第128話 半裸の痴女と囮作戦
(南部最大の冒険者ギルドにしては人が少なすぎるとは思ってたけど、まさかこんな異変が起きてたなんて……)
目の前に広がる光景に僕は息を呑んでいた。
治療院の簡易ベッドに横たわる大量の冒険者、ギルド職員、衛兵。
100人を軽く超える人々が生気を失った顔で目を閉じ、苦悶の声を漏らしているのだ。ヒーラーの人たちが必死に治療を続けているが、それはあくまで対症療法に過ぎないようだった。
「ことの始まりはおよそ3週間前。レベル80の冒険者パーティが早朝の路地裏で倒れていたのを発見されたことだった」
僕らをここに案内してくれたギルマスのトーマスさんが鎮痛な面持ちで声を漏らす。
「それから毎朝のように、意識不明の冒険者やギルド職員が街のいたるところで見つかるようになってな。当然警戒を強めて夜回りを強化したが、なにぶん広い街だ。すべてに目が届くわけもなく……原因もわからぬまま犠牲者は増え続け、全員が昏睡したまま日に日に衰弱していくのだ」
「一人も目を覚まさないんですか……?」
「ああ。ただの一人もだ。いまは治療院の者たちの奮闘でどうにか死人も出ておらんが……冒険者が不足したことで、衰弱を防ぐ気付け薬の素材採取も滞っている。このまま原因も治療法もわからず被害が続けば体力のなくなった者からバタバタと死ぬことになるだろう」
言って、トーマスさんはまだ14歳の僕に猫耳の生えた頭を深々と下げた。
「事件解決の暁には最優先で奴隷契約解消アイテムの申請を受理しよう。どうか、この怪事件の解決に力をお貸しいだきたい」
「当たり前です」
トーマスさんの懇願に、僕は一も二もなく答えていた。
こんな事態、アイテムの使用申請云々を抜きにしても放っておけるわけがないからだ。
「おお、ありがたいっ。国軍も手が足りていないようで困り果てていたのだ」
「いえ当然のことです。……でも不思議ですね」
と、僕はトーマスさんに頭を上げるよう言いつつ、横たわる人々を見て首を傾げた。
「被害はすべて街中で起こったようですけど、この症状はまるで――」
「……ドレイン攻撃を受けたときの状態に、そっくり……」
と、僕が依頼を受けるのを見越してとっくに犠牲者の診察をはじめていたらしいアリシアが言葉を引き継いだ。
ドレイン攻撃。
それは湿地や洞窟などに潜むモンスターが使うことの多い攻撃だ。
精気……すなわち体力や気力などの生命力を奪う凶悪なスキルで、吸われすぎると昏睡状態になり最悪の場合そのまま死んでしまう。
僕も小さい頃、事故でモンスターに吸われたことがあるから被害者の様子を見てピンときたんだけど……被害がすべて街中というのが気になった。
「ドレインスキルを持つモンスターが街中に潜伏してるんでしょうか?」
「恐らくそうではないかと我々も当たりをつけて調べてはいたのだ」
トーマスさんが僕たちの推察に首を振る。
「だが犠牲者の中にはレベル100を超える実力者パーティもおってな。戦闘音もなしでやられたとは考えづらいのだ。それにドレイン攻撃での衰弱は普通、時間経過で解消されるはず。まるでいまも精気を吸われ続けているかのように昏睡が続くとなると……原因には皆目見当がつかん」
他にも考えられる理由はなにか汚染された水や食べ物が街に入り込んでいるという線だけど……街の人たちが元気な以上、それも考えにくいとのことだった。
うーん、謎だ。
けどまあ、どうも夜中に出歩いている人たちが犠牲になっているのは確かなようで。
そうなると対策はひとつだった。
「夜回りしながら僕たちが囮になろう」
自惚れるわけじゃないけど、僕たちならすぐにやられるようなことはないだろうし、いざとなればワープで逃げられる。最低でも原因を突き止めることくらいはできると思われた。
「おお、そうしてもらえるか。だがなにが起きるかわからないのは確か。どうかお気を付けて。……あ、あとこれは今回の件に関係あるかわからないのだが」
と、ひとまずの方針を決めた僕たちを心配しつつ、トーマスさんがなにか思い出したように顔を寄せてきた。そして重要な情報を口にするかのように声を低くし、
「最近、この辺りでは夜に〝出る〟んだそうだ……ドスケベな下着にローブで顔を隠しただけの、爆乳痴女が」
「あ、はい、それは間違いなく関係ない情報ですね」
トーマスさんのマル秘情報に僕は真顔で返答。
夜の見回りに向けて、各自仮眠をとるなどの準備をはじめるのだった。
*
そして夜。
僕らは2チームに分かれて行動していた。
僕とアリシア、ソフィアさんの見回りチーム。
そして今回はいまいち予知が働かないからと、事前に大量採取しておいたガチムチ草で犠牲者の延命治療に協力するシスタークレア&シルビアさんの救護チームだ。
(不足していたという気付け薬の素材、ガチムチ草が大量に出てきてトーマスさんは腰を抜かしていた)
「……でも、こんなに広い街ですぐに〝原因〟と遭遇できるんでしょうか……」
「そればっかりは運かなぁ。けど確率はそんなに低くないと思う」
不安げに漏らすソフィアさんに僕は勝算を語る。
「街の人は今回の騒ぎに警戒して夜の外出を控えてるっていうし。うろついてるだけである程度原因とは遭遇しやすいはず」
加えて原因がモンスターかなにかだった場合、アリシアの気配探知でこちらから見つけることも容易だ。
と、そんな計算のもとに僕たちが夜回りを続けていたとき。
「あ」
「あ?」
月明かりが照らすなか、僕たちは曲がり角でばったりと見知った顔に遭遇した。
ギルドに顔を出した際、兎獣人の受付嬢バーニーさんに絡んでいた猪獣人の女性冒険者パーティだ。
街がこんな状態でも夜間営業している酒場があるのか。
どうやら夜中に出歩きお酒を飲んでいたようで、全員がお酒臭い。
「……ちっ。てめえらに恥かかされた腹いせに飲んでたっつーのに台無しだぜ」
言いつつ、猪獣人の女性はさっさと僕たちを避けてどこかへ行こうとする。
ここは無視するのがある種の礼儀なんだろうけど……
「あ、あの、気をつけてくださいね! 冒険者は特に狙われやすいみたいなので!」
「うるっせぇ! んなことにビビって冒険者ができるか!」
声をかける僕に、猪獣人の女性は荒くれ者らしく怒鳴りながら夜道に消えていった。
「……あの人たち、全然反省の色が見えませんね……エリオに二度もあんな態度を……冒険者の上下関係というものを一度しっかり叩き込んだほうが……」
「ソ、ソフィアさん? いまのは正直ちょっと僕が悪かった部分もあるから、とりあえず短剣は仕舞おう? ね?」
僕を気遣ってのことなんだろうけど……戦姫と呼ばれていたころの殺気をまき散らすソフィアさんを必死に宥める。
と、そのときだった。
「……ん?」
周囲の探知を続けていたアリシアが、なにかを捉えたように声を漏らしたのは。
「……なんか、さっきの猪の人たちに誰かが近づいて……全員その場で動かなくなってる……?」
「え……?」
すれ違うとかじゃなくて?
嫌な予感がして、僕たちは即座に走り出していた。
そしてアリシアが示す角を曲がったその瞬間――
そこにはとてつもないナイスバディが立っていた。
「うわ!?」
僕は思わず悲鳴をあげる。
なにせ月明かりが照らす夜道に突如出現したのは、エッチな黒の下着に包まれた豊満な女体だったのだ。顔を隠すように羽織っているローブマントの前を全開にし、あの牛獣人バスティアさんに匹敵するおっぱいを惜しげもなく揺らす謎の女性。一瞬、パニックで思考が止まるけど、
「……あ、なんだ、ただの痴女か……」
そういえばトーマスさんからそんなどうでもいい情報を聞かされてたっけ、と僕がびっくりしつつほっと胸をなで下ろしていたそのとき。
「……エリオ……っ」
「え?」
アリシアとソフィアさんが緊迫した声を漏らす。
そして不可抗力かつ反射的におっぱいへ視線を吸い寄せられていた僕は、そこでようやく気がついた。
痴女の足下に、数人の冒険者が倒れているのを。
猪獣人の女性たちが、死人のように生気のない顔でピクリとも動かなくなっているのを。
「……っ!?」
瞬間、僕たちは即座に臨戦態勢に入り武器を抜き放った。
が、そのときだ。
――ズンッ!
「「「な……っ!?」」」
身体から急速に力が吸い取られる異様な感覚。
(っ!? 触れてないのに、僕たち全員にドレインが発動してる!?)
しかもそれはソフィアさんが一瞬で膝を突き、夜の体力お化けであるはずのアリシアが「くっ!?」とふらつくレベルで……!
そんなイカれた性能のドレインがあり得るのか。
けどそれなら戦闘音もなくやられた犠牲者たちにも説明が……と衝撃が弾けた刹那。
「あなたたちも、私をいじめるの……?」
「……!? あなたは……!?」
痴女の顔を隠していたローブが緩み、さらなる衝撃が僕を襲った。
月明かりに照らされたその素顔は――
「バーニーさん!?」
可愛らしい兎耳を揺らして。
弱気で可憐なはずの受付嬢さんが怪物のような気配を纏い、爛々と目を輝かせて僕たちの前に立ち塞がっていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
拙者、オドオド弱気な女の子が実は滅茶苦茶強いの大好き侍で早漏。
あと着痩せする女の子もお好きでござる。
(※あとわかりにくくてすみませんが、前回の男根カウンターはエリオ君が男根を角張った鉄みたいなものに変化させて股間全体を守りながら蹴りを受け止めており、睾丸にはほぼ衝撃が届いてないのでへっちゃらなのです。なんだこの解説)
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