第115話 シールドアの異変と仲良し3P

「おおっ、見事にモフモフな方ばかりですわね! さすがは〈牙王連邦〉! ところで以前から気になっていたんですが、獣人の方々は夜を営む際に尻尾が邪魔になったりしないのでしょうか」

「クレア様」


 教会の目に見つかることなく無事亜人国家へ入国できた開放感からはしゃぎ回るシスタークレアを、護衛シルビアさんが凄い顔でたしなめる。


 城塞都市シールドア。

 国境に面する玄関口だけあって、行き交う人々はヒューマンやドワーフなど様々な種族が入り混じっている。


 けどやっぱり獣人国家〈牙王連邦〉を代表する都市のひとつだけあり、獣人の割合が圧倒的に多かった。帝都やダンジョン都市ではあり得ない光景に、僕やアリシア、それから狼人のソフィアさんも周囲の人混みに目を奪われる。


「さてそれでは、新しい街に来たとなればやることはひとつですわね!」


 クレアさんが元気いっぱいに叫ぶ。


「文化の違いはお酒の違い! 獣人の皆様がたしなむお酒をアホほど飲み散らかしてやりますの! あとエリオ様に立て替えてもらった借金返済のために今日こそ賭場で勝つまで賭けてやりますわー!」


「ちょっ、クレアさん!?」


 教会の最高指導者〈宣託の巫女〉様とは思えない発言を繰り返すクレアさんを、慌てて引き留める。


 新しく来た街にはしゃぐ気持ちはわかるけど、僕たちが亜人国家にやってきたのはもちろん観光のためなんかじゃない。


 巫女様として特異な予知能力を持つクレアさんいわく、いまの〈牙王連邦〉は侵略を目論む教会の破壊工作が進んでいる予感がビンビンする、とのこと。

 多数の犠牲が出る前にこれを食い止めて亜人国家の信頼を獲得し、対教会の同盟締結を促すのがこの旅の目的だ。


 なので酒と賭けはあとで、と止めようとするのだけど、


「いえいえいえ、だからこそまずは〈牙王連邦〉の情報を得ることが重要なのですわ。わたくしの予知も万能とはほど遠いので。そしてそのためには酒場と賭場が一番! これは世界を救うためのアルコール摂取なのですわー!」

「あっ、ちょっ!?」


 本気なのかアル中の自己正当化なのかわからない発現とともにクレアさんは人混みにダッシュ。


「すみませんすみません、あの方も一応本気なのでっ」と僕たちに頭を下げるシルビアさんが苦労人の顔を覗かせながらそれを追いかけていき、あっという間に見えなくなってしまった。


「ま、まあクレアさんの言うことも一理あるか……」


 情報がないことには動きようがない。

 それによく考えてみれば、帝都や教会の追っ手を気にせず羽を伸ばせる環境なんて久しぶりだ。


「新しい街に来た初日だし、今日はゆっくり情報収集でもしよっか」

「……うん」

「パーティで街を散策……えへへ……」


 小さく頷くアリシアと、お散歩好きな犬のように尻尾をぶんぶんと振るソフィアさん。

 二人を連れ、僕もまたワクワクしながら新天地の人混みに身を躍らせた。


 ――のだけど、


「どうなってますのこの街はー!」


 二手に分かれてしばし。

 僕たちは大して遅くもない時間に、宿へと引き上げていた。

 というのも、


「街中でお酒もつまみもほとんどない……!? それに賭場でのチップが現金じゃなくて食料ってどういうことですの!? お肉を賭けたってわたくしの射幸心は満たされませんの!」


 僕がヤリ部屋から取り出したお酒をかっくらいながら、閑散とした宿の食堂でクレアさんが荒ぶる。


 そう。

 この街ではいま、やたらと食料が不足しているようなのだ。

 大きな街だけあって備蓄は相当なものらしく、街の人たちが極端に飢えている様子はない。


 けど屋台やお店で提供するような食材に余裕はないようで、やたらと高値かそもそも売っていなかった。そうなると街の活気も弱々しく、僕たちは異国情緒を楽しむことなく早々に宿に引き上げてしまっていたのだった。


「悪いねお客さん、街がこんなで」


 くだを巻くシスタークレアに、従業員のお姉さんが水をもってくる。


「二か月くらい前から北の街道周辺に強力なモンスターが巣くってるらしくて、首都方面からの食料の運搬が滞ってんの。どうにか周りの森や山からモンスターを狩って食いつないんでんだけど、いつまでもつやら」


 それは街での散策中、あちこちから聞いた話だ。

 前線都市の食料が不足するほどの事態、国や街が対処しないのかと疑問に思うのだけど、


「それがどうも領主様の動きが鈍くてねぇ。私らも散々訴えてんだけど、いつも頼もしい領主様にしちゃ妙に腰が重いのさ。最優先で対処中だっていうけど討伐隊が出発する気配もないし。なんかキナ臭いのよねー」


「あっ、わたくしわかりましたわ! その領主がきっと教会の黒い霧とやらにヤられてトチ狂ってるんですの! いますぐエリオ様の人権侵害チンポで〝救済〟して、街にお酒と健全な賭場を取り戻すんですのー!」

「落ち着いてくださいクレアさん!」


 酔った勢いでとんでもないことを口走るクレアさんの口を慌てて塞ぐ。


「……でも、確かに変。どうしてこの街の領主さんはすぐに動かないんだろう……こういう事態を迅速に解決するのが……領主の仕事なのに……」


 僕と同じ貴族出身のアリシアが首をひねる。

 けどそのあたりはどれだけ聞き込みしてもわからず、かといってクレアさんが言うように教会が暗躍していると断定できるような要素もなく、どうにも謎めいていた。


「……あの」


 と、不思議に思う僕たちを見ながら、ソフィアさんが小さく口を開く。


「わからないなら……〈宣託の巫女〉様のお告げには頼れないんですか……?」


 民草にお告げを与え導き、厄災を事前に予知するという〈宣託の巫女〉。

 その超常的な力からなにかヒントが得られるのではと、ソフィアさんが素朴の疑問を口にする。


「あ~。実はわたくしの〈宣託〉はそこまで便利なものではないのですわ」


 クレアさんが空っぽの酒瓶をちゅぱちゅぱしながら愚痴るように漏らす。

 お行儀が悪い……。


「レベル130のシルビアだけをお供に教会から逃げ切れたように、わたくし自身に降りかかる危険の予知にはかなりの性能を発揮しますの。次点で厄災や大事件の予知なんかが得意ですわね。けれど具体的にどうすれば事件を解決できるとか、幸運が訪れるとか、そういう+の予言はかなりまれなんですの。なので使い方を誤ると自作自演を疑われる可能性もあったりして……。偉そうなことのたまう割に、神様も結構クソ性能なんですわー」


 絶対に教会のトップが口にしちゃいけないことを言いながらクレアさんがぐでーと机の上に伸びる。


「ま、まあ神様についてはともかく、今日のところは話しても答えは出ないですね。ソルジャーウルフ討伐で街の兵士さんたちと繋がりもできたし、今日は休んで明日改めて聞き込みしてみましょう」


 兵士さんたちを介して、領主さんと直接話を聞く機会も作れるかもしれない。街の食糧不足と、その解決に二の足を踏んでいるらしい領主さんの謎に挑むべく、僕たちは早々に部屋に引き上げるのだった。



「……それじゃ、仲良ししよっか」

「アリシア!?」


〈ヤリ部屋〉から取り出した食料を隣室に泊まるクレアさんたちと分け合って空腹を満たした直後。アリシアが流れるようにしなだれかかってきて僕は慌てた。

 

 明日からまた聞き込みなどで忙しくなりそうだから……じゃない。

 同じ部屋にソフィアさんも一緒に泊まっているからだ。

 

 いやまあ、ソフィアさんとは既にアリシアと一緒に仲良しした仲。

 いまさら慌てるなんておかしいと思うかもしれない

 けどアレはあくまでソフィアさんが発情期だったからだ。


 この状況で仲良しするならせめてソフィアさんが寝静まったあと異空間に移動するのがマナーだとアリシアを留めようとしたのだけど……


「ソフィアさん!?」


 僕の後ろではソフィアさんがとっくに服を着崩していた。

 しかも目はギラギラと輝き、完全な発情モードだった。

 どうして!? 周期はまだ先のはずなのに! と驚いていると、


「あ……うぅ……ご、ごめんなさい……」


 ソフィアさんが恥じらうように尻尾を抱きながら、上目遣いで見上げてくる。


「なんか……エリオに優しくされると……周期がおかしくなっちゃって……我慢ができないんです……うぅ」


 そしてソフィアさんは年上とは思えないくらいしおらしく耳を伏せると、


「……エリオは、エッチな女の子……いや……?」


 ……いやだったらアリシアとこんなに毎日仲良ししてないんだよなぁ。

 僕は情熱的に見つめてくる魅力的な女の子二人に求められるまま、3人で仲良く仲良しするのだった。


 ――と、そうしてしばらく仲良しを続けていたときだ。


「……?」


 ぴくりと、アリシアが周囲を窺うように身体を起こした。

 アリシアが仲良しの最中に他のことに気をとられてる……? とただならぬ異変を感じた僕が行為を中断してどうしたのかと訊ねてみれば、


「……なにか、変。隣室のクレアさんとシルビアさん以外……宿の中から人の気配が消えてる……」

「え……?」


 こんな深夜に?

 けどダンジョン都市での戦いで限界突破した〈周辺探知〉を持つアリシアの言葉だ。

 恐らく間違いはない。

 けどなんで急にそんな、と妙な異変に警戒心を跳ね上げた、そのときだった。


 凄まじい魔力が、換気窓の向こうで弾けたのは。


「っ! 危ない!」


 ドゴオオオオオオオオオオン!!


 瞬間、宿の壁が轟音とともに吹き飛んだ。


 魔法攻撃。


 咄嗟に魔法耐性のあるオリハルコンに変化させた男根で攻撃を防ぎ、ソフィアさんとアリシを守るように抱き寄せる。そのおかげで二人に怪我はない。


 と、二人にシーツをかぶせる僕の目の前に、複数の影が降り立った。

 仮面をかぶった女性らしき襲撃者たちがそれぞれ武器を抜き放つ。

 

「ほお、いまの魔法攻撃を防ぐか。だが幸運もそこまでだ。大人しくあたしらの牙の餌食に――って、え? なんだこの匂い? は?」


 次の瞬間、


「うにゃあああああああああっ!? な、なんでこのガキどもこんな時間まで! しかも三人でやってえええええっ!?」


 明らかに素人離れした動きの襲撃者たちが一瞬固まり、初心な女の子みたいな悲鳴を夜空に響かせた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 暗殺するときにはあらゆる事態を想定してなきゃいけないってキルアが言ってた。

※2021/10/14 一部描写を修正しました

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