第138話 〈淫魔〉VS巨女


 攫われた〈牙王連邦〉の王妹殿下を救出し、犯人たちのアジトから脱出しようとしたとき。


〈神聖騎士〉アリシアの周辺探知スキルにギリギリまで察知されることなく近づいていたらしい2メドルを超える巨女が、僕の前に立ち塞がっていた。


「……!?」

 

 フード付きのローブに身を包んだその女性から発されるのは、あの十三聖剣コッコロをも超える濃密な殺気と威圧感。そのプレッシャーに全身の毛を逆立たせた僕がほとんど反射的に男根剣を強く握った――刹那。


 ドッッッッゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


「は――!?」


 凄まじい衝撃が僕を襲った。

 身長2メドル超の巨女が、巨大な剣を振るったのだ。

 ギリギリのところで防御する。


 けど〈異性特攻〉が効いているはずの僕でもふんばりがきかず――テロリストたちが根城にしていた廃屋ごとまとめて吹き飛ばされた。

 あまりの衝撃に、ガードした男根剣がビリビリ震える。


(な――んだこの怪物は!?)


 頭を疑問符が埋め尽くす。


 けどこのタイミングで現れていきなり攻撃を仕掛けてくる相手。そしてこの異常な戦闘力からして、考えられる可能性はひとつ。テロリストが「あの方」と呼んでいた王妹殿下の引き渡し相手にまず間違いなかった。


(ぐっ、まさかここまでの手練れが控えていたなんて……!)


 お姫様をテロリストと一緒に「セッ〇スしないと出られない部屋」なんかに入れるわけにはいかないという良識に囚われて判断を誤った!


「……っ! 2人は隠れてて!」

「エリオ……っ」


 あまりの余裕のなさに、僕はまだ地下牢のほうにいたため巻き込まれず済んだアリシアと王妹殿下へ端的な指示を飛ばす。


 と同時に――ずがん!


 硬くそそり立った男根剣を地面に突き立ててこれ以上吹き飛ばされないようにし、そのまま反動を利用して巨女へと突っ込んだ。


「……! それがしの一撃に耐えるか、しかし!」


 瞬間、巨女がローブの下からさらにもう一本の巨大な剣を引き抜く。

 僕の身長ほどもある巨剣、斬馬刀を用いた頭のおかしい二刀流だ。


「この一撃には耐えられまい――〈剣戟聖強化〉!」

「な……!?」


 ブオン!

 凄まじい質量を持った巨刀が避けきれない速度で迫る。

 けどそのプレッシャー以上に僕を驚かせたのは、巨女が剣にまとわせたそのな魔力だった。


 瞬間、脳裏をよぎるのは僕の男根を叩き折った〈聖騎士〉コッコロの強力な一撃。


「ぐっ!? マンコンの盾!」


 僕はほとんど反射的に最強の盾を顕現させていた。

 物理最強のアダマンタイト男根と、強力な魔法耐性を誇るオリハルコン男根を織り交ぜた複合盾だ。けど、

 

 ドゴォ!!


「……っ!」


 予想通り、僕がいま出せる最強の盾が真正面からぶち破られる。


 最初から受け流すようにしてガードしていなければ、コッコロ戦のときのように僕の身体は盾ごと叩き切られていただろう。


 九死に一生を得ると同時、巨女から距離を取った僕の背中に冷や汗が噴き出す。

 


(マンコンの盾を真正面から砕く神聖な魔力と、斬馬刀タイプの巨大な不壊武器――この人、〈〉か……!?)


 それも恐らく、十三聖剣第6位のコッコロ・アナルスキー以上の手練れ……!

 だとしたらまさかこの人は、教会の刺客!?

 

 そうして僕がさらに焦燥を強めるなか――巨女の猛攻はとまらない。


「スキルを用いたそれがしの攻撃を防ぐとはなんという手練れ……! これはもう生け捕りなど考えないほうがよさそうだ――〈轟震脚〉!」


 巨女がそう呟いた瞬間――ズッッドゴオオオオオオン!


「な――!?」


 凄まじい勢いで地面が揺れた。

 巨女があり得ない威力で地面を踏み鳴らしたのだ。

 そしてその異常な踏み込みによって生じた凄まじい速度で突っ込んでくる!


 突然の人工地震に大きくバランスを崩すと同時、そこに突っ込んでくる巨大質量。

 普通ならそこで確実に試合終了だ。けど、


「く――!? 男根剣!」


 僕は股間から伸びる伸縮自在の武器を利用し、バランスが崩れた状態でもかろうじて攻撃を避ける。だが、


「面妖な武器を! だが無駄だ! 〈轟震脚〉無双陣!」

「っ!?」


 ズ――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!

 

 地面を大きく揺らす〈轟震脚〉の容赦ない連打。

 一撃でも食らえば終わりの恐ろしい突進攻撃が四方八方から襲いかかってきた。


(ぐ――!? なんてデタラメな!?)

 

 突進の進路上に尖った男根を設置しても巨大聖剣で叩き伏せられ無効化。


 男根剣の機動力と防御力を用いてギリギリいなすが、この異常なパワーと真っ向からぶつかり続けては確実にジリ貧。さらには戦いの余波で地下のアリシアたちが生き埋めになる恐れもあった。


 そこで僕は一か八か、敵の隙を作るための最低な賭けに出ることにした。


 周囲一帯に触れてもわからないほど枝分かれした男根を広げる。

 そして息継ぎに一瞬だけ足を止めた巨女の眼前で、


「肉膨脹!」


 その技を発動させた。

 途端、巨女の周囲に張り巡らされていた極細男根が膨脹。

 

 巨女の眼前に、雄々しくそそり立った戦闘態勢の巨根が一斉に出現した。

 

 その瞬間、


「っ!? きゃあああああ!?」


 巨女がフードの下で目を見開き、少女のような悲鳴を上げる。

 よし! 考え得る限り最悪の手段だったけど、とにかく狙い通り隙ができた!

 

 僕はその隙を突いて一気に攻撃を叩き込もうと全力で走る。

 だけど、


「……っ! ぐ、な、なんの真似だああ! 汚らわしい!」


 ズガガガガガガガガッ!


「なっ!?」


 驚くべきことに。

 巨女は大きく動揺していたにもかかわらず一瞬で精神を立て直し、目の前で突如咲き乱れた巨根をすべて叩き斬った。当然、生じたと思った隙は瞬時に消える。


(くっ!? この対応力、スキルや戦闘力だけじゃなくて精神力も相当な実力者ってことか――!)


「セッ〇スしないと出られない部屋」に引きずり込む隙はなく、アリシアたちのもとへ走る余裕もない。

 

 だったらもう――この人から王妹殿下を守るには、命のやりとりをする他にない。

 

「男根剣――煌」

「っ!」


 途端、僕の男根剣が凄まじい熱を纏った。

 あらゆるものを溶かし破壊する魔力の炎。

 十三聖剣コッコロの防御も容易く貫通した、僕の最大攻撃だ。


 瞬間、フードをかぶった巨女の雰囲気が如実に変化した。

 少しだけ見える素肌に一筋の汗を流し、ピリピリと緊張した空気を纏う。


「まさかこれほどの化物とは……だがそれがしは命に代えても使命をまっとうする。絶対にだ」

「それはこっちのセリフだ……!」


 もし勝てなくても、せめてアリシアと王妹殿下が逃げる隙くらい作ってやる。

 全力の魔力で周囲の霧が吹き飛ぶほどの熱を発動。自由自在にかたちを変える男根剣・煌で斬りかかろうとまなじりを釣り上げた――そのときだった。


「双方、剣をおさめい!」


 完全な殺し合いの場に、その妙な声が響き渡ったのは。

 え、と驚いて振り返れば、


「っ!? ちょっ、王妹殿下!?」


 そこに立っていたのは、地下に隠れているはずの姫様だった。

 なんだかとても困惑しているアリシアに付き添われるように地下から出てきていて、僕はひたすら驚愕する。


 というか王妹殿下、なんか口調がおかしくない? と思っていれば――おかしいのは口調だけじゃなかった。

 

 その姿がみるみるうちに変化していくのだ。


 真っ白な肌が特徴的な象獣人から、健康的な褐色肌が特徴的な象獣人へと。

 それは僕とアリシアよりも幼く見える象獣人の女性で。

 僕がその変化に呆気にとられていたそのとき。


「ご無事でしたか! アイラ女王!」


 僕と殺し合いをしていた巨女が、いきなり武器を置いて跪いた。

 と同時にローブを脱げば、その下から出てきたのは象獣人の特徴である大きな耳と――〈牙王連邦〉国家騎士団の立派な鎧。


 ……え?


「うむ。いまお主が殺そうとしておったこの者らが助けてくれてな。だから喧嘩はやめい、〈牙王連邦〉最強の戦士、イリーナ獣騎士団長よ。お主しかあり得ぬデタラメな戦闘音のおかげで誤解が生じていると早めに気づけてよかったのじゃ。ガハハ!」

 

 え? え?


 ちょ、ちょっと待って。アイラって、〈牙王連邦〉の女王様の名前だよね?

 それにこの、胸もお尻も大きい美人の巨女さんが連邦最強の戦士って……え?


「ちょ、え、どういうことなんですか!?」


 王妹殿下だと思っていた少女が、建国祭の習わしで王都を離れているはずの女王様本人で。敵だと思っていた聖騎士が同じく王都を留守にしているはずの国家騎士団長で。


 あまりにわけのわからない事態に、僕はもう全力で叫んでいた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 一見頭がおかしく見えますが、エリオ君は勝つために最善を尽くしているだけです。

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