第102話 〈淫魔〉の眷属


「はあああああああああああっ!」

「があああああああああああっ!?」


 洞窟内を灼熱が揺らす。

 周囲一帯に広げていた男根領域が熱を放ち、コッコロと僕を包みこんでいた。


 湧き上がる魔力の熱は繊細な魔力操作が必要とされるコッコロの瞬間移動スキルを阻害。

 僕の聖剣に巻き付いた男根は周囲を上回る熱を放ち、凄まじい威力でコッコロに叩きつけられる。


「ぐ、うううううううっ!?」


 教会が保有する最上位の〈聖騎士〉であるコッコロが聖剣で僕の攻撃を受け止める。

 限界突破してLv100に達した防御スキルと回復スキルで僕の男根に耐えるその戦闘能力は驚愕に一言だ。

 

 けど、


「これで……終わりだああああああああああっ!」

「ぐ、があああああああああっ!?」


 ズガガガガガガ!


 変幻自在。灼熱一閃。

 自由自在に姿を変え宙を駆けるマグマのような僕の男根が、コッコロの聖剣をすり抜けその身体を打ちのめした。

 

〈聖騎士〉の膨大な魔力も、鍛え抜いた強力なスキルも真正面からぶち抜き、灼熱の男根がコッコロを吹き飛ばす!


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!


 体中から煙を噴き上げながらコッコロが吹き飛び、轟音とともに壁に叩きつけられた。


 それと同時、僕は男根領域・煌を解除。

 洞窟内に満ちていた熱が引き、僕はその場に膝を突く。


「はぁ、はぁ、はぁ……どうにか、勝てたぞ」

 

 アリシアの〈自動回復付与〉があったとはいえ、さすがに男根剣・煌の自爆技は無理があった。

 焼けた肌と喉の痛みに顔をしかめながら、〈ヤリ部屋〉からポーションを取り出して飲もうとした――そのときだ。


「く、そがああああああっ!?」


 壁に叩きつけられて大ダメージを負っているはずのコッコロが唸り声をあげながらふらふらと立ち上がった。


「てめえ……クソガキがぁ! よくもこの私にここまでの傷を……! 許さない……っ! 絶対に生き地獄を味あわせたうえでぶち殺してやる!」


 瀕死とは思えないギラついた瞳で僕を睨む狂気の聖騎士コッコロ・アナルスキー。

 けどその殺意はあまりにもわかりやすい虚勢だ。


「無駄ですよ。僕の攻撃を耐えるために魔力を使い果たしてますよね? 反撃はおろか、瞬間移動でこの場から逃げることさえ不可能だ」


 油断なく男根を構えながら、僕は諭すように口を開く。


「逆に僕はまだまだ余裕がある。どうして教会がアリシアを狙うのか、教会内部の何割が敵か、これから使情報を吐かせますから、覚悟してください」


 男根剣・煌は魔力消費がかなり激しい。

 けど最近のレベルアップで魔力が増しているうえに、あの破戒僧シスタークレアさんに以前もらった豪魔結晶で消費魔力が削減されている僕には、まだまだ余力があった。


 アリシアの〈自動回復付与〉のおかげで諸々の怪我も致命傷には至っていない。

 

 なのでコッコロの反撃に一応は警戒しつつ、僕は勝利を確信しながらコッコロを完全に無力化すべく男根を伸ばした――が、そのときだった。


「くくっ、あっははははっははは! バケモノじみた強さでも所詮は戦闘経験の浅いガキだなやっぱ」

「っ!?」


 コッコロが突然哄笑をあげる。

 かと思えばその口内から銀色に煌めく刃が飛び出して――


「バーカ。教会最高戦力の私が、切り札をもってないわけないでしょ?」

「なっ!?」


 バキッ!

 コッコロが口内の刃をかみ砕いた瞬間、溜め込まれていた魔力がコッコロを満たす。

 それはちょうど、瞬間移動するのにぴったりな魔力で――


「まさか――!?」


 慌てて男根でコッコロの身体を捕まえる。けど――間に合わない!


「あっはははっは! 誰が捕まるかバカが! 覚えとけよクソガキ! あんたらの魔力も顔もやり口もしっかり覚えた! 今度は教会の腐った連中かきあつめて、絶対になぶり殺しにしてやるからなぁ! 精々怯えながら過ごしなよ! あっはははは!」

「く……っ!」


 口汚い捨て台詞を吐いて、コッコロの姿が掻き消える。

 洞窟中に男根を広げてみるも、その気配はもうどこにも感知できなかった。

 

「くそっ、逃がした!」


 アリシアを狙う刺客を!

 僕らの情報をたっぷり握らせた状態で!


 と、僕が拳を地面に叩きつけると同時。


「エリオ!」

「ご主人しゃま!」


 男根の放つ熱に巻き込まれないよう遠くに逃がしていたアリシアとペペが必死の表情で僕に駆け寄ってきた。


「エリオ……! 大丈夫……!? 私がまだ力不足だったから……!」

「そんなことないよ。アリシアの〈自動回復付与〉のおかげで無茶な戦い方ができたし」


 泣きそうな顔で全力の回復魔法〈ケアヒール〉をかけてくれるアリシアに、僕は本音で答えた。


「それに、力不足は僕のほうだ。アリシアを狙う刺客をみすみす逃がして……! あんな厄介な敵を放置してたら次はどうなるか……少なくとも教会から逃げ続けるのはかなり難しくなる」


 と、僕が逃がした驚異の大きさに歯がみしていたときだった。


「? ご主人しゃま、それなら大丈夫だよ?」

「え?」


 アリシアの治療が間に合ったのか、すっかり傷の塞がっているペペが小首を傾げた。

 そして僕とアリシアが予想だにしなかったことを口にする。


「あの怖い人なら、ペペの欠片がしっかり捉えてるからっ」


      *


 ウォークリー洞窟から少し離れた夜の山林に、突如として人影が出現した。

 

 全身からぷすぷすと煙をあげる灰色の髪の美人。

 ギリギリのところで〈淫魔〉から逃げ切った聖騎士、コッコロ・アナルスキーだ。


「はぁ、はぁ……くひっ、くひゃひゃひゃひゃ! あっぶねぇ! 虎の子の充填魔力じゃ大した距離は飛べなかったけど、姿くらますには十分十分!」


 コッコロは無事逃げ切れた喜びに快哉を叫ぶ。

 しかし笑い疲れて「はーぁ」と息を吐くと、その瞳には敗走の屈辱と明確な殺意が再び燃え上がっていた。


「あのクソガキ、覚悟しとけ……! あんたの手の内はもうわかってんだから。次はその可愛い顔、〈神聖騎士〉様の前でぐちゃぐちゃにしてやる……!」


 ありとあらゆる虐殺方法を夢想して、コッコロは怪しく瞳を光らせていた。

 

「……っと、その前にちゃんと回復しとかないとね。魔力が切れた状態でモンスターに襲われて死んだとか間抜けすぎるし」

 

 言いつつ、コッコロは大量の投げナイフを収納しているアイテムボックスから各種回復ポーションを取り出した。魔力が切れた状態でもそこらの雑魚モンスターに負けるレベル300の〈聖騎士〉ではないが、弱り切った状態で長くいるほど平和ボケもしていない。


 ポーションがしっかり作用するには少し時間がかかるし、周囲にモンスターの気配がないいまのうちに回復してさっさと帰還してしまおう、とポーションの蓋をあける。


 そのときだった。


「え……?」


 ぽとり。

 手に持っていたポーションが地面に落ちる。

 なにやってるんだ私は、と拾おうとするのだが……手に力が、入らない。


「は? な、なにこれ!?」


 手だけではない。

 全身から力が抜けていき、どちゃっ、と上半身が地面に倒れる。


「あ!? この感覚は麻痺!? なんで急に……!? くっ、〈ケアリム〉!」


 なけなしの魔力を振り絞って状態異常解除のスキルを使う。

 すると身体の痺れは緩和。

 力が戻った手で再びポーションを手に取ろうとするが――無駄だった。

 またしても手から力が抜け、まともに動かない。


「なんで……!? ふざけんな、一体どこに麻痺の状態異常なんてかけてくるモンスターが!?」


 と、コッコロが悲鳴のような声をあげた、そのときだった。


「う――!? な、おごおおおおおおっ!?」


 彼女の胃袋の中でなにかが膨らみ、喉をせり上がって噴き出してきたのは。


「ん――っ!? ん――っ!?」


 喉を圧迫する半液状の異物に涙をこぼしながらコッコロが目を見開く。

 

 その目に映るのは――半透明の身体を持つ、小柄な美少女。

 上半身だけ人の形をした人外だ。

 コッコロの体内に下半身を残して麻痺毒を分泌し続ける不定形の美少女は、獲物を前にした捕食者のように口からだらだらと涎を垂らす。

 

 そして可愛らしい声で、人語を発した。


「よくもご主人しゃまとアリシアお姉しゃまに酷いことしてくれたねー? ここから先は……ご主人しゃまに代わってお仕置きだよ」


 複合スキル〈淫魔の恩恵〉その1……分身。


 血液に〈擬態〉した身体の一部がコッコロに経口摂取されたあと、胃の中で潜伏を続けていたペペの欠片。

〈聖騎士〉が魔力切れを起こし弱体化したことでようやく欠片から「分身体」へと変貌できたペペの一部は、その幼い顔に三日月のような笑みを浮かべた。


 淫魔の眷属にふさわしい凶悪な笑みを。


「それじゃあ、いただきます……❤」


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 次回、淫魔追放103話 「わからせ」……だったのですが、運営様からの警告が来た関係であらすじ掲載になります。ご了承ください。

 また、104話もあらすじ掲載になりました。申し訳ありません。


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