第108話 ところで具体的にはどうやって聖騎士を隷属させたんですの?


 教会の最高指導者〈宣託の巫女〉だと正体を明かしてくれたシスタークレアいわく。


 教会の総本山であるロマリア神聖法国はいつの頃からか上層部の腐敗がはじまり、いまでは教徒や周辺中小国家からの搾取が横行。国力の大きい帝国などには良い顔をしつつ裏では各国へ破壊工作を仕掛けて侵略準備を進めるなど、破滅的なまでの領土拡張路線を突き進むようになっている。


 黒霧に操られていたソフィアさんやダンジョン崩壊の一件もそうした破壊工作の一環でほぼ間違いなく、ここ最近はそうした事件が各地で多発しているのだという。


 代々神聖法国を統治する〈宣託の巫女〉も先代辺りからほぼお飾りになっており、命の危機を感じたシスタークレアは信用のおける聖騎士シルビアさんとともに逃げてきたとのことだった。


 ただ、逃走に必死で教会が腐敗した原因などについては調べきれなかったようで――


「……教会はどうして私の命を……〈神聖騎士〉の命を狙ってるんでしょう……」

「いまの教会の動きには不可解な部分も多いので推測になりますが……恐らくは腐った教会の価値観に染まっていない〈神聖騎士〉がいては将来的に甘い汁を吸えなくなる可能性が高いからとか、そんなところではないでしょうか」


 アリシアの疑問にも、明確な答えはもっていないようだった。


 とはいえ――クレアさんが〈宣託の巫女〉であり、現在の腐った教会と敵対関係にあるというのは紛れもない事実。

 アリシアを守るにあたって教会権力者に正当性を保証してほしいと思っていた僕たちにとって、協力関係を結ぶのにこれ以上適した人はいなかった。


 自らの身の上を開示したシスタークレアは、改めて僕たちに向き直る。


「――そういうわけで、わたくしは自由を謳歌する傍ら、腐敗した教会をともに打倒してくれる将来の英雄を探していたのです。お互いに利害は完全に一致しているようですし、ここは手を組みませんか」


 真摯な瞳を向けてくるシスタークレア。

 酒乱だったり発言がたびたび下品だったりと無茶苦茶な人だけど、打倒教会を語るその瞳は真剣そのもので。いまなおコッコロの存在に指先を震わせながらも背筋を伸ばすその姿に、僕は彼女の覚悟を感じ取っていた。


「もちろんです。アリシアを守るためというのもありますけど……教会がそんなことになっているなんて、仮にもロマリア教徒の家に生まれた者として見過ごせません」


 そうして僕とシスタークレアは同盟関係を締結。

 その証として握手を交わそうとしたときだった。


「ちょっとお待ちください。同盟締結は私としても異論はないのですが……その前にひとつ確認しておきたいことがあります」


 シスタークレアの護衛。

 実はレベル130の〈槍聖騎士〉だったシルビアさんが真面目な表情で口を開いた。


「エリオ―ル……いえエリオ殿。あなたはレベル300の聖騎士であるコッコロを支配下に置いているとのことですが……具体的にはどうやってそのように強力な隷属スキルをかけたのですか」

「え」


 どうにか上手いこと誤魔化せたと思っていた〈主従契約〉について蒸し返され、僕の背中を変な汗が伝った。


「え、いや、その、それっていま重要なことですか……?」

「無論です」


 どうにか誤魔化そうとする僕に、シルビアさんが生真面目な表情で断言する。ひぇ。


「〈聖騎士〉は通常、精神支配系のスキルを無効化する性質を有します。それをこのように完全隷属させてしまう常識外のスキルなど危険極まりない。毒蛇に噛まれた私たちを救い、村で子供を救ったあなたのことは信用していますが……〈宣託の巫女〉の護衛としては発動条件を把握しておく義務がある。これは絶対です」


 せ、正論……! 


「確かに、言われてみれば不思議ですわね。聖騎士を隷属させるなんて前代未聞のスキル、かなり難易度の高い発動条件があるでしょう。教会打倒のために活用することもあるでしょうし、是非詳細を把握しておきたいですわね」

 

〈宣託の巫女〉様まで興味を持ち始めた……!?


「ぐっ……」


 僕は必死になって頭脳を回すも、打開策は思いつかない。

 覚悟を決め、小さく口を開く。


「ええと、そのですね、僕の〈主従契約〉スキルは、対象と仲良ししまくれば、発動するんです……」

「仲良し? 親密度が関係するのか?」


 シルビアさんが首をひねる。

 ああ、「仲良し」じゃ通じない!


 でも教会最高指導者とその護衛にはしたない言葉を使うなんてあまりにも畏れ多すぎるし普通にセクハラでは、と躊躇っていたところ、


「……セック〇です」

「は?」

「……エリオとセッ〇スすると……エリオの奴隷になれるんです」

「ア、アリシア!」

 

 僕の躊躇を察したアリシアが代わりに説明してくれた。

 言い方はちょっとアレだけど助かった! 

 男の僕が言うのと女のアリシアが言うのとじゃセクハラ度が違うし! と思っていたところ、


「え……」

「な、なにを言っているんだあなたは!? 冗談にしては品がなさすぎるぞ!?」

 

 クレアさんが絶句し、シルビアさんが敬語も忘れて声を荒げる。

 ですよね!


「いやあの、本当なんです。僕の〈ギフト〉、追放されるだけあって色々とアレで……。セッ……仲良しで何度も頂に達してから命令すると、〈主従契約〉が発動するんです」

「頭がおかしいのか!?」


 僕の補足にシルビアさんが顔を真っ赤にして怒鳴る。

 反論できない……!


「セッ……で隷属など、本気で言っているのか!? もしや適当なことを言って本当の隷属条件を誤魔化そうとしているんじゃないだろうな!?」

「い、いや本当なんです、信じてください!」


 強い疑念の目を向けてくるシルビアさんを僕は必死で納得させようとする。

 けど鑑定水晶を通して見たスキル説明にも「極限まで仲を深め、共に頂へ辿り着いた相手と主従契約を結ぶ」としか表示されないため、説得は困難を極めた。

 と、僕が困り果てていると、


「なにがセッ……で隷属だ、本当だというなら実演して見せてみろ!」

「あー、それが手っ取り早いわね」

「え?」


 なんかもうヤケクソで口走ったらしいシルビアさんの言葉に、面倒臭そうな表情をした女帝ステイシーさんが同意した。え?


「こんな頭のおかしいスキル、口で説明したって誰も信じないわよ。女帝旅団の女を適当に連れてくるから、いまこの場で実演してみせてやればいいわ」

「な、なに言ってるんですか!?」


 ステイシーさんのとんでもない提案に、僕は慌てて反論した。


「スキルの発動条件証明のためだけに女の人と仲良しするなんて許されませんよ! 倫理的に!」

「は? いまさらなに言ってんだお前?」


 豹獣人のリザさんが頭おかしいヤツを見る目で僕を見てくる。

 なんですか! なにか言いたいことでもあるんですか!


 と、僕が女帝旅団のとんでもない提案に抵抗していたところ、


「はぁ面倒臭い。……あ、じゃあ、アレなんてどうかしら」


 ステイシーさんがふと思い出したように、僕とシルビアさんを交互に見やった。


「水源汚染の件で後回しになってたけど、街の近くに厄介なモンスターが出てるのよ。もしかしたらその対処で〈主従契約〉の発動条件を証明できるかもしれないわ」


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 エリオ君は良識のある子ですね(なおこれまでの所業)

※2021/10/14 若干描写を修正しました

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る