第129話 淫魔の天敵
街の冒険者やギルド職員たちが次々と昏睡状態に陥る怪事件。
その解決のために夜回りをしていた僕たちは、そこで信じられないものに遭遇した。
「あはぁ……❤」
気弱で可憐なはずの受付嬢、ミルコレット・バーニーさんが、怪物のような気配を纏って僕たちの前に立ちはだかったのだ。痴女みたいな姿で。
さらにおかしいのは、バーニーさんの様子だけじゃない。
「「ぐ……っ!?」」
彼女と遭遇し武器を抜いた途端、僕たち全員にドレイン攻撃が発動したのだ。
しかもそれは対象と触れてもいないにもかかわらず、夜の体力お化けであるアリシアがふらつくレベルの異常に強力なドレインで。
(レベル300を超えた淫魔の生命力が膨大なおかげか、僕への影響はあまりないけど……こんな強力なドレインって……!?)
と、僕らがあまりの事態に面食らっていると、
「ああもう……うざったい、うざったいよぉ……!」
ヒステリックな様子でバーニーさんが叫んだ。
「毎日毎日毎日毎日毎日……! 私が大人しくしてればどいつもこいつもつけあがって……! ストレスが溜まって溜まって仕方ないんだよこっちはぁ……! だから全員、一人残らずぶちのめして、平和に働けるようにしたかっただけなのに……それなのにせっかく会えた優しい冒険者の子たちも私に武器を抜いてぇ……! だったらもう、全員吸い尽くすしかないよねぇ……!」
そしてバーニーさんは僕らに目を向け、不思議そうに首を傾げる。
「なのに、おかしいなぁ、すぐに吸い尽くせるはずなのに。吸い尽くしたら、おねんねしてずっと私の糧になるはずなのに……君たちはなんでまだ立ってるのかなぁ……?」
「……っ!」
目を爛々と輝かせ、怪事件の犯人が自分だと自白するように言葉を連ねるバーニーさん。
その言動は明らかに正気じゃない。
黒い感情に飲み込まれたような様子に、普通の〈ギフト〉ではあり得ない規格外のドレイン能力。
そんな彼女を見て真っ先に連想するのは、教会の黒い霧に憎悪を煽られ操られていたソフィアさんだ。けれど、
「……っ、黒い気配は……なにも感じない……っ!?」
ソフィアさんに取り憑いていた黒霧の存在を早い段階で感知した〈神聖騎士〉アリシアいわく、そんな怪しい気配はないとのことだった。
だとしたら――
(考えられる可能性はひとつ……ストレスによる
そしてユニークスキルとは、〈ギフト〉とは別に授かることのある先天的な特殊スキルのことだ。
けどユニークスキルというのはマジックアイテムや過度の精神負荷などが原因で後天的に目覚める場合もあり、いきなり強い力が開化すると制御できずに暴走してしまう場合が極希にあった。特に、強いストレスを溜め込んでしまった際に。
そして暴走したユニークスキルは、往々にしてとてつもない威力を発揮する。
そこに狂化の性質まで加われば、この異常なドレインスキルの強さも頷けた。
けどだとしたら、一刻も早くバーニーさんを止めないといけない。
(暴走したユニークスキルが高い威力を発揮するのは、制御を失ったスキルが使用者の命を削っているせいなんだから……!)
街の冒険者が次々と昏睡状態となる怪事件が発生したのは、およそ3週間前。
恐らくこのまま放置した場合、そう遠くないうちにバーニーさんは死んでしまう。
悪いのは彼女に突如芽生えたのだろう強力なユニークスキルと、彼女にスキルが暴走するほどのストレスを溜め込ませた周囲の環境なのに……!
「アリシア! ソフィアさん! 2人は下がってて!」
「う、うん……っ」
強力なドレインスキルでふらつく2人に避難するよう叫び、僕は男根剣を抜き放った。
ユニークスキルの暴走を止めるべく、硬く変化した男根をバーニーさんに叩きつける。
だが、
――へにょっ、ぺちんっ。
「え!?」
自分の目を疑う。
なぜならバーニーさんに叩きつけた男棍棒が彼女に近づけば近づくほど硬度を失い、柔らか男根になってしまったからだ。まるで中折れしたかのように。ふにゃふにゃの男根がバーニーさんの頬に当たって弾かれる。
それと同時に、僕の中で性欲が減退したような感覚があった。
(……!? まさか、バーニーさんのユニークスキルは精気だけじゃなくて性力も吸うのか!?)
だとしたらバーニーさんはまさか、男根剣を無力化する〈淫魔〉の天敵!?
ということはバーニーさんは僕と同じ生き恥能力仲間!? と一瞬舞い上がる。
けど、
(……いや、なんか変だ。確かに性欲は減ってる気がするけど、感覚的には昔モンスターから食らったドレインとまったく同じ……)
それによく考えたら、いくら僕がレベル300超えの〈淫魔〉とはいえ、アリシアたちがすぐにふらつくようなドレインを浴び続けて平気なのもおかしい。
そこで僕の脳裏をよぎるのは、「男が絶頂すると体力と気力をもっていかれる。つまり性力は精気、生命力と直結しているのではないか」という仮説で。
まさかと思いバーニーさんから距離を置きつつ鑑定水晶でステータスプレートをチェックしてみると、
『絶倫:
「やっぱり!」
効果がわかりきっているのでいままで鑑定水晶でチェックすることのなかった絶倫スキル。その思わぬサブ効果に僕は思わず声をあげる。
つまりバーニーさんが〈淫魔〉の天敵なのではなく、むしろ強力な範囲ドレインの中で普通に動ける僕のほうがバーニーさんの天敵なのだろう。
いや、でも、
(近づけば近づくほどドレインの力が強まるせいか、男根剣が萎えて無効化されるのは事実。彼女が僕の天敵なのは変わらない……!)
となれば有効な対策はひとつ――遠距離攻撃だ。
「射精砲!」
途端、男根剣がL字型の鉄筒に変化。
構えた鉄筒をこすりあげ、シコチャージを2回。
「あああああああっ!」
奪い取った生命力で身体能力が向上しているのか、僕からさらにドレインしようとバーニーさんが凄まじい速度で接近してくる。
そんな彼女から全力で距離を取りながら、僕は射精砲の引き金を引いた。
ドピュウウ!
「が――っ!?」
「よし、効いてる!」
射精砲を食らい、バーニーさんが悲鳴をあげた。
この調子で一定のダメージを与えればユニークスキルの暴走も収まるはず、ともう一度シコチャージを行おうとしたそのときだ。
「え――」
僕はまたしても目を見開いた。
なぜなら、
「ああ、ああ、気持ち良いいいいいいっ」
恍惚の声をあげるバーニーさんの身体がみるみるうちに回復。
それと同時に、
「あ、あ、がああああああああっ!?」
遙か彼方。
バーニーさんに精気を吸われて昏睡状態になっていた猪獣人冒険者たちが、苦しげな声を漏らしていたのだ。ただでさえ生気を失っていた顔色がさらに悪くなっていく。
ドレインの範囲からは既に外れているはずなのに!
まさか……!?
「昏睡状態にした人からさらに生命力を吸って自動回復してる!? ドレインの有効範囲も関係なく!?」
これじゃあ、昏睡犠牲者がみんな死ぬまでバーニーさんは回復し放題だ。
あり得ない。
いくら暴走状態だからって強すぎる……!
もっとも簡単な対策は遠距離から一撃で彼女を葬ることだけど――。
(ストレスでユニークスキルが暴走しただけの人に、そんな酷いことできるわけがない……!)
「あはぁ……これで元気いっぱい……私のことをいじめる冒険者からは、いつでも逃げられる……!」
バーニーさんは強烈な遠距離攻撃を放った僕を警戒し、逃げるような素振りまで見せている。このまま手をこまねいていては、待っている結末はバーニーさんの死あるのみだった。
だったら……!
「アリシア! ソフィアさん! 倒れてる冒険者たちの救命をお願い!」
「……っ、わかった……!」
遠くで僕たちの戦いを見守っていた2人に犠牲者の保護を頼み、僕はバーニーさんに肉薄。魔力を練り上げ、その〈淫魔〉スキルを神速で発動させていた。
ヤリ部屋生成――!
「っ!?」
途端、『セッ〇スしないと出られない異空間』と書かれた頭のおかしい空間に引きずり込まれ、バーニーさんがぎょっとしたように周囲を見回した。
そんな彼女に僕は宣言する。
「これでもう、あなたは僕から逃げられない。周囲への被害も考えなくていい」
そして僕はバーニーさんを助けるための最終手段を口にした。
「僕の性力とあなたのドレイン容量。どっちが先に限界を迎えるか――絶倫勝負だ!」
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定期的に言葉のチョイスがバカになるエリオ君。
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