第153話 現地妻との鉢合わせ
(鬼神シグマ……! 重要拠点に踏み込むにあたって警戒はしてたけど、まさかこんないきなり遭遇することになるなんて……!)
突如として現れた一連の事件の首謀者に、僕は強く男根を握りしめた。
事前に付与されていたのだろう爆破魔法によって瀕死の重傷を負った獣人たちを治療するアリシアとソフィアさんを庇うようにして、男根剣を構える。
そんな僕に、熊獣人の傑物シグマが値踏みするような鋭い視線を向けてくる。
「へぇ。オレの名を知ってるってこたぁ、まさかお前らが山間部の素材調達部隊を潰した〝未知の戦力〟か? このダンジョン都市に来るだろうとは思ってたが……昨日の今日でこのアジトまで突き止めるたぁ、どんな手ぇ使いやがった」
使ったのは手ではなくて男根だけど……などと余計なことを考える余裕もない。
目の前に立つ女性の放つ殺気も圧力も、あのコッコロを超える凶悪なものだったからだ。
「まあなんでもいい。とにかくガキだからって一切油断はできそうにねえな。……つーわけで、さっさと死んどけや」
「っ!」
ボッ!!
瞬間、ほとんど言葉をかわす間もなく、シグマの姿が爆音とともに掻き消えた。
足下を爆破させ、その加速でもって一気に肉薄してきたのだ。
固く握りしめられた拳が眼前に迫る。
「くっ――!」
僕はそれを〈淫魔〉の膂力で咄嗟に避けるのだけど、次の瞬間――ボゴオオオン!
「うわっ!?」
シグマの拳が、爆発した。
顔の横で爆炎が弾け、大きく吹き飛ばされる。
だがシグマの攻撃は当然、それだけじゃ終わらない。
「オラアアアアアアア!」
ドボボボボボボボボッ!
爆発する蹴りと拳のラッシュ。
爆煙が視界を塞ぎ、砕けた地面が石つぶてとなって襲いかかり、避けたと思った打撃から放たれる爆熱が肌を焦がす。
「――っ!」
その凄まじい猛攻に、僕は男根を振り回しながら歯がみした。
(事前に話には聞いてたけど……これが魔法も使えるっていう希少近接ギフト、〈爆炎魔拳士〉の戦闘か……!)
普通の魔法系ギフトと比べ、魔法の威力や範囲は一段落ちる。
けれど間違いなくレベル300を超えているだろうシグマの爆破魔法は威力もかなりのものになっており、上位近接ギフトの身体能力と組み合わせた際の攻撃性能は常軌を逸したものになっていた。
けれど――僕だって普通の〈ギフト〉じゃない。
「男根剣!」
魔法耐性のあるオリハルコンと、物理最強のアダマンタイト。
二つの材質を折り重ねた必殺の刃が、無数に枝分かれしてシグマを襲う。
「ああっ!? 魔剣か!?」
シグマが驚いたように目を見張る。
けど、
ドゴゴゴゴオオオオンッ!
シグマは膨大な魔力を纏った拳で男根剣を受け止めると同時に爆破。
一瞬で変化して四方八方から襲い来る男根も、爆破魔法の反動を利用した異次元の機動力で避けまくる。
くっ、やっぱり強い……!
王国最強戦士であるあのイリーナさんと互角というだけあり、挨拶代わりのゴリ押し男根だけで楽に勝てるような相手ではないようだった。やり方を変えないと。
と、僕がいきなり始まった戦闘の方針を切り替えるべく、牽制するように男根を振り回してシグマからいったん距離をとろうとしたとき。
「くく、あっはははははは!」
突如、シグマが激しく笑い出す。
まるでお目当ての宝石を見つけたかのように、僕を見つめてこう言うのだ。
「いいね、最高だ。このアジトを突き止めて突入してくるくらいだから期待はしてたが、予想外の強敵だお前は。……この国を、〈牙王連邦〉を救うための良い生贄になる」
「……!? この国を、救う……?」
「おうよ」
破壊を繰り返すテロリストの言葉に絶句する僕へ、シグマが口角をつり上げる。
そして彼女は語るのだ。
歪み、増幅された自らの
「オレはガキの頃に親をなくしてな。同じような境遇のヤツと集まって生きるためになんでもやってきた。いくら国がマシな統治をしてても、網からこぼれ落ちるヤツってのは出てくる。組織がでかくなっていく過程で、そんな孤児やはみ出し者も追加で拾ってやってな。国ともドンパチやりつつ居場所を作ってやって勢力を広げていった。けどそれはあくまでオレの勝手な自己満足で、拾ってやれる数にも限度があった。ダンジョンをはじめとした富も土地も有限で、オレの強さも無限じゃねえからな。けど、ある日気づいたんだ」
シグマの目が、狂気の色を帯びる。
「富が有限なら、周りから奪えばいい。周辺から奪う国になればいいってな」
「……っ!?」
「力を標榜し他国から富を奪う「強き王」がいれば、野垂れ死ぬヤツなんていなくなる。だから――全部壊す。全部殺す。いまある秩序と弱い王族をすべて破壊して、オレたちがこの国をおさめるんだ。そうして強さだけがものを言う侵略国家になれば……ここはきっと。もっと豊かで良い国になる……! なあ、お前もそう思うだろ?」
イカれている。
支離滅裂で、幼稚で、シグマの主張はなにもかもが破綻していた。
どう考えても正気じゃない。
けれどその極端に破滅的な主張と迷いのない瞳には、やはりどこか覚えがあった。
加えて、ある日を境にシグマがおかしくなったと主張する猪獣人の言葉から連想されるのは――と僕が改めてその仮説に至るとほぼ同時。
「エリオ……っ」
猪獣人たちの一命をなんとか取り留めたアリシアが、僕の仮説を裏付けるように掠れた声を漏らした。
「その人、ソフィアさんを操っていた黒い霧と……似た気配がする……!」
「やっぱりか……!」
「……っ」
〈神聖騎士〉の性質なのか。黒い霧の気配を誰よりも鋭敏に察知できるアリシアの言葉に僕は呻き、ソフィアさんが息を呑む。けどアリシアの言葉はそれだけに留まらなかった。
「……よく似てる。けど、なにかが違う。……ソフィアさんのときみたいに、遠くの誰かと繋がってる気配はない……けどそのぶん、ソフィアさんのときよりずっと強力で禍々しい、そんな気配……っ」
「なんだって……!?」
より詳細に黒い霧の気配を察知できるようになったらしいアリシアの言葉に僕は声を絞り出す。
もっと強力で禍々しい気配。
それはつまり、ソフィアさんを蝕んでいたあの黒い霧と同質で、なおかつもっと悪質な何かが他にあるってことなのか!?
それこそ、レベル300を超える国家最強クラスの戦士を蝕むほどの凶悪な何かが。
……いやけど、いまはそんなことを考えるだけ無駄か。
いずれにせよ、僕たちの眼前で破綻した王国論を語るシグマがソフィアさんと同じような状態なのは間違いない。
なら一連の事件は教会が裏でテロ組織を支援していた、どころの騒ぎではなく。
恐らくはテロ組織の発足からなにから、すべてが教会の陰謀だと思われた。
だとしたら……テロ組織の首魁であるシグマも、恐らくは僕たちが救うべき被害者だ。
「さて、なにをごちゃごちゃ言ってるのか知らねえが……お喋りも終わったところでそろそろ狩らせてもらうぞクソガキ!」
「っ!」
と、シグマが再び爆破で加速し迫ってきた。
自らが操られているとも知らず、身を案じる側近を爆破するほどに歪まされて。
爆破する四肢を使ってこちらに襲いかかってくる。
「……っ! ぐうぅ!」
普通、これだけ実力が拮抗している相手が殺す気できている以上、生け捕りなんて甘いことは言っていられない。
手加減なんてしていたらこっちが殺されてしまうからだ。
けど――、
「こんなときのために……事前に
「ああ?」
瞬間、僕はシグマの放った爆発の煙に紛れ込む。
そしていままでの戦闘で把握したシグマの呼吸の合間を見極め――もっとも相手の不意を突くだろうタイミングで全身に魔力を漲らせた。
「圧倒的な戦力差で一気に制圧する! ――現地妻!」
刹那、
「――数年前、非公式の
「っっ!? なっ!? がああああああああっ!?」
煙を突き破って現れたのは、成人男性の身の丈にも匹敵する二本の巨大な斬馬刃。
そしてそれを軽々と振り回す、身長2メドルを超える象獣人だ。
どこに潜伏しているかわからず、いつ王族の命を狙うかわからないことが一番の脅威だったシグマの居場所が確定したのなら、もう彼女が出撃を躊躇う理由はない。
僕のスキルで瞬間移動してきた〈牙王連邦〉最強の戦士、イリーナ獣騎士団長の強烈な一撃が、驚愕するシグマへと叩き込まれた。
―――――――――――――――――――――――――――――
イリーナ獣騎士団長にはアジト突入直前と、シグマ遭遇後に〈現地妻〉のテレパシー(性能は低い)で事前にワープの確認をとってます。なので全裸召喚とかトイレの最中召喚とかオナ中召喚とかの事故はないのです。残念です。
※告知ですが、12月17日にいよいよガガガ文庫様にて淫魔追放のイラストレーターさんが発表されます。それに伴いちょっとしたお知らせもあるので近況報告をお待ちください。
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