第100話 襲来の暗殺者


「ペペ!」

「ご主人……しゃま……ご無事、でしゅか……」


 背中から血を流すペペを男根で抱き寄せる。

 

 幸い命に別状はない。

 けれど背中を切り裂いた傷はかなり深く、予断を許さない状況であることは間違いなかった。

 僕はまっすぐ前を向いたまま、男根で抱えたペペをアリシアに託す。


「ペペの治療を!」

「……うんっ。念のためエリオにも……〈自動回復付与〉」


 まだ発展途上のアリシアを下がらせると同時、彼女に付与魔法をかけてもらった僕は明らかにレベルの違う目の前の敵に男根を構えた。


 いきなり出現したことから、ソフィアさんと同じ気配消失スキルの所持も警戒。

 即座に男根領域も展開させる。


「へぇ? 変わった魔剣だねー。けど出し入れしにくい腰に仕込んでるのはなんで? 暗器ならもっと取り回しの聞く隠し場所がたくさんあるはずだけど」

「そんなことどうでもいい、お前は何者だ!?」


 仮面の女性が発した(答えにくい)疑問を無視して言葉をぶつける。

 このタイミングでこの場所に現れた以上、どう考えても目の前の女性は水源汚染の犯人でしかあり得ないから。


(それにこの人、さっき《神聖騎士》がどうのって……!?)


 アリシアの正体を知っている人なんてほとんどいないはずなのに。

 嫌な予感が頭を巡り、思わず声を荒げて目の前の女性を詰問する。

 けれど、


「私が誰とか、んなことどうでもよくない? どうせお前ら全員、私の加虐快感エクスタシーのために死ぬんだからさぁ❤」


 仮面の女性はけらけらと笑い声をあげると同時、大量のナイフを投げてきた。

 凄まじい鋭さだ。


「っ! 問答無用か!」

 

 当然、僕はアリシアたちにナイフが当たらないことを計算して回避。

 あるいは男根で叩き落とす。

 そして突然攻撃を仕掛けてきた目の前の女性を無力化すべく駆け出した。


 ――が、次の瞬間だった。


「えっ!? 消え――」


 目の前から――それどころか男根領域の感覚からも、仮面の女性が完全に消失した。

 

 あり得ない。

 だけど次の瞬間、さらにあり得ない現実を僕の男根領域が感知した。

 

 


「う、あああああああああああああっ!?」


 僕はほとんど悲鳴をあげるようにして斜め後ろに現れた気配に即応。

 何股にも枝分かれさせた男根剣で回転斬りを繰り出し、攻撃と防御を同時に叩きつけた。

 瞬間――ガギン!


「っとお。まさかこれを初見で防ぐ? 油断すんなって言われてたけど、マージで油断できないねー。護衛? のあんたから狙って正解だわ」

「……!?」


 仮面の女性が握るショートソードと僕の男根剣が激しく衝突する。

 

 だけど――


(アダマンタイト化してる僕の男根剣と、まともに打ち合ってる!?)


 何度打ち付けても相手の剣は折れない。

 それどころか刃こぼれひとつしない。

 まるで不壊の属性が付与された特別な剣のように。


 まさか、と最悪の予感が頭をよぎると同時、僕は全力で相手を仕留めるべく速攻で動いていた。


「やああああああっ!」

「っ!?」


 相手の剣とぶつかり合う瞬間、男根剣を変形させる。

 普通の剣戟ではありえない剣の挙動と変形速度に、普通ならここで確実に勝負がつくはずだった。普通なら。


 けど、


「あっぶなー。戦闘中に鋭さ保ったまま変形とか反則かよ。受け流しながら打ち合った感じ膂力も尋常じゃないし、まともにやったら負けてるっつーの。あんたホントに人族?」

「な……っ!?」


 仮面の女性は、僕の攻撃を完全に回避していた。

 目の前から忽然と消えたかと思えば、次の瞬間には投げたナイフの散乱した場所に立っていたのだ。


 またしても、


 そこから考えられる相手の能力は、もはやひとつだけだった。


「まさか、瞬間移動のユニークスキル!?」

「ほー? まあこれだけ見せればバレるか」


 仮面の女性がにたぁ、と笑う。

 

 そうして僕の推察を肯定した女性に、僕の中で再び「なぜ?」と疑問が湧き上がった。 


 いままでの戦闘から見て、恐らくその瞬間移動能力は無制限じゃないだろう。

 妙な魔力を帯びたあのナイフ。恐らくはソレを起点にした限定的なワープスキルだ。

 けどそれを差し引いても……戦闘中にこれだけ自在に発動できる瞬間移動系のスキルなんて、それこそ国を背負って立てるレベルの能力。


 技術の差か、経験の差か。〈異性特効〉が発動しているいまの僕と打ち合う技量からも、仮面の女性が相当の実力者だとわかる。


 それなのに――


「それだけの実力者がなんでこんなことを!?」

 

 水源を汚染して、浄化しに来た僕らを襲って。

 いやそれどころか、口ぶりからして最初から僕らを狙ってたかのような――と僕が再び疑問を口にしたときだった。


 ぴしり。


「あ?」


 先ほどの僕の攻撃がギリギリで当たっていたのだろうか。

 女性の仮面にヒビが入る。そして、バキャッ。


「……チッ。私としたことがやっちったな」


 女性の素顔があらわになった。

 二十代中盤のヒューマン。

 濃い灰色のポニーテールがよく似合う整った美貌。

 狂気めいた瞳は逆にどこか異性を引きつけるような怪しい魅力があって――その顔に、僕は見覚えがあった。


「あなたはまさか……神聖法国の十三聖剣、コッコロ・アナルスキーさん!?」

「っ」


 僕の言葉に、襲撃者が「へぇ」とばかりに目を細める。


 それは、2年ほど前。

 帝都の王が神聖法国から新しく妃を迎えるということで開かれた盛大なセレモニーに、僕が貴族家として参列したとき。

 両国の友好を示すための使者としてやってきた十三聖剣6人の中に、僕は確かにこの人の顔を見たのだ。不壊武器――聖剣を携えたこの人を。


 よく覚えている。 

 だって憧れの聖騎士の、さらに選りすぐりの人たちだったから。

 いつかあれくらい強くなりたいと、アリシアと話したことがあるから。


「バレたんなら仕方ないね。……そうとも、私は十三聖剣が第6位。コッコロ・アナルスキー。そこの〈神聖騎士〉アリシア・ブルーアイズを消すためにわざわざ来てやった教会専属の掃除屋だよ」

「な……!?」


 正体が割れた途端べらべらと目的を語る女性――コッコロの発言に僕は凍り付いた。


(教会が〈神聖騎士〉の――アリシアの命を狙ってる!?)


 その突拍子もない発言に、僕の理性が「あり得ない」と何度も叫ぶ。


 確かに、ソフィアさんの一件から教会が信用できないとは強く感じていた。

 ろくでもない理由でアリシアを追っているのだとほとんど確信していた。


 いつか出会った破戒僧、シスタークレアの『いまの教会は腐ってますから』という胡散臭い言葉もいまではすんなり飲み込めてしまうほど、教会への信用は下がっていた。


 けど――教会の総本山であるロマリア神聖法国がいまなお巨大宗教国家として君臨しているのは、かつて結託して人族を滅ぼそうとした魔族に対抗し、当時の宗教指導者が各地の英雄を束ねたという功績に由来する。


 そしてその「各地の英雄」の筆頭が、当時の〈神聖騎士〉だ。

 ゆえに〈神聖騎士〉は伝説級の〈ギフト〉と呼ばれ、〈聖騎士〉を束ねる存在として教会からは〈宣託の巫女〉の次に重要視されているほどなのだ。


 それなのに――


「なんで教会が〈神聖騎士アリシア〉の命を狙うんだ!?」

「はー? 私が知るかよそんなこと。私はただ絶対正義カミサマの名の下に殺しができればいいだけでさー」


 僕の必死の疑問を一蹴し、コッコロが聖騎士にあるまじき発言を口にする。

 

「それより……なんでわざわざご丁寧に教会の命令だって教えてやったと思う? それはなぁ、てめえらガキが絶望するその顔が見てーからだよ!」


「……っ!?」


「あはは、怖いよねー。仮に万が一ここで逃げ切っても大陸に多大な影響を及ぼす巨大宗教国家様がガチであんたたちの命を狙ってんだからさー。それこそ十三聖剣を直々に派遣してくるレベルの本気。生きる希望なくすでしょ? だからほら、ここで私にバラバラにされたほうがお前らも私も幸せで丸く収まると思わない? ねぇ!?」

「っ!?」


 コッコロが狂気に満ちた笑みを浮かべて叫んだその瞬間――ズガガガガガガン!


 再び大量のナイフが投げつけられ、瞬間移動を駆使したコッコロの猛攻が問答無用で僕を襲った。

 

「あはっ! あはっはははははっ! 凄い凄い! やっぱマジですげえよお前! その年でこんだけヤるとか! あ~、マジで興奮してきた……! お前みたいな可愛いガキにこんだけいい感じに抵抗されるとさぁ! いまからはらわた引きずり出すこと想像するだけでイっちゃいそうだよおい!」

「~~~っ!」

「エリオっ!」


 ペペを守るアリシアの悲鳴が響くなか、真正面から本物の殺意が叩きつけられる。

 それこそ魔族のレジーナと戦ったとき以上の狂気的な殺意は、僕の中から細かな疑問をすべて吹き飛ばしていた。


 理由はまるでわからない。

 けど教会は本気の本気で〈神聖騎士〉を――アリシアを殺そうとしてる……!

 水源汚染までして神聖騎士アリシアをおびき寄せ。

 瞬間移動能力で行軍の時間を大幅に短縮できるのだろう十三聖剣の1人を派遣して。

 

 それだけ本気で。アリシアの命を――!


「そんなこと……誰が許すかあああ! 男根剣!」


 変幻自在の男根をふるい、コッコロがワープの起点として次から次へと投げつけてくるナイフをすべて水中へ叩き落とす。

 

 と同時にコッコロへ斬りかかるのだけど――パッ!

 僕の死角に投げていたのだろうナイフのもとへコッコロがワープして距離をとる。

 かと思えばあらぬ方向へ――防御結界を張ってペペを守るアリシアの方向へ、全力で駆け出した。


「しま――っ!?」

「バカが! 私の本当の狙いは〈神聖騎士〉なんだから、バカ正直にてめえとヤりあい続ける必要なんかねえんだよ!」


 凄まじい速度でコッコロが駆ける。

 アリシアのほうへナイフを投げ、一瞬でその距離を縮めようとする。


「くっ――!?」


 狙われたアリシアたちを守るため、〈現地妻〉を発動して僕のもとへ2人を引き寄せようとした、そのときだった。


「なーんてね❤」

「っ!?」


 真正面に意識を奪われていた僕の背後に――ナイフなんて落ちていないはずの場所に、コッコロの気配が現れたのは。


「な――っ!?」

「この洞窟には既に私のナイフが埋めまくってあんのよねー。これ見よがしなナイフ乱打にまんまと引っかかった?」


 引き延ばされた時間の中で確かにコッコロがそう口にしたと思った瞬間、凶刃が僕に迫る。


「ぐっ!?」


 老獪なコッコロの不意打ちに反応が遅れるも、どうにかギリギリで凶刃の前に男根剣を滑り込ませて防御に成功する。

 だが次の瞬間。


「その魔剣の強度はもう見切ってんだよ――聖騎士スキル〈剣戟聖強化〉!」

「な――っ!?」


 刹那――バギャアアアアアアアッ!

〈聖騎士〉の魔力をまとったショートソードが――不壊属性を持つ聖剣が僕のアダマンタイト男根を打ち砕いた。


 その勢いのまま、聖剣が僕の肩を切り裂く。


 ザンッ! ブバッ!


 僕の身体から鮮血が噴き出し、「エリオ!?」アリシアの悲鳴が洞窟に木霊した。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 コッコロが思いのほか強くて戦闘が長引いてしまったので続きます、すみません。


 ※余談ですが、先日フォロワーさんが1万人を突破してました!

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