第109話 公開仲良し

 ステイシーさんに言われるがまま、僕たちはダンジョン都市の近くにある森の中にやってきていた。しばらく進んだところで、〈周辺探知〉を使っていたアリシアが止まる。


「……いた。多分アレが例のモンスター」


 その視線の先にいたのは、植物の巨大な葉をベッドにして横たわる絶世の美女。

 豊満な女性の姿をした植物モンスター、快楽遊女だった。


「アレが快楽遊女、はじめて見た……」


 快楽遊女。

 それは魔族ではないにもかかわらず人の姿をとり人語を解するかなり特殊なモンスターだった。一見して爪も牙も毒もない、見た目がエッチなだけの無害なモンスターだけど……その生態はだいぶアレだ。


 快楽遊女の主食は人間の体液。そしてその体液を確保するため、男性冒険者を誘惑するのだ。ただこの誘惑というのが曲者で、快楽遊女と1、2回仲良ししただけじゃ害はない。けれど快楽に慣れていない男性冒険者は3回4回と快楽遊女のもとへ通うようになり、やがて頭がバカになったところですべての体液を吸い尽くされてしまうのだ。


 さらにこのモンスターは成熟とともに男性の発情を促す花粉をバラまく迷惑な性質があり、発見次第討伐が原則となっている。


 ただこのモンスター、植物型だけあって地下深くに本体が潜んでいるらしく、地表部分を駆除しただけでは比較的すぐ復活してしまう。そのため根絶が面倒なことこのうえないとされていた。


 そこで〈主従契約〉を持つ僕の出番というわけだ。

 魔族ではない純モンスターに通用するかは賭けだけど……まあやるしかない。


「お、おい本当にヤるつもりか!? 本気か!?」

「わ、わたくしの将来のお相手がモンスターと……!? 背徳……!」


 シルビアさんが困惑の声をあげ、シスタークレアが顔を赤らめなにか呟く。

 正直、僕もかの〈宣託の巫女〉様とその護衛の前でこんなことをしたくはない。

 心底したくはないけど……。


「ここで〈主従契約〉の条件を証明しないと信頼関係が結べないし……どのみち水源汚染で疲弊してる街への被害を抑えるにはヤってみるしかないし……ああもうどうにでもなれ!」

「ん? なんだい坊や、モンスターの私と愛し合いに来たの? いけない子ね。忘れられない快楽を刻んであげ――って、え!? ちょっ、なにソレ!? な、なんで私たちが本当の繁殖をするときみたいな極上おしべが人間に生えて!? ちょっ、まっ、ダメ! そんなのでしたらこっちがダメにいいいいいいいいいっ❤!?」


「うわあああああああああっ!? 本当におっ始めたぞあの男!? 見てはなりませんクレア様あああああああああっ!」

「ちょっ、シルビアだけずるいですわ!?」


 ――そうして、森の中に何重もの悲鳴があがってからしばらくしたのち。


「う、わ……本当にモンスターにも契約が発動しちゃった……ええと、それじゃあ男性へ与える快楽は依存性がない程度に。花粉を飛ばすのも厳禁。生きるのに必要最低限の搾精なら持ちつ持たれつでいけると思うので」

「は、はい……っ」


 そこには淫らな紋様が下腹部に刻まれた快楽遊女が倒れていて。素直に花粉の散布をストップしていた。


「し、信じられん……本当にアレで主従契約が……!? なんなんだあの男は!?」

「ちょっとシルビア! 結局どうなったんですの!? さ、さっきから妙な匂いだけ漂ってきて逆に変な気分に……!」


 シスタークレアの耳目を全力で塞ぐシルビアさんが、顔を真っ赤にしてぷるぷると涙目になっていた。あまりにもあんまりな状況に僕も顔を真っ赤にして羞恥に目を泳がせながらシルビアさんに声をかける。


「え、と……これで納得してもらえましたかね。〈主従契約〉の発動条件」

「……っ。あ、う……もろち……もちろん……っ。あなたも恥ずかしいだろうに、私の要求に応えて無理をしてくれたようだし……その精……誠意には頭が下がる。疑ったことはきチンと射……謝罪しよう。本当にすまなかった。これで心をおきなくあなたたちと協力関係を結べる。た、ただし!」


 シルビアさんはキッと目をつり上げ、


「護衛として、この先あなたとクレア様を二人きりにはさせられん、絶対にだ!」


 ですよね!!!


「ちょっとシルビア!? 勝手に決めないでくださいまし!」


 こうして。

 僕は公開仲良しによってシルビアさんの信頼(?)をいちおう(?)勝ち取り(?)、無事に(?)対教会の同盟を結ぶのだった。

 

「う、うぅ……汚らわしいものとして控えるよう教会で教えられるわけだ……あんな気持ち良さそうな行為、まともに味わえば二度と戻れなく……ハッ!? い、いや惑わされるな! いくら事情があるとはいえ、あんな暴力的な快感で何人も手籠めにしてきた者になど私は絶対に身体を許したりは……クレア様の純潔をお守りするためにも私が壁にならなければ……だが……うぅ……っ!」


「……えへへ。どこかで一押ししたら、またエリオの魅力に夢中になる人が増えるね。……エリオがまた傷ついたりしないよう……私自身がもっと強くなるのに加えて……〈淫魔〉のレベルアップに必要な人はたくさん欲しいし……エリオの魅力はたくさんの人に知ってほしいから……嬉しい……」

 

 ……なぜかシルビアさんがぶるぶると身体を震わせて太ももをすりあわせていたり、その後ろでアリシアが小さく舌なめずりをしているような気がしたけど……公開仲良しの気まずさで僕はそれどころじゃないのだった。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 わかる人には多分すぐわかる快楽遊女の元ネタ。

 そしてひとまず同盟締結! といったところで、次回はこれまでのまとめになります。短いですがおまけのSSもついていますので、すみませんがそちらをお楽しみいただければ幸いです。


※2021/10/14 一部表現を調整しました。

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