第147話 メスガ・キーラをわからせる

 テロ集団〈強王派〉の幹部メスガ・キーラに隷属させられていたボロボロの村人たちに囲まれ、どうにか彼らを傷つけず拘束しようと必死に男根を振り回していたそのとき。


「魔法部隊! 放てええええええええええええええ!」


「な……!?」


 僕たちだけでなく奴隷まで巻き込むようにして、周囲から一斉に強大な魔力が弾けた。


 魔法攻撃。


 火炎、水、土など、様々な属性の巨大な魔力の塊が四方八方から襲いかかる。


「ぐっ……!? どこまで非道なんだ! オリハル男根!」

「〈神聖堅守〉……!」


 強い魔法耐性を持つ金属、オリハルコンに変化させた巨根盾とアリシアの防御スキルで魔法自体はどうにか防ぐことができる。


 けど問題は間断なく放たれる魔法の数と――魔法で狙われているにもかかわらず僕たちに襲いかかってくる奴隷の人たちだった。


(くっ……! こっちに全力攻撃を仕掛けてくる人たちを庇いながら魔法を完全防御するなんて、いくらなんでも無理がある……!)

 

 僕のオリハル男根とアリシアの防御スキルがいくら優秀でも、こちらに襲いかかってくるたくさんの人たちを魔法攻撃から庇うのは2人がかりでギリギリ。


 恐らく敵側には魔力回復ポーションもあるだろうし、持久戦に持ち込めば奴隷の人たちの体力がもたないだろうと思われた。


 奴隷の人たちを魔法攻撃から確実に守り、なおかつ反撃に転じる手も一応なくはない。

 気配を消せるソフィアさんに頼んで砲撃部隊を潰すなど、手段はいくつか考えられる。


 けど村の人たちが強力な隷属状態にある以上、ある程度時間のかかるそれらの手段には捨て置けない懸念があった。


 だから僕は必死に魔法砲撃から奴隷の人たちを守りつつ――、


「ソフィアさん、お願いがあります!」


 いままさに砲撃部隊への襲撃を仕掛けようとしていた狼人ウェアウルフのソフィアさんに、僕は別の作戦を頼んでいた。


      *


「きゃははははは! 雑魚雑魚ザ~コ! 頭よわよわバカ冒険者~❤ 誰も死なせない信念とか寒すぎてキモ~い! そんな甘っちょろいこと言っていいのは〈ギフト〉を授かるまでだよねええええ!」


 戦闘が繰り広げられる広場から適度に離れた村一番の豪邸。その屋上にて。

 魔法の集中砲火を食らうエリオたちを遠方より眺めつつ、メスガ・キーラはニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべていた。


 あの手の正義漢は本気で綺麗事を貫こうとするし、もし信念が折れるとしても命の危機が迫ったギリギリのときだけ。その段階になればいくらあの化物どもでも疲弊しきっているだろうし、そうなったら改めて数の暴力で押しつぶしてやる算段だった。


「きゃはははは! こっちには魔力回復ポーションもたっぷりあるし、これでほぼ勝ち確定よ!」


 と、メスガ・キーラが部下や奴隷を足蹴にしつつ満足気に高笑いしていた、そのときだった。


 ざわっ――!


 凄まじい殺気がメスガ・キーラの背後で爆発したのは。


「……見つけた」


 それは、気配を完全遮断する〈不可視パラダイス・子供達ロスト〉で闇夜に紛れ、狼人ウェアウルフの嗅覚で村の支配者メスガ・キーラの居場所を特定したソフィアだった。


 攻撃の瞬間まで気配を消せるわけではないので、奇襲は直前で気づかれる。

 しかしその凄まじい速度の攻撃を至近距離の不意打ちで防げる者などほぼいない。


 メスガ・キーラを守るように立っていた数人のならず者が瞬時に切り伏せらる。


「……すべての奴隷を操るあなたを倒せば……私たちの勝ちです……!」


 そしてソフィアの握る短刀がメスガ・キーラの首に峰打ちを打ち込んだ。

 だが――ガギィン!


「っ!?」


 響く金属音。弾かれた攻撃にソフィアの顔が驚愕に歪む。

 しかし怯まず、ソフィアは即座に追撃を叩き込んだ。

 だが、


 ガガガガガギン!


 すべての攻撃が防がれ、ソフィアは目を見開く。

 直後、


「……!? あんた、いつの間に……!?」


 ソフィアと同じかそれ以上に目を見開いたメスガ・キーラが驚愕の声を漏らす。

 だがその表情はすぐに勝ち誇ったものに変わった。


「……きひっ、きゃはははははは! 残念! 残念だったわね! どうやったか知らないけど、砲撃包囲網から抜け出して私を倒せば一発逆転だと思ってたぁ!? けど残念、私には上から支給されたこの至高の魔道具があんのよ! 自動防御の魔鎧がねえ!」


 叫ぶメスガ・キーラが服の下に纏うのは、魔力によって自在に形を変える特殊防具だ。その絶対的な防御に信を置くように、メスガ・キーラは剣を抜き放った。防御など無視した全力の抜刀だ。


「……っ!」


 奇襲を防がれ僅かにバランスを崩していたソフィアは反射的に距離を取る。

 が、その直後。


 ソフィアの視界を、大量の水が埋め尽くした。

 目を見開くソフィアに、メスガ・キーラが叫ぶ。


「剣と鎧の装備を見て私の〈ギフト〉を見誤ったわねえ!? バーカ! 私はレベル200の〈水撃魔導師〉だ死ねえええええ!」


 無詠唱で放たれる凄まじい水撃。

 屋上を埋め尽くすような範囲攻撃にソフィアの華奢な身体が飲み込まれた。


「……はっ。どこまでバケモンなのよあんたら」


 と、魔法を放ったメスガ・キーラが半ば呆れたように言う。

 彼女の目の前では、かろうじて水魔法の直撃を逃れたソフィアがいまだ鋭い目でキーラを睨んでいたのだ。


 だが――さすがに完全回避はできなかったのだろう。

 ソフィアは足を引きずっており、再度攻撃を仕掛けてくる気配はない。

 その様子を見て、今度こそメスガ・キーラは勝ち誇る。


「きゃはははは! 作戦失敗ね!? それで? 次はどうするの? 見ての通り私にはあんたの攻撃は通じないし、その足じゃもう魔法を避けられないでしょ! 下に控えてる部下もすぐ駆けつける。もうあんたに手なんてないんだけどぉ!?」


「……構いません」


 が、盛大に勝ち誇るメスガ・キーラに対してソフィアの目はまるで死んでいなかった。


「仕留められれば最善だったけど……私の任務は村の人たちを守るために全力を尽くすエリオたちに代わって司令塔あなたを探しだし、その〈ギフト〉や魔道具の力を探ることでしたから……」


 直後――アオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 ソフィアが月に向かって遠吠えを響かせた

 それは広い村全体に響くような大声で、メスガ・キーラは「なんの合図!?」と一瞬目を剥く。だがすぐに冷静さを取り戻し、


「はっ、悪あがき? それともハッタリ? いくら合図したってあのお人好しどもは奴隷を守って動けないし、仮に見捨てる選択肢をとったところで逃げる時間なんて十分に――」 


 と広場の戦闘に目をやったところ――メスガ・キーラの視線の先で意味のわからないことが起こった。


 エリオたちを囲んでいるはずの奴隷たちが……次々と姿を消していくのだ。

 それはまるで


「…………………………は?」


 さらには闇夜に紛れているはずの砲撃部隊もまるで居場所が完全に割れているかのように襲撃を受けており、次々と悲鳴をあげて沈黙していく。

 メスガ・キーラがあまりの意味不明さに固まっていたそのとき。


 彼女の身体が、いきなりなにかに拘束された。


 生暖かく脈打つそれはしかし一瞬で鋼のように堅くなり、自動防御が発動する間もなく口まで防がれる。


「んー!? んんんんんん!?(は!? なんで!? なにが!? 自動防御は!?)」


 あまりにも突然のことにメスガ・キーラはパニックに陥る。

 そしてその混乱は、いきなりソフィアの隣に出現していたその人物によってさらに加速した。


「やっぱり。いくら自動防御でも、素肌に這い寄る男根の瞬間拘束にまでは対処できないですよね」


 安堵したような声を漏らすのは――数瞬前まで広場にいたはずのエリオだったのだ。


「ごめんなさいソフィアさん。無理をさせちゃって。これ、回復用のポーションです」

「……ありがとう」

「んんんん!?(なんであんたがここにいんのよ!?)」


 ソフィアと言葉を交わすエリオに、メスガ・キーラは口を塞がれているのも構わず叫ぶ。


 そんな彼女の声が通じたわけではないだろうが、エリオは階下から駆け上がってくる〈強王派〉構成員の進路を男根で塞ぎながら独り言のように口を開いた。


「――いまの僕のレベルなら、奴隷にされた人たちを速攻で全員〈ヤリ部屋〉に引きずりこんで魔法攻撃から守るのは、そう難しくなかったんです」


「んんんん!?(はあ!? ヤリ部屋!?)」


「問題は、腹いせや脅迫目的でヤリ部屋に逃がした人たちに自死の命令を出される可能性でした。奴隷を異空間に逃がしたあとに主人であるあなたを探してたら、その間に奴隷を殺されるかもしれなかった。だから命令を下す間もなく即座にあなたを捕らえる必要があったんですが……うまくいってよかった」


 言って、エリオが笑みを浮かべる。

 しかしその笑みには珍しく怒気が滲んでいて。

 ソフィアの怪我、そしてメスガ・キーラが村の者たちにした仕打ちに拳を握りながらエリオは続ける。


「それとこれは個人的な懸念だったんですけど……ヤリ部屋に入れた人を外に出すには、中で仲良しをしなくちゃいけないんです。しかもこのスキル、空間はバカみたいに広いのに声は響くっていう。僕の大切な人たちのそういう声を、他の人に聞かせたくないじゃないですか。それで使用を躊躇ってた部分もあったんですけど……そんな心配しなくていいってすぐ気づいたんです。だって、あなたがいるから」

「んんんんん!?(はあ!? マジでお前さっきからなに言ってんの!? イカれてんの!?)」


「僕も本当は、外見の幼いあなたにこんなことしたくないんですけど……奴隷にされた人たちをヤリ部屋から出さないとですし、色々と事情聴取しないとですし……罪を償うと思って、しっかり仲良くしましょうね?」


「んんんんんんんんん!? んんんんんんんんん❤❤❤!?(あんたさっきからマジでなに言って!? ……は!? なにこの空間!? っ!? ちょっ、なんで下を脱いで!? ちょっ、触るんじゃねえ! あんたみたいなオスガキなんかが私の初めてを――おごおおおおおっ❤❤❤!?)


 そうして。


 アリシアが砲撃部隊をすべて撃破し、建物に残っていた〈強王派〉の構成員もすべて撃破して安全を確保したあと。エリオはヤリ部屋にメスガ・キーラを引きずりこみ、己が無力なメスに過ぎないとたっぷりわからせるのだった。




 エリオ・スカーレット 14歳 ヒューマン 〈淫魔〉レベル330


 新スキル――男根振動Lv1



 ―――――――――――――――――――――――――――――

 ちょっと今回文字数が多くなってしまったので、ステータスは簡易表記に。

 メスガ・キーラ、書いてて楽しい言動のキャラでした(過去形)

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