第95話 0歳ヒロイン登場(犯罪ではない)
「水源汚染……?」
「ええ。街中の井戸と近隣の川がすべて瘴気で汚染されてる以上、原因はそれ以外に考えられないわね」
女帝旅団本拠地。
その最奥にある密談用の会議室で、僕はアリシアとともにいま街を騒がす異変の詳細を聞いていた。
女帝旅団頭領、女帝ステイシーさんは街の顔役として頭を悩ませるようにして続ける。
「ダンジョン都市サンクリッドから北にしばらく行った先にあるウォークリー山脈。その内部に広がる広大な地下洞窟がこのあたり一体の水源よ。強力なアンデット系モンスターが迷い込んで朽ちたか、あるいは先のダンジョン崩壊が魔力バランスに悪影響を及ぼした結果か……とにかく原因はウォークリー地下洞窟内にあるでしょうね」
言って、ステイシーさんはコップに汲んだ汚染水と無色透明な水を並べてみせる。
「さいわい、汚染水は浄化系スキルを持つ〈ギフト〉がいれば飲み水にできるし、しばらくはどうにかなるわ。けどこの大都市をいつまでもまかなうのは無理がある。最近は雨も少ないし、できる限り早く解決する必要があるの。とはいえ水源全体を汚染するような想定外の瘴気となると、街に常駐してる浄化系スキル持ちじゃ話にならない。浄化スキルに特化した〈聖騎士〉か、それに匹敵する〈ギフト〉の力が必要よ」
そこで単刀直入に聞きたいんだけど……と、ステイシーさんは真剣な様子で声を潜める。
「あなた、もしかして強力な浄化系スキルが使えたりはしない?」
アリシアを真っ直ぐ見ながらステイシーさんは言った。
そこで僕は自分たちが頼られた理由を悟る。
(あ、そっか。〈主従契約〉で絶対に秘密を漏らせないステイシーさんたちには断片的に僕らの情報は教えてるし、そもそもダンジョン崩壊のときにアリシアは〈神聖騎士〉の力を全開にして周りの人を守ったらしいから……)
アリシアが〈聖騎士〉に連なる強力な浄化スキルを使えるんじゃないかとステイシーさんたちが希望を抱くのも納得だった。
そしてその期待への答えは、
「……うん、使える」
〈神聖浄化Lv1〉
ダンジョン崩壊での戦いで急激に成長したアリシアが身に付けた新たなスキル。
アリシアはその威力を確かめるように、ステイシーさんが用意した汚染水に手をかざした。途端、神聖な魔力が放出され、汚染水が一瞬で無色透明に変化する。
鑑定水晶を通して確認してみれば、表示されるのは『水:最高品質』という表示。
それを見て、ステイシーさんとリザさんが目を見張った。
「うおっ、こいつぁ……!?」
「凄いわ、この威力なら水源汚染レベルの瘴気も根元から祓える……! 最悪、獅子王と協力して秘密裏に教会か帝都の協力を仰がなきゃいけないと覚悟してたけど……っ」
「これ……そんなに凄いスキルなんだ……私とエリオが仲良ししたときに溢れる愛の蜜を一瞬で綺麗な真水に変えて、宿のお姉さんを困らせずにシーツ交換してもらえる便利なスキルとしか思ってなかった……匂いとかもすぐ消せるし……」
アリシアが自分の手を見下ろしながらぽつりと漏らした。
その感想はどうかと思うけど……正直僕も同じ理由で便利と思ってたのでなにも言えない……。いやだって、僕らの部屋を掃除するたびに顔を真っ赤にして悩ましげに太ももをもじもじさせる看板娘さんには本当に申し訳なく思ってたので……。
ま、まあそれはいいとして。
「それじゃあ、女帝旅団頭領として正式に依頼するわ。周囲一帯の水源、ウォークリー地下洞窟を浄化してちょうだい。私たちはダンジョンを見張っておかないといけないし、あなたたちも力を見られたくないでしょうから兵力的な協力はできないけど、獅子王旅団やギルドとも連携して相応の報酬は約束するから」
「わかりました」
頼まれなくとも、水源汚染なんて重大事件、見過ごせるわけがない。
教会の動向とか気になることは多々あるけど、仮にも貴族家出身者として街の危機は捨て置けない。僕とアリシアは一も二もなく頷いた。
と、そんな僕の目を見て、
「あと……お金とは別に、他のお礼もたっぷりするから」
急に真面目な表情を消したステイシーさんとリザさんが僕ににじり寄ってきた。
え!? なに!?
「ダンジョン崩壊対処に復興工事の手伝いに、あなたはこれでもかと街に貢献し続けてくれてるんだもの。女帝旅団頭領として尽くしてあげるから、覚悟しておきなさい……❤」
「次はぜってーに足腰立たなくしてやっからな……❤」
「……いいですね、楽しみです。一刻も早く異変を解決して戻ってきますね」
「ちょっ、なんでアリシアが意気揚々と答えてるの!?」
てゆーかステイシーさんとリザさん! 最近の復興とかで忙しいからって、お礼にかこつけて、僕でストレス発散しようとしてない!?
しなだれかかってくるステイシーさんとリザさんにしれっと答えるアリシア。
そんな三人に搾り取られる未来に震えながら、僕は水源調査に乗り出すのだった。
「とはいえ……問題がひとつあるんだよなぁ」
宿に戻った僕はアリシアと水源調査の準備を進めながら一人ごちる。
それというのも、水源であるウォークリー地下洞窟には厄介な特徴があったのだ。
「ステイシーさんたちからも注意されたけど……本当に広大で複雑な作りだ」
見下ろすのは、ウォークリー地下洞窟の構造が一部だけ記された地図だ。
ウォークリー地下洞窟は山脈の内部に広がる鍾乳洞のような洞窟で、内部はかなり広大。
しかもダンジョンと違って好き好んで探索する人もいないので、マッピングがあまり進んでいないのだった。
出現モンスターはあまり強くないからそこは心配ないけど、汚染の原因を探すのはかなり骨が折れそうだ。
「さすがに地域一帯を汚染するような汚染源で男根探知を使うのは怖いしなぁ……ソフィアさんの嗅覚……も洞窟内だと汚染源の匂いが充満して利かないだろうし、そもそもまだ病み上がりで女帝旅団のお世話になってるソフィアさんを引っ張り出すのは気が引ける(やむをえず仲良しはしまくったけど)……うーん、どうしたもんか」
あまり時間をかけると街の負担が大きくなる。
最悪、アリシアの〈ケアヒール〉で癒やしてもらいながら僕のアソコを広げまくるのが一番早いような気がするけど……
上手いことアソコをケアできてもアリシアの魔力が保つかわからないし、そもそもアリシアが僕のアソコを危険に晒すような真似を容認してくれるかどうか。
と、なんとか効率よく汚染源に辿り着く方法がないか頭を悩ませていたときだった。
ガサゴソ……。
「ん?」
部屋の隅で物音がした。
音のしたほうにあるのは、僕とアリシアの仲良しの痕跡(婉曲表現)がたくさんつまったゴミ箱だったのだけど――。
なんだか小刻みに動いているような……。
なんだろうとゴミ箱をひっくり返してみたところ――ペトッ
「「え」」
僕と、それから遅れて気配探知を発動させたアリシアが声を漏らす。
なぜならゴミ箱から出てきたソイツは……小さな小さなモンスターだったのだ。
「……っ! ……っ!」
プルプルプルプルプルプルッ!
僕らが女帝旅団のほうへ行っている間に入り込んだのだろうか。
人間に見つかって可愛そうなくらいに震えるスライムが、死を覚悟したようにこちらを見上げて(?)いた。
―――――――――――――――――――――――――――――
そういえばアリの女王レジーナも1歳とかでしたね。
※2021/10/14 一部描写を修正しました
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