第137話 男根の海に飲まれて


 シスタークレアのお告げにあったその場所は、深い霧に包まれた森だった。


 僕は冒険者の嗜みとして方角を確認するための装備を幾つか身に付けているけど、それでも気を抜けば迷ってしまいそうなエリアだ。


「……あった。人の気配」


 森に到着してすぐ〈現地妻〉で召喚したアリシアが、広範囲の〈気配探知〉によって古い建物を発見した。どうやら地下室があるようで、そこに複数の人の気配があるらしい。


 間違いない。首都レイセントでモンスターテロを起こした犯人たちと、その騒ぎの中で誘拐された王妹殿下だ。


「……どうするエリオ。狭い室内での戦闘だとお姫様を巻き込む可能性があるし……気配を消せるソフィアさんを呼んで……潜入してもらう?」

「……いや」


 アリシアの提案に、僕は首を横に振っていた。

 

「ソフィアさんのスキルはあくまで気配消失だから、狭い室内だと視覚的に見つかる可能性がある。それに誘拐犯はまだ〈異次元殻〉を持ってるだろうから、もし一瞬でも倒すのが遅れてそれが暴発でもしたら王妹殿下が巻き込まれるかも」


 なので僕は、触れてもわからないほどに男根を細かく枝分かれさせた。


「索敵男根」


 地下室への入り口に極細の男根を無数に入り込ませ、中を舐め回すように探る。すると……見えた。


(地下牢みたいな構造。犯人らしき人が4人と、檻の中で拘束されてる人が1人。この人が王妹殿下で間違いない)


 と僕が内部の構造を把握すると同時に、なにやら怪しい気配がする。

 どうやら犯人グループの1人が興奮したような手つきで檻を開けようとしているようなのだ。


 お姫様が危ない!? と焦るけど、慌てちゃいけない。


 僕は再び男根に全神経を集中させた。そして、


「肉膨脹!」


 地下室に張り巡らせていた男根を、一気に変化させた。


 ボンッ! 瞬時に膨れ上がった肉の棒が瞬く間に狭い地下室を埋め尽くす。


「「「「なんっ!? ~~~~っ!?!?!?」」」」と男根に飲み込まれた犯人たちの声にならない悲鳴が男根を震わせて微妙な気持ちよさが伝わってくるけど……それも無視して一気に締め上げた。


 もちろんお姫様のいる牢のほうには男根肉塊が押し寄せないよう範囲は調整してある。


 男根に飲み込まれたテロリストたちが完全に動きを止めたことを確認し、僕はさらに男根を変化させる。犯人たちが呼吸できるよう男根を縮小。最低限のアダマンタイト男根で犯人たちの全身をガチガチに拘束した(魔法も使えないよう、オリハルコンを混ぜることも忘れない)。


 そして再び人が入れるようになった地下室へ、僕とアリシアは一気に踏み込む。


「大丈夫ですか王妹殿下!」

「あ、あなた方は……!?」


 突入した僕たちを見て、地下牢に監禁されていた少女が目を見開く。

 白い肌と大きめの耳が特徴的な象獣人の美少女。間違いない。姫様だ。

 落ちていた鍵で檻を開け、すぐに拘束を解く。


「助けに来ました! お怪我はありませんか!?」

「え、ええ。なんとか」

 

 驚愕覚めやらぬ様子でそう漏らす姫様はパレードでちらりと拝見したときとほとんど変わらない様子で、僕はほっと胸をなで下ろす。


「そうですか……! 本当に良かった、無事で……」

「……っ、あなたは獣人でもないのに、本気の本気でそれを言って……」

「え?」


 と、心底安心した僕の顔を見てなにやら目を見張る姫様を不思議に思っていたところ、


「な、なんなんだてめえら!? ヒューマンのガキ!?」


 息ができるよう首から上を自由にしていた誘拐犯が声を張り上げる。

 中でもリーダー格らしき猫獣人の女性は凄まじい目つきで僕を睨みつけ、


「ふ、ざけやがって……! けど調子に乗ってられんのも今のうちだ! すぐにあの方が来て、てめえらなんざ軽くぶっ殺されて終わりだ! そうすりゃその姫様は今度こそ私の慰みも――」

「ヤリ部屋生成」


 聞くに耐えない暴言が姫様の耳に届かないよう、僕は彼女たちを拘束したまま即座に異次元送りにした。運ぶのに邪魔だし、あとでじっくり仲良くなって、たっぷりお話を聞く必要があるからね……。


 そうして僕は犯人を完全に無力化する。

 けど、まだまったく気は抜けなかった。

 

「犯人たちの口ぶりからして、人質を護送するための強力な援軍がもうすぐ近くまで来てるみたいだ。〈異次元殻〉にアレだけのモンスターを詰め込めるなんて、敵方にも相当な手練れがいるのは間違いない。姫様、バタバタして申し訳ありませんが、いますぐここを離れましょう」

「は、はい」

「……じゃあ姫様……私の後ろに」


 アリシアに姫様を任せ、僕が先頭になって地上への階段を慎重に上がっていく。


〈神聖騎士〉のアリシアが〈周辺探知〉を全力で発動させているから大丈夫だとは思うけど、念には念を入れてだ(本当は「セッ〇スしないと出られない部屋」を使うのが確実なのだけど、テロリストと姫様をあんな部屋に一緒に入れるのはちょっと色々まずいからね……)。


 そうして一足先に地上へと辿り着いた僕が足音を殺してゆっくりと建物の扉を開けた……そのときだった。


「っ!? 待ってエリオ、なにか変な感じが……っ」

「え」


 まだ地下に身を潜めていたアリシアが小さく漏らした――直後。


 

 



「……!?」


 瞬間――ゾワッッッ!!


 全身の毛が逆立ち、冷や汗が噴き出した。

 

 フード付きローブで全身を覆った不気味な巨女。

 その圧倒的な存在感にもかかわらずアリシアの〈周辺探知〉をギリギリまでかいくぐってきたらしい異常性。


 そしてなにより……フードの底で光る鋭い瞳から発せられる異常な殺意と威圧感は僕がこれまで相対した戦士たちのなかでも頭抜けていて――。


「……っ!」


 殺される!?

 叩きつけられるドス黒い殺意に、僕はほとんど反射的に男根剣を握る手に力を込めた――刹那。


 ドッッッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


「は――!?」


 その巨女が発した斬撃を本当にギリギリのところでガードした僕の身体ごと、地下室を擁する建物が粉々に吹き飛んでいた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 ※賢明な読者の皆様方はもうお気づきかと思いますが、前回のお話で急に長さの単位を出しはじめたのは巨女さんの身長をシンプルに描写したかったからです。すべてがでかい女性、好き。

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