第101話 淫魔VS聖騎士


「がっ、は!?」

「エリオ!?」


 アリシアの悲鳴が洞窟に響く。

 教会の最高戦力、十三聖剣第6位、コッコロ・アナルスキーの凶刃が僕の身体を切り裂き、鮮血が周囲にまき散らされたのだ。


 激痛が肩を焼き、全身から汗が噴き出す。

 戦闘で初めて負った重傷に、心臓がバクバクと荒れ狂っていた。


 けど――僕は倒れない。


「ぐ、うううううぅ!」


 レベル290に達した〈淫魔〉の生命力とアリシアの〈自動回復付与〉のおかげでかろうじて命を繋ぎ、僕は再びコッコロと相対する。


「マジかよお前……最高のオモチャだ!」

 

 そんな僕を見て、コッコロがブルブルと身体を震わせながら突っ込んできた。

 

「ぐ、ううぅ!?」


 もはやナイフを弾いてワープを阻害する余裕もなく、男根領域による感知でかろうじて致命打を防ぐジリ貧の戦闘が続く。

 教会最高戦力の猛攻に、いまにも意識が飛びそうだった。


(ぐっ……強い! 〈現地妻〉で逃げようにも、初撃を避けるためのワープでアリシアたちの「元いた場所」はこの洞窟になっちゃってる……! 僕が先にダンジョン都市に逃げて次にアリシアたちをワープさせようにも、そのわずかな時間差で殺される可能性が高い……!)


 コッコロの強さは本物だ。

 瞬間移動を駆使したその反射速度と猛攻は〈ヤリ部屋〉に引き込む隙もない。

 そもそもワープ能力を持つ彼女を〈セックスしないと出られない部屋〉に引き込んで意味があるのかさえわからなかった。


 だったら、一か八か!


 だ――っ!


「あ?」


 瞬間、コッコロが間の抜けた声を漏らした。

 なぜなら僕がコッコロに背を向け、全力で逃げ出したからだ。

 数瞬だけポカンとしていたコッコロだったが、やがて洞窟内に大きな笑い声が反響する。


「あは、あっはははははははははは! 逃げやがった! 逃げやがったあいつ! 大事な〈神聖騎士〉様を見捨てて! あはははははっ!」


 そしてコッコロは、殺意に溢れた瞳をアリシアへと向けた。


「ま、どうせこの洞窟には私のナイフを埋め込みまくってるから逃げ場なんてないんだけど。とりあえずあのガキには偽りの希望を抱かせといて、見捨てられたお姫様の処理からヤっちゃうか。あ~、でも興奮しすぎて一瞬でヤっちゃいそ」

「……っ!」

「ま、なんにせよもう終わりだよお姫様。私のおもちゃとして精々楽しませてよ――ね!」


 コッコロが軽口もそこそこにアリシアへ突っ込み、ペペごとたたき切ろうとその凶刃を振るった――その瞬間。


「〈現地妻〉――同時発動」


 男根領域ですべての動きを察知していた僕は、その瞬間移動スキルを発動させていた。

 それは以前こっそり試していた〈現地妻〉の応用。

 僕の元に女の子を移動させ、女の子のもとに僕を移動させる能力をまったく同時に発動し、〈主従契約〉を結んだ子と僕の位置を瞬時に入れ替える荒技だ。


「あっ!?」

 

 突如としてアリシアとペペが消え、代わりに遠くへ逃げていたはずの僕が現れる。

 突然の事態に驚愕の声をあげるコッコロに、僕は体勢を立て直す間もなく男根を叩き込んだ。だが、


 ガギン!


 それでもなお、コッコロは教会の最高戦力としての矜恃を見せつけた。

 聖剣で僕の剣を受け止め不敵に笑う。


「初撃で不自然に攻撃を避けられたからまさかと思ってたら……やっぱりあんたも瞬間移動スキル持ちかよ。ますますもって得たいが知れないなぁ。けどざーんねん。この不意打ちを防がれた時点で、もうあんたに手なんて――」

「別に構わない」


 コッコロの声を遮るように、僕は荒々しい笑みを返した。


「入れ替わりの力を使ったのは、あなたに不意打ちを叩き込むためじゃない。この場からアリシアとペペを逃がすためだから」

「あ? なに強がり言って――」


 コッコロがバカにするような笑みを浮かべた、次の瞬間。


「男根領域――煌!」

「は? な、ぎゃああああああああああああっ!?」

 

 僕とコッコロの周囲が炎上した。

 いや正確には、周囲に薄く張り巡らせていた僕の男根が炎上した。


〈男根形質変化〉で男根の熱を操作することにより実現する灼熱の男根。

〈淫魔〉の魔力が生み出す熱が、僕とコッコロをまとめて包み込む。


「な、んだこりゃああ!? だがこんなもんすぐに逃げれば――あ!?」


 瞬間移動で熱の檻から逃げようとしたコッコロが困惑の声を漏らした。

 そこで僕は自分の作戦が成功したことを悟る。


「やっぱり……魔力の奔流の中で瞬間移動スキルは使えない」

「っ!?」


 瞬間移動のスキルは強力無比な力だ。

 けど空間に作用するその繊細な力は、周囲の魔力が荒れすぎていると使えないことがある。たとえばダンジョンから脱出するマジックアイテムは魔力の濃いダンジョン内でしか使えないけど、逆にモンスターのブレスなど攻撃的な魔力の奔流の中では発動しないという注意点があったりするのだ。


 灼熱男根は熱量がコントロールしづらいから完全に賭けだったけど――極細の男根が放てる熱には限界があるようで、どうにか〈自動回復付与〉でカバーできるギリギリの火力で瞬間移動を阻害できていた。


「ぐっ、ふざけやがってええええええ! 限界突破聖騎士スキル――Lv100〈聖鎧付与〉! Lv90〈自然回復力強化〉」

 

 熱に悲鳴をあげるコッコロが膨大な魔力を放出。

 限界突破しているらしい強力な防御と回復促進スキルで身を守りつつ男根領域から逃走を図る。けど――ガギイイイイイン!


「てめえええええ! どけえええええええっ!」


 走って逃げようとするコッコロを放置しておくわけがない。

 ウェイプスさんに作ってもらった聖剣でコッコロに斬りかかり、その足を止める。


 灼熱の男根が周囲の空気を歪めるなか、僕は静かに口を開いた。


「あなたにトドメを刺す前に。ひとつだけ言っておきたいことがあります」

「ああ!?」


 そして僕は自らの聖剣に男根をまとわりつかせながら――先ほど背を向けて逃げた僕をあざ笑ったコッコロへ、激情のすべてを叩きつける。


「僕がアリシアを見捨てて! 逃げるわけないだろうがあああああああああ!」


 帝都から追放された僕を追いかけてきてくれたアリシアを!!


「なっ、があああああああああっ!?」

 

 瞬間、激情に反応したかのように燃え上がり、周囲とは比べものにならない熱をまとうのは聖剣に巻き付けた僕の男根。


 男根剣・煌――応用形態〈燥冠〉


 人を殺さないよう調整された炎熱の剣はしかし周囲の熱よりなお熱く、限界突破した〈聖騎士〉の硬い守りを膨大な熱の魔力ですべて焼き焦がしていく。


〈自動回復付与〉の回復力を上回りつつある炎熱に自分の身体さえ焦がしながら、しかし僕は全力で灼熱の男根を振るった。


 教会の放った凶刃から、どんな手を使ってでもアリシアを守るために。

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