちで召喚したイリーナ獣騎士団長の一撃が彼女に叩き込まれたのだ。


 超重量武器である斬馬刀の一撃が直撃し、シグマの身体が凄まじい勢いで吹き飛ぶ。

 だが、


「な、んで、てめえがいやがるイリーナァ!?」


 シグマは仕留め切れてはいなかった。

 その両腕に凄まじい魔力を集中させてイリーナ獣騎士団長の攻撃を防御したのだ。

 さらには空中で爆破魔法を放つことで勢いを殺し、壁に激突することなくその場に着地。

 驚愕と殺意の入り交じった顔でイリーナ獣騎士団長を睨み付ける。


 完璧に決まった不意打ちにも対応するその戦闘力は驚愕に値するものだ。

 けれどイリーナさんの凄まじい一撃を食らってさすがに無傷とはいかない。


「投降するのだシグマ! その腕でそれがしたちとの戦闘を続ける気か!?」

「……っ! どうなってやがる! この威力、マジで本物か……!」


 片腕の折れたシグマに立て直す隙も与えず、イリーナ獣騎士団長がラッシュを仕掛ける。

 完全なる不意打ちでの動揺、片腕が使えない不便、激痛。

 それらのデバフが重なり、イリーナ獣騎士団長の攻撃が一方的にシグマを攻めたてる。


 その一連の展開の合間に、僕は一瞬でアリシアたちに駆け寄っていた。

 そしてほとんど治療の終わった猪獣人のお姉さんたちが戦いに巻き込まれないよう〈ヤリ部屋〉に回収すると、アリシアとソフィアさんに早口で叫ぶ。


「ここは任せて、2人はアジトの奥へ! シグマが居座ってたほどの最重要拠点なら、悪巧みの設備だけじゃなくて重要情報を持った幹部もいるはず。アリシアとソフィアさんは彼らが逃げ出す前に掃討を頼む! けどなにか危ないと感じたらアイラ女王から預かった連絡用水晶ですぐに知らせて! 現地妻スキルですぐに助けるから!」

「任せてください……!」

「うん……けど、エリオも気をつけて」


 と、アリシアが僕に「自動回復付与」と回復スキルをかけてくれながら真剣な顔で言う。


「あのシグマって人から感じる気配……本当に、なにか違うから」

「うん。相手が妙なことをする前に、最初から全力で一気に片を付ける!」


 奥の通路に駆けていくアリシアとソフィアさんを見送りながら、僕は男根に大量の魔力を流し込んだ。


「男根剣・煌」


 途端、僕の握る男根剣から放たれるのは、地下空間の気温が一気に上昇するほどの熱。

 激しい魔力消費と引き換えに僕の最高攻撃力を引き出す灼熱の男根だ。


 燃えさかる男根を構え、シグマを圧倒するイリーナさんの隣に並ぶ。

 そして、


「やああああああああああっ!」

「聖鎧付与! 身体強化【極大】! 膂力強化! 聖撃強化!」


 僕とイリーナさんの連携が火を噴いた。

 

 魔法防御を纏った捨て身のような突撃を敢行し、2本の超重量不壊武器聖剣を叩きつけまくるイリーナさんの連撃。その合間を縫って空中を駆ける男根剣・煌の波状攻撃。


 逃げ場のない必殺の連携が手負いのシグマを襲い、彼女を一瞬で戦闘不能にしようと迫る。それは誰もが勝利を確信する一斉攻撃であり、殺さないよう当たり所を調整する余裕さえある圧倒的な戦力差による制圧だった。


 が、そのときだ。


「……っ! ふざけやがって……!」


 逃げ場のない攻撃にシグマが忌々しそうな声を漏らす。


「どんな手ぇ使いやがったか知らねえが、反則みてえな布陣で攻めてきやがって……! だが……こんな最上級のエサが2人同時に手に入るってんなら悪くねえ」


 追い詰められたはずのシグマが凶悪な笑みを浮かべた。

 

 刹那――ガギイイイイイイン!


 響き渡った激しい金属音に、僕とイリーナ獣騎士団長は「「な……!?」」と目を見開く。


 なぜなら拳士であるはずのシグマがいつの間にか片手に剣を握っていて――


 あり得ない……!

 聖騎士の魔力を纏わせた巨大不壊武器の一撃。

 そしてなにもかもを溶かし貫く灼熱男根の一撃を同時に防ぐなんて!


 いやそれより、もっとあり得ないのは……!


「なんだこの禍々しい魔力……!?」

「魔剣……いや呪剣の類いか!?」


 僕たちの攻撃を受け止めた謎の剣から滲み出るそのドス黒い魔力に、僕とイリーナさんの口から掠れた声が漏れる。


 アリシアが感じる「黒い霧と同質の気配」というのがなんなのか、僕にはわからない。けどおぞましいまでの力を秘めていることだけはわかるその魔剣を前に、全身から冷や汗が噴き出した。


 本能でわかる。アレはヤバイ。


 同時に脳裏をよぎるのは、シグマに爆破される直前に猪獣人の女性が漏らしていた言葉だ。


『あの剣を手にしてから、姐さんはおかしく――』


 だとしたらまさか、あの剣がシグマを凶行に走らせた元凶か!?


「……! イリーナさん! もう一度だ!」

「うむ!」


 僕とイリーナさんは体勢を立て直し、再び攻撃を仕掛けた。

 今度は当たり所がどうとかも考えない。

 これ以上なにかされる前に全力で無力化する!


「〈轟震脚〉!」

「男根剣・煌――百股!」


 魔法で補強された地下空間が崩落する危険を冒して敢行されるイリーナさんの突進。

 そして無数に枝分かれした灼熱の男根が四方八方からシグマを取り囲んだ。


 これなら防御も間に合わないはず! 


 だが――ガギギギギギギギギイン!


「甘い」

「っ!? まさか!?」


 僕たちの攻撃は、再びそのすべてが受け止められていた。

 シグマの握る魔剣が、僕の男根剣と同様瞬時に変形、枝分かれし、燃えさかる僕の男根とイリーナさんの突進を同時に受け止めていたのだ。


 しかもその魔剣の能力はそれだけに留まらない。


 ――へにょっ。

 

 魔剣によって受け止められた灼熱の男根剣が、ふっとその火力を激減させたのだ。

 さらには聖なる魔力を纏わせたイリーナさんの巨剣からもその輝きが減退する。


 力を吸い取られるような感覚を男根に感じ、僕とイリーナさんの顔から血の気が引いた。


「これってまさか……!?」

「こちらの魔力を吸っているのか!?」

「ご名答♪」


 魔力を吸われて萎びた男根を押し返すように、シグマが魔剣を振るう。

 変形した男根が押し返され、怪力を誇るはずのイリーナさんも容易に弾き飛ばされた。


 冗談じゃない……!


 僕たちの全力を難なく受け止め、男根剣のように変形し、こっちの魔力を吸ってスキルの威力を弱めてくる魔剣なんて――!


「そんなの反則じゃないか!?」

「はっ、てめえに言われたくねえなクソガキ!」


 あまりに強大かつ凶悪な魔剣の性能に歯がみする僕へ、シグマが荒々しい笑みを浮かべる。そこから先はほとんど一方的だった。

 

「さあ、実力差もわかったところで、オレの愛刀――鏖魔おうま剣の餌食になりな!」

「ぐっ、うううううううっ!?」


 男根剣のように変形する魔剣が、攻撃に転じた。

 伸縮自在の剣戟に僕とイリーナさんは速度と膂力でもって応じる。

 けど、


 ガガガガガギン! ごくんっ!


 剣がぶつかりあうたび、そこからごっそりと魔力を奪われる。

 剣に纏わせた魔力はおろか身体からも少しずつ魔力を吸われている感覚があり、一太刀ごとに身体が重くなっていくかのようだった。


 そして当然、シグマの武器は魔剣だけじゃない。


「おいどうしたイリーナ、動きが少し鈍ってるぜ? 魔力不足か?」

「ぐっ!? がああああああっ!?」


 ドゴオオオオオオオオオン!


「イリーナさん!?」


 巨大な爆発がイリーナさんを襲った。

 反則的な力を持つ魔剣でイリーナさんの攻撃を完封していたシグマが、安全圏から全力の爆破魔法をぶっ放したのだ。


「ぐ、うぅ……!」


 壁に叩きつけられたイリーナさんが苦悶の声を漏らす。

〈聖騎士〉の優秀な防御スキルと回復スキルでダメージは抑えているが、魔力を吸われてスキルの威力を下げられた結果、万全の防御とはいかなかったらしい。その足取りはかなり重い。


「ぐっ、男根剣!」

「はっ、まだ粘るかよ! 鏖魔おうま剣!」


 イリーナさんに追撃を仕掛けようとしたシグマを止めるべく男根を振るう。

 けどいくら精密に男根を操作させようと完璧に防がれ、一方的に魔力を奪われるだけだった。


 以前シスタークレアにもらった〈豪魔結晶〉の力により、僕の魔力効率はかなり高い。

 そのおかげでまだまともに戦えているけど……それはあくまで「戦えている」だけ。


 ボゴオオオオオオオン!


「うわああああっ!?」


 間合いの外から一方的に連発される爆破魔法に為す術無く吹き飛ばされる。

 アリシアの〈自動回復付与〉で身体は回復するも、突きつけられた戦力差に心は折れる寸前だった。


(くっ……!? どうすれば!? とにかく相手に攻撃を当てないと話にならない! 射精砲!? いやこの高速戦闘の中でシコる余裕なんてない! それにあの鏖魔おうま剣の変化速度を考えると、射精砲も防がれる可能性が高い!)


 最悪、現地妻を使えば全員ここから離脱はできる。

 けれどそうなればシグマは再び姿をくらまし、連邦を潰すための企みを続行するだろう。

 今回の遭遇は千載一遇のチャンスなのだ。


 けどあのとんでもない魔剣を突破して攻撃を当てる方法がない以上どうしようもない。

 

(せめてシグマの精密な魔剣操作を鈍らせるような手でもあれば……!)


 と、歯がみしていたそのときだ。


「……っ!」


 僕の脳裏に、うるさすぎるせいでまだ全力を試せていなかったの存在がよぎったのは。


 その全力がどんな威力を持つのかはいまだに不明。

 この状況を打破できるかどうか保証はない。

 けど、


「他に手がないなら一か八か――!」 


 せめてシグマの魔剣操作に少しでも隙を生んでくれれば……!

 そう強く願いながら、シグマに向けて突撃。


 あのスキルの発動を念じながらシグマの顔面めがけて男根剣を大きく振りかぶる。


「うおおおおおおおおっ!」

「はっ、何度やっても無駄だ! てめえの攻撃はこの鏖魔剣で全部防げるんだからなあ!」


 叩き込まれた僕の男根剣を、同等の速度で変化した鏖魔剣が余裕で迎え撃つ。

 が、衝突の直前――ぴたっ。


「っ!?」

 

 シグマの眼前で男根剣の動きがぴたりと止まる。

 そしてその瞬間――僕は男根にありったけの魔力を込めた。


「イっけええええええええ! 男根振動!」


 直後――ブイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


「は――? ぐああああああああっ!?」


 まるで空間を揺らし伝う防御不能の破壊衝撃波を食らったかのように、シグマの口から悲鳴が迸った。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 ブイイイイイイ! がうるさすぎて、多分悲鳴はちゃんと聞こえてないと思います。

 

 ※別名義で書いていた小説、「僕を成り上がらせようとする最強女師匠たちが育成方針を巡って修羅場」の投稿をはじめています。

 こっちは性格だけでなく能力も綺麗なショタが頑張る下ネタ成分ほぼ0のお話。それでもいいよという方はチェックしてみてください。序盤がかなり重いですが、それ以降は気持ちの良い展開の続くおねショタファンタジーです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る