第99話 汚染の真実
爛れた夜が明けた翌日。
僕とアリシア、そしてペペの3人は宿を発ち、目的地であるウォークリー地下洞窟を目指していた。
町を出るとき、半透明の半液状美少女ペペが目立つんじゃないかと心配だったのだけど、それは杞憂に終わった。なぜなら、
「……ペペ、可愛い。スライムの姿も可愛かったけど、いまの姿も人間の女の子にしか見えなくて……可愛い」
「えへへー。ありがとー、アリシアお姉しゃまー」
ペペはいま、まるっきり人間の女の子にしか見えない姿になっていたのだ。
スキル〈擬態〉。
これによってペペは半透明の身体を変質させ、人族に化けていた。
流動体の身体を変形させて服もばっちり。
髪の毛も一本一本さらさらで、とてもスライムガールには見えなかった。
……実は昨晩の仲良し大会でペペの身体にも〈主従契約〉の証が刻まれてしまって、いくら擬態しても下腹部の紋様は消えなかったんだけどね……。
ま、まあなにはともあれ、そうして僕たちは周囲に怪しまれることなく町を出発。
まだ足の遅いペペを僕が背負い、「ご馳走だー❤」と汗を舐めとってくれるペペをくすぐったく思いながらウォークリー地下洞窟に到着した。
「うっ、これは……」
そしてその入り口で僕は顔をしかめる。
鍾乳洞のように美しい見た目をした洞窟から流れる水が、腐ったように酷い匂いを放っていたからだ。
匂い自体に害はないとはいえ、これはちょっとキツい。
「早く汚染源をどうにかしないと……それじゃあ、汚染源の探知よろしく、ペペ」
「わかったよ-」
僕のお願いに、ペペが人型のまま首肯。
「んー、あっちかなー」
〈ご飯探知〉のスキルを発動し、僕たちを先導してくれた。
結論から言うと、ペペの〈ご飯探し〉スキルは非常に優秀だった。
ウオークリー地下洞窟は通路の脇に水が流れる広い洞窟で、中はかなり入り組んでいた。
けどペペはその中をほとんど迷うことなく「あっちだよー」と指示。
それに従って僕とアリシアが駆け足で進んだところ――あっという間にその場所へ辿り着いてしまったのだ。
「ここは……」
それは一際広い、まるでダンジョンの門番部屋のような空間。
そこには地底湖のようになった水の溜まり場があり、そこに異様な影が沈んでいた。
「ポイズンゾンビの死骸、かな?」
原型がわからないほどグズグズに腐ったモンスターの死骸。
それは死んだモンスターがなんらかの理由でスライムなどにも食べられず、魔力偏重などのせいで歩く屍と化した存在だ。とはいえ長くは活動できないから、こうして水場などで動かなくなり、周囲を汚染することがある。
普通は水源全体を汚染するような強いゾンビなんてほとんどいないんだけど、もととなったモンスターがよほど強力だったのだろうか。
とにかく強い瘴気を発する目の前の死骸が汚染の原因であることは間違いなく、アリシアが「それじゃあ……浄化しちゃうね……」と強力な浄化スキルを発動させた。
地底湖の水がみるみるうちに浄化されていく。
「ふー、思ったよりずっと早く仕事が終わりそうでよかった。ありがとペペ。すごく助かったよ」
「えへへー。ご主人しゃまのお役に立てて嬉しいよ-」
僕が頭を撫でると、ペペがふにゃっと表情を崩す。
昨晩、僕を散々貪った食欲(性欲?)モンスターとは思えない無邪気な表情に僕も思わず相貌を崩した。
「さて、じゃあ仕事も早く片付きそうだし、いまのうちにペペのスキルを確認しとこうかな?」
昨日はペペに貪られてそれどころじゃなかったけど……ペペには〈ご飯探し〉と〈擬態〉の他に〈淫魔の恩恵〉という謎すぎるスキルが出現していた。
僕の〈淫魔〉スキルと一緒でどんな効能かわからないとちょっと危ないから、アリシアが浄化作業に当たってる間に色々と検証してしまおう――と思っていたときだった。
「……エリオ……ちょっと……」
浄化作業にあたっていたアリシアが固い声を漏らす。
「? どうしたのアリシア?」
その緊迫した声に、なにか問題でも発生したのかと慌てて駆け寄る。
けど近づいてみれば浄化作業は難航しているどころか、ほぼ完了しつつあった。
ペペのスキル検証をする時間なんてまったくないほどで、アリシアの〈神聖浄化〉の威力に感嘆していたのだけど、
「これ……なんだと思う……?」
「え……? っ!?」
アリシアが指さしたソレを見た途端、僕は全身が凍り付くのを感じていた。
「これは……マジックアイテム!? それも準国宝級の!?」
ポイズンゾンビの死骸――その影に隠すようにくくりつけられていた箱のような物体。
それはまるでポイズンゾンビの瘴気を増幅するような魔力を垂れ流していて。
あふれ出る魔力の質も量も、普通のマジックアイテムとはわけがちがった。
それこそ僕の生家や、もっと強い権力を持つ王家くらいしか所有できないような〝格〟
どう考えても、なんらかの偶然でポイズンゾンビの死骸とセットになったものではあり得なくて――
「まさか、この水源汚染は人為的な……!?」
僕の口から声が漏れた、その瞬間だった。
「ご名答❤」
「っ!?」
僕ら以外に誰もいなかったはずの洞窟に突如、知らない女性の声が響いた。
「危ないご主人しゃま!」
「っ!? ペペ!?」
瞬間、白刃がきらめく。
庇うように僕を突き飛ばしたペペの身体から鮮血が噴き出し、地面に倒れた。
と同時に、さらなる凶刃が倒れたペペとアリシアを狙い、凄まじい速度で宙を駆ける。
普通に助けたんじゃ、間に合わない――!
「〈現地妻〉!」
僕は咄嗟にワープスキルを発動。
僕のもとにペペとアリシアを超短距離ワープさせ、かろうじてその攻撃を回避させる。
「あ~? なにいまの? 切ったと思ったのに切れたのはターゲットじゃなくて変なガキだけかよ。……ま、いっかー。どうせ《神聖騎士》を筆頭に、この場にいるヤツは全員殺すんだし」
「……っ!? なんだお前……!?」
突然の凶刃に僕らが目を見開くなか。
べろり。
突如として現れた仮面の女が灰色の髪をなびかせ、ペペの返り血がついたショートソードを美味しそうに舐めとっていた。
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