第146話 メスガキの村


 ダンジョン探索で栄える山間の村フードリアで盛大な歓待を受けたその夜。


 ドゴオオオオン!


「「ぎゃああああああっ!?」」


 宿に侵入し、僕たちに狼藉を働こうとした侵入者を男根で吹き飛ばす。

 宿の外壁が派手に吹き飛び、侵入者も落下して動かなくなるけど、知ったこっちゃなかった。


「アリシア、キャリーさんに回復魔法を」

「うん……〈ケアヒール〉」

「エ、エリオさん……!? それに皆さんも、私と一緒に薬を盛られた食事に手をつけていたはずなのにどうして……?」


 状態異常をも回復するアリシアの〈神聖騎士〉スキルで動けるようになったキャリーさんが目を丸くして起き上がる。その身体に麻痺以外の異常がないか確認しつつ、僕はキャリーさんに謝った。


「すみません。キャリーさんはもうお酒を飲んで理性が飛んでたから、詳しく話せなくて」


 そうして僕は、キャリーさんに宴席でのことを軽く説明した。


      *


「……エリオ、ちょっと……」

「……気になることが……」


 宴席でアリシアとソフィアさんが両脇から囁いてきたとき、2人は僕にこう続けた。


「確証はないんだけど……なんか、食事から変な気配がする……」

「……私も……普通の狼人ウェアウルフじゃあ気づかないくらいの……変な匂いが……」

「……なんだって?」


 それは恐らく、黒い霧の気配も探知する〈神聖騎士〉の特殊な危機感知能力。そして不本意なパワーアップが施されたソフィアさんの強力な嗅覚による感知だった。


 もとから鼠獣人の女の子パッチの言動に少し違和感を覚えていた僕は、そこで即座に食事の手を止める。なにより、この2人の言葉を僕が疑うわけがなかった。


 本当ならそこでパッチ達を問いただしてもよかったのだけど、


(シラを切られたら面倒だし、なにか裏があるなら尻尾を出させるのが手っ取り早い……)

 

 と判断。


 アリシアが食事にこっそり〈神聖浄化〉をかけ、さらにはトイレに行くと見せかけてアリシアとソフィアさんの口内に分身体ペペを忍ばせ、念入りに服毒の危険を排除。


 僕はさらに〈ヤリ部屋生成〉を応用して口に入れた食事を異空間送りにし、パッチたちの目を欺いたのだ。


 そして食事に毒が盛られてるなんてなにかのミスであるよう祈りながら寝たふりをしていたわけなのだけど――


「残念ながら、本当に村全体が敵だったみたいだ」


 いままでどこに潜んでいたのか。

 宿屋から見下ろす広場には、100人近いならず者が集まっていた。


 手に手に武器を持ち、僕たちを見て「おい薬が効いてねえぞ!?」「いいから仕留めろ! キーラ様に殺される!」と怒鳴り声をあげ、襲いかかってくる。


 僕たちに害をなそうとしているのは明白だった。だから、


「どういうことか知らないけど……それはとりあえず、全員倒してから教えてもらう!」

「……〈身体能力強化【極大】〉」

「……〈不可視パラダイス・子供達ロスト〉」

 

「「「「「ギャアアアアアアアアアアアアア!?」」」」」


 月明かりが照らす村に、ならず者たちの悲鳴が響き渡った。

 

      *


「な、なんなのよあの化物どもは!? 薬が効いてるはずでしょ!?」


 宿から離れた場所で今夜の襲撃を楽しむ予定だった〈強王派〉の幹部メスガ・キーラ(27歳)は青ざめた表情で叫んでいた。


 念には念をと展開しておいた部下およそ100人がボロ雑巾のように吹き飛んでいくのだから当然だ。

 

 先ほどまでの余裕はどこへやら。

 鼠獣人ということを差し引いても幼い身体を震わせ、愕然と目を見開く。


 そんな彼女の元へ、血相を変えた部下が駆け寄ってきた。


「た、大変ですキーラ様! 村を制圧、支配するための精鋭部隊がまるでゴミのように!」

「見ればわかるわよこの役立たずの雑魚オスがぁ!」

「ぎゃああ!? ありがとうございます!」


 蹴飛ばされて喜びの悲鳴をあげる部下。

 その部下をさらに足蹴にしつつ、キーラは怒鳴るように訊ねる。


「それで、いま何人殺られてるの!? 奴隷を長持ちさせるためにポーションは大量に用意してあるんだから、息があるヤツはそれ使ってすぐに戦線復帰させなさい! 数で押すのよ数で!」


 テロ組織のトップ、鬼神シグマから命じられた素材集めをこの村で続けるために。

 そして万が一の場合、自分だけでも逃げる時間を確保するために! とキーラは叫ぶ。


 だが周辺感知に優れた〈レンジャー〉の部下からもたらされたのは予想外の報告だった。


「そ、それが、まだ1人も殺られてません。全員峰打ちのようで……」

「はあ!?」


 それはつまり、あのガキどもはいま手加減をしているということで。

 それで精鋭100人を一方的に蹂躙しているのかとキーラはさらに戦慄を深める。

 だが次の瞬間――絶望的な報告を聞いたはずのキーラの表情が「ニヤァ」と歪んだ。


「……へー、そっか。つまりあいつら全員、底抜けのお人好しってことかぁ」


 そしてキーラは意地の悪い笑みを浮かべながら、自らが支配する男たちへ命令を叫んだ。


「ダンジョン探索のために飼ってる私の奴隷ども! 全員、残業の時間よ!」


      *


「「「「ギャアアアアアアアアアアア!?」」」」


 僕たちを襲ったならず者の悲鳴が響き続ける。

 

 非戦闘員のキャリーさんを守りつつ、相手が死なないよう手加減しての戦闘は多少手間がかかる。けどレベル330の〈淫魔〉、レベル130の〈神聖騎士〉、そして気配を消した高速戦闘を行うソフィアさんの手によって、僕たちは一方的に敵を潰していった。


 が、そのとき。


「撤退! 撤退だー!」


 気絶した人たちを残し、ならず者たちが蜘蛛の子を散らすように引いていく。

 さすがに数で押すだけではどうしようもないと判断したのだろう。

 けど逃がす気はない。


「……〈周辺探知〉」


 個人を判別する力はないけど、広範囲にわたって他者の気配を感知できるアリシアのスキルが発動。1人も逃がすもんかと僕たちは闇夜を駆け出した。が、その直後。


「……なにか、来る? ……っ!?」


 ならず者たちと入れ替わりにこちらを取り囲んだ影に、僕らは思わずぎょっとしていた。

 

 なぜならそれは、ゴツい首輪をつけられたボロボロの男たちだったからだ。


「いてぇ、いてえよぉ!」

「今日のぶんの回復ポーションはまだなのに、なんでまた……!」

「ダンジョン探索だけでボロボロだってのに、これ以上はやめてくれえ!」


「なんだ……!?」


 男たちは苦痛に顔を歪めながら、しかし全力で僕たちに襲いかかってくる。

 反撃しようにも、気絶させるための一撃を叩き込むだけで致命傷になってしまいそうな人ばかりで。


 まさかこれは、と僕たちが嫌な予感に駆られていたところ、


「助けてくれぇ!」

「すまねぇ! この村に立ち寄った冒険者や元々の住人は全員あの鼠獣人のクソガキに……〈強王派〉の大幹部メスガ・キーラにダンジョン探索の駒として支配されてて逆らえねえんだ!」

「あの女……俺たちを騙して奴隷の首輪なんてハメやがって……!」


「……っ!」


 やっぱり……!

 襲撃者たちが僕たちに隷属の首輪をハメようとしてたから予想はしてたけど、村人や冒険者が奴隷にされてる……!


 しかもあのパッチが〈強王派〉の幹部で、この人たちに無茶なダンジョン探索をさせているらしいと聞いて僕たちは男根を握る手に力を込めた。


 この人たちは純然たる被害者。

 なら傷つけるわけにはいかない。


 そして僕たちが彼らを可能な限り穏便に拘束しようと戦術を切り替えた――そのときだった。


「魔法部隊! 放てええええええええええええええ!」


「な……!?」


 僕たちを取り囲む奴隷をも巻き込むようにして――周囲から一斉に強大な魔力が弾けた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 名前に反して意外と強敵。

 次回淫魔追放第147話「メスガ・キーラをわからせる」


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