第116話 〈淫魔〉VS女性襲撃者軍団
「うにゃあああああああああっ!? な、なんでこのガキどもこんな時間まで! しかも三人でやってえええええっ!?」
深夜。
仲良しの最中に宿を襲撃してきた仮面の女性集団が悲鳴をあげた。
「アリシア! ソフィアさん! いまのうちに装備を!」
その一瞬の隙に、僕は丸腰の二人にシーツをかぶせながら後ろに下がらせる。
同時に「はっ」と気づいて隣室へと声を張り上げた。
「クレアさん! シルビアさん! そっちは無事ですか!?」
襲撃者はこちらの戦力を把握していたのか、最初の魔法攻撃を僕たちの部屋に集中させていた。けど僕たちと違って就寝中だったろうクレアさんたちは魔法の余波だけで怪我をしているかもしれない。
と、心配して声を張り上げたのだけど、
「大丈夫ですわ! エリオ様たちの情事をどこかから覗けないかとずっと起きて探ってましたので!」
「私はそれを止めようと起きていたので奇襲に反応できました!」
「なにやってるんですか!?」
壊れかけの壁をぶっ飛ばしてこちらに合流してきたシルビアさんとクレアさんに僕は顔を真っ赤にして叫んだ。
あ、いや、いまはそれより――
「はっ!? ああくそ、交尾なんかで動揺してる場合か! お、男の裸もいまは気にすんな!」
謎の襲撃者たちが即座に立ち直り、僕たちを取り囲むように展開する。
魔法攻撃で装備が吹き飛ばされたため、アリシアとソフィアさんはまだ下着しか身につけていない状態だ。身動きはできるようになったけど、状況としてはほぼ丸腰。
僕に至っては全裸のままだ。
まともに武器を装備しているのはシルビアさんだけという僕たちの惨状を見て、襲撃者たちが好機とばかりに飛びかかってくる。
「ソルジャーウルフの群れを秒殺したって話だが、丸腰じゃ実力の半分も発揮できねえだろ!」
月明かりを反射する凶刃をきらめかせ、二十人近い襲撃者たちがあらゆる角度から飛びかかってくる。統率の取れたその動きはダンジョン都市サンクリッドの精鋭冒険者にも匹敵する脅威だった。
けれど次の瞬間――ズドドドドドン!
襲撃者たち全員の下腹部に、高速の打撃が叩き込まれた。
僕の股間から瞬時に伸びた、枝分かれアダマンタイト男根による同時攻撃だ。
「「「「「なっ!? ぐがあああああっ!?」」」」」
「悪いけど」
悲鳴をあげて吹き飛んだ襲撃者たちに僕は告げる。
「恥ずかしいのさえ我慢すれば、僕は全裸のほうが強い」
アソコの動きを阻害するズボンや下着がなければ、一瞬の遅れもなく男根変化の力を発揮することができるから。
ただ、股間から直接伸ばした広範囲打撃攻撃ではまだ少し威力が低い。
改めてアソコを分離し、男根剣で襲撃者たちを完全に無力化しようと振りかぶった。
――そのときだ。
「股間に魔剣を仕込んでいるなんて、用心深いにもほどがある。末恐ろしい子供だね」
「っ!?」
凄まじい威力の一撃が上空から降ってきた。
他の襲撃者と同じく仮面をかぶった女性獣人が――しかし明らかに一線を画すオーラをまとったリーダー格らしき女性が、身の丈ほどの大剣を叩きつけてきたのだ。
ドゴオオオオオオオッ!
「うわっ!?」
咄嗟にアレで防御したにもかかわらず、その衝撃に耐えきれず宿の床が崩落する。
バランスを崩してアリシアたちとともに中空へ投げ出されるなか――大剣使いの獣人女性が涼やかな声を漏らす。
「へぇ、この不意打ちも防ぐんだ。でも、これはもう無理でしょ?」
と同時に、視界の端で魔力が弾けた。
(二度目の一斉魔法攻撃――!)
「守れるもんなら全員守ってみなよ。スキル――〈巨竜殺し〉」
さらには大剣使いが空中でスキルを発動。
僕めがけて必殺の一撃を叩き込んでくる。
空中で身動きのできない状況での全方位攻撃。
普通なら確実に詰みの局面だ。
けれど――僕は普通じゃなかった。
「男根剣――並列変化!」
手に持った男根が目にもとまらぬ速さでその姿と材質を変える。
強力な魔法耐性のあるオリハルコンに変化したアソコが、すべての魔法攻撃を弾き飛ばした。
と同時に、股間から伸び男根がアリシアたちを空中でキャッチ。
シルビアさんが「うわああ!? アレが股間に食い込むううう!?」という悲鳴が響かせるなか、僕のアソコはさらに変化。
地面めがけて瞬時に膨脹すると、3本目の足のように地面を踏みしめる。
本来なら空中で身動きできないはずの僕は、怪力男根によって強引に軌道を変えた。
「なっ!? なにそのデタラメな魔剣は!?」
攻撃を外した大剣使いの女性が驚愕の声を漏らす。
けど僕はその問いに答えることなく――ガチガチに硬化した男根を振り下ろした。
「うらあああああああああっ!」
「ぐ――あああああああああっ!?」
ドゴオオオオオオオオン!
〈異性特効〉。さらには地面にしっかり男根を根付かせることで腰の入った僕の一撃が、空中で身動きの取れない大剣使いの身体に叩き込まれる。凄まじい勢いで地面に落下し、そのまま動かなくなった。
「な……!? あの状況で隊長がやられた……!? それも一撃で!?」
周囲でうずくまっていた襲撃者たちが愕然とした声を漏らす。
そんな彼女たちに、僕は鋭く視線を巡らせた。
「全員、大人しくしてください」
同時に、枝分かれしたアソコを脅すように彼女たちの下腹部へ――あ、間違えた。鋭い剣に変化させたアソコを、彼女たちの喉元へ突きつける。
武器を拾ったアリシアとソフィアさんが〈気配探知〉で周囲に潜む魔法使いたちを一人残らず刈り尽くしていくなか、僕は投降を促すように言葉を続ける。
「この中で一番強いだろう大剣使いの女性は倒しました。どうして僕たちを襲ったのか素直に教えてください。さもないと――酷いことをしないといけません」
もし彼女たちが教会の手先だとしたら、たとえ正直に吐いてくれたとしても最終的に仲良しする必要があるけど……と思いつつ、その可能性は低いと僕は思っていた。なぜなら、
「これだけ周到な襲撃を仕掛けておいて、あなたたちの攻撃には殺意も敵意もありませんでした。なにか事情があるんじゃないんですか?」
「え? 殺意がない?」
僕の指摘に、シスタークレアが目を丸くする。
それは多分、聖騎士コッコロや女王レジーナといった本物の殺意と何度も相対してきたからこそ気づけた違和感。
戦ってる最中はあまりの猛攻に指摘する暇もなかったけど……制圧が完了したいま、僕はその違和感を素直に口にしていた。
すると次の瞬間
「「「「お、お見それいたしました!!」」」」
襲撃者たちが、凄まじい勢いで僕に頭を下げてきた。
「え……」
さすがに予想していなかった反応に僕がクレアさんたちと一緒に驚いていると、
「まさか傷一つ負うことなく私たちに完勝したあげく、殺意がないことまで見抜くなんて。私の部下たちが一人も死んでないのは、あなたが手加減してくれたから、かな」
大剣の女性が血反吐を吐きながら身体を起こす。
僕が「ちょっ、無理しないほうがいいですよ!?」と止めようとするのも聞かず、彼女は僕の前まで這ってきて仮面を外す。
現れた素顔は、クールな印象の涼やかな美貌。
牛の獣人らしい大剣使いの女性は他の襲撃者たち同様に頭を地面に擦りつけると、改まった様子で声を漏らした。
「申し訳ありません。ゆえあって、このように非常識極まりない方法で皆様方の実力を測らせていただきました。償いのためならなんでも言うことを聞きましょう。ですがその前に……我らが主よりお願いしたいことがございます。虫の良い話ですが……」
そして牛獣人の彼女は、驚くべきことを口にした。
「我々はこの街の正規軍。領主オリヴィア様直属のヴァルキリー部隊。仮にも精鋭である私たちの奇襲さえものともしないあなた方の強さでどうか、この街を救っていただきたい」
シールドア正規軍を示す徽章を煌めかせて。
領主の名を口にした襲撃者たちは、すがるように頭を下げ続けていた。
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※2021/10/14 一部描写を微妙に変えました
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