第3章 淫魔結合

第94話 暗殺依頼と新たな事件(※スカ〇ロ系展開にはならないのでご安心ください)


 カツン、カツン――……


 大教会の秘密地下施設に足音が反響する。


「よーっす。神聖法国聖騎士隊の重要戦力、十三聖剣が第六位、コッコロ・アナルスキーちゃんが来てやりましたよーっと」


 軽薄な声をあげながら重い扉を開くのは、濃い灰色のポニーテールが特徴な美女だった。

 年は二十代中盤。

 洗練された軽装備は教会所属の高位聖騎士にふさわしい厳かな雰囲気をまとっている。


 反面、聖女と見紛うばかりに整ったその顔に浮かぶのはドロリとした狂気だ。

 瞳に怪しく揺らめくのは、軽薄な態度では隠せない破綻者の眼光。

 そんな異常な雰囲気をまとう〈聖騎士〉、コッコロ・アナルスキーに声がかけられる。


「来たか。お前にしては遅かったな、〝最速〟の聖騎士」


 黒いモヤを操る美貌の女主神官。

 年はコッコロ・アナルスキーとほぼ同世代、ロマリア神聖法国の若き権力者だ。


「いやいや、これでもかなり急いだほうなんだけどねー? ちょっと異教の亜人どもを〝救済〟するのに手間取っちゃって。強いわあいつら。ま、そんなことよりさー」


 女主神官に軽く咎められたコッコロ・アナルスキーは言い訳しつつ、瞳を細める。


「見つかったんだって? 帝都で行方不明になってた〈神聖騎士〉が」

「ああ。だからお前を呼んだ」


 女主神官は声を潜める。

 そしてはっきりとこう口にした。


「最優先暗殺対象〈神聖騎士〉。帝都の連中に保護されるか、手に負えないほど成長する前に殺せ」


 教会の要職が命じるはずのない命令。

 しかし女主神官は当たり前のように断言したあと、依頼の詳細を述べる。


「居場所は帝都の端、ダンジョン都市サンクリッドだ。聖騎士隊を送り込もうにも表だって他国を経由するのは難しいし、なにより行軍に時間がかかりすぎる。その点、貴様単独なら〈神聖騎士〉が都市を離れる前に急襲を仕掛けられるだろう」


「まあねー。そんじゃま、いつも通りお仕事しますか。頭が幸せな教徒どもから絞りとったお布施から報酬もたっぷり期待できるわけだしねー」


 コッコロ・アナルスキーもまた、異常な命令を当然のように受け入れる。

 だが今回ばかりはコッコロにの表情にもかすかな疑問が浮かんでいた。


「しっかし妙な話ねー。〈神聖騎士〉っていえば教会の権威を爆上げする存在だろうに、丸め込もうとさえせずに暗殺なんて。なにか教会中枢にとって都合の悪いことでもあるわけ? ま、腐りまくって私みたいな〈聖騎士〉を飼ってる教会なら、自分たちより強くて人気になりそうな若い芽なんて目障りなんでしょーけど」

「……余計な疑問を挟まず仕事に徹するのが長生きの秘訣だぞ」


 コッコロの素朴な疑問に女主神官が低い声を漏らす。

 そんな彼女にコッコロはわざとらしく肩をすくめた。


「わーかってるわかってる。余計な疑問を抱いたせいで、ここ数年で何人の聖騎士が消されたことやら。ま、消したのは大体私だけど。……ははっ、こんなことやってっから〈宣託の巫女〉にも逃げられんだよ」


 軽口を叩くようにそう言って、コッコロ・アナルスキーは身を翻す。


「ま、依頼についてはりょーかい。正直私は絶対正義カミサマの名の下に殺しが楽しめればいいわけで。理由なんて正直どうでもいいしねー。下手な探り入れて上に目ぇつけられるくらいなら、とっととヤってくるわ」

「待て」


 と、早速〈神聖騎士〉暗殺に動き出したコッコロを女主神官が呼び止める。

 今回の依頼における注意点をまだ話していなかったからだ。


「確証はないが、〈神聖騎士〉サイドに、教会が信頼できないという印象を持たれた可能性が高い。加えてダンジョン都市は元々教会の干渉を嫌う土地柄だ。今回は身分を隠して動け。必要なマジックアイテムがあれば手配してやる」


 あとこれは諸事情から詳細は話せないが……と女主神官はなぜか小刻みに身体を震わせながら続ける。


「〈神聖騎士〉になにか得体の知れないお供がいる可能性がある。方法は不明だが、ダンジョン崩壊をも食い止めた手練れだ。油断はするな」


「はー? 私を誰だと思ってるわけ?」


 女主神官の忠告に、コッコロ・アナルスキーが口角をつり上げた。


「レベル300。ユニークスキルまで持ってる〈聖騎士〉の私に勝てるヤツなんて、そうそういねーっつーの。たとえ相手が発展途上の〈神聖騎士〉と、そのお供でもね」


 傲慢に言い放ちつつ、しかしその双眸に油断はない。

 神聖法国の暗殺遊撃騎士コッコロ・アナルスキーは新しい仕事おたのしみを効率よくこなすべく、濁った瞳に計算を走らせていった――……。


      *


 ダンジョン都市崩壊事件が無事に収束してから数日。

 復興工事で賑わうダンジョン都市で、僕は軽く溜息を吐いていた。


「うーん、ソフィアさんから有力な情報はなしか……」


 ロマリア神聖法国――すなわち教会の有力者らしき人に操られていたソフィアさん。

 彼女なら、教会がなぜ〈神聖騎士〉であるアリシアを追っているのか、なぜ教会内部が怪しい儀式を行ってまで帝国の混乱を狙うのか、色々なことがわかるかと思った。

 

 けど、


『……すみません……あの黒いモヤに突き動かされていたときの記憶は曖昧で……神聖法国に連れて行かれたというのも……いまいちピンときていないんです……』


 念のために〈主従契約〉スキルで知っていることを全部思い出すよう指示しても、ソフィアさんはほとんど情報を持っていなかった。消された記憶は〈主従契約〉の命令でもどうしようもないか、神聖法国にいた際はそもそもほとんど意識がなかったのどちらかなのだろう。


 結局、教会の狙いはわからないままだ。

 だけど、


「……どんな理由であれ、ソフィアさんを復讐鬼に変貌させたうえに、ダンジョン崩壊でたくさんの人を殺そうとしたんだ。アリシアを追っている理由も絶対にろくなものじゃない」


 となれば、僕がいまできることはアリシアを守るために強くなることだけ。

 僕はおもむろに、自らのステータスプレートを表示する。

 

 エリオ・スカーレット 14歳 ヒューマン 〈淫魔〉レベル290

 所持スキル

 絶倫Lv15

 主従契約(Lvなし)

 男根形状変化Lv12

 男根形質変化Lv12

 男根分離Lv10

 異性特効(Lvなし)

 男根再生Lv10

 適正男根自動変化(Lvなし)

 現地妻(Lvなし)

 ヤリ部屋生成(Lv1)

 精神支配完全無効(Lvなし)

 自動変身(Lvなし)

 従魔眷属化(Lvなし)

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「大台のレベル300手前に、スキルの限界突破……やっぱり成長の早さが普通じゃないや……なんかまたよくわかんないスキルも出てるし」


 先の戦いと仲良しの連続で成長した〈淫魔〉のステータスに我ながらちょっと引く。


 スキルの限界突破とは、文字通りスキルの熟練度限界であるレベル10を突破することを指す。


 それまでのLvアップに比べて1Lvあたりの威力上昇率は鈍化するけど、そのぶんLv上限はかなり高い。人外……すなわち英雄級の戦力に数えられる人たちの領域であり、本人のレベル限界を突破するための鍵とも言われていた。

 限界突破をできた人の数が少ないから、貴族家出身の僕も詳細はいまいち把握できてないけれど。


「まあとにかく、限界突破できたのはこの状況だとかなりありがたいや。またダンジョンで鍛えて、教会の追っ手から確実にアリシアを守れるようにしないと」


 とはいえ、懸念はある。


 それは上書き仲良しでソフィアさんの記憶を覗いた際、黒いモヤとも繋がった気配がしたことだ。考えすぎかもしれないけど……アリシアの気配を気取られたような、そんな感覚が拭えない。


「ちょっと神経質かもしれないけど……神聖法国から最速派兵可能な1ヶ月以内にはダンジョン都市を離れたほうがいいかもしれない。神聖法国に目をつけられそうなソフィアさんも一緒に」


 けどダンジョン都市を離れたところで教会の目は色々な場所にあるわけで。教会の権威が届かないダンジョン都市の喧噪に潜んでいるのが(比較的)一番安全なのは確かなのだ。うーん、ジレンマ。


 なんかもういっそのことダンジョンの奥底で〈ヤリ部屋生成〉を発動させてアリシア&ソフィアさんと引きこもってやろうか、なんてとこまで発想が飛躍する。


「いやいや、それはさすがに……いくらなんでも魔力が保つとは思えないし、なんかこう、二度と普通の生活に戻れなくなる気がする」


 昨日だって、ソフィアさんと僕の仲良しを見て興奮したアリシアが気絶するまで仲良しすることになっちゃったし……(なのでアリシアはいまも部屋のベッドで寝てる)


 アリシアたちとの爛れた仲良し生活に脳と倫理を破壊される未来を想像してちょっと怖くなりつつ、僕は一度落ち着くために宿の中庭へ向かう。


 ひとまず教会をどうするかについては少し時間があるし、焦りすぎないようにしよう。

 と、くみたての井戸水を飲んで気分転換しようとした、そのときだった。


「あー! お客さん! ダメですダメです!」


 猫獣人である宿の看板娘さんが慌てて駆けてきた。

 たまに僕とアリシアの部屋のシーツを片付けて気まずそうにしている人だ(すみません)。

 なんだろうと思っていれば、


「なんか今朝から井戸水の様子がおかしいんです! 飲むのはもちろん、顔を洗ったりするのもやめてください!」

「え……うわっ!?」

 

 井戸から汲み上げた水を見て僕は思わず声を漏らす。

 なぜならいつもは無色透明の冷たくて美味しい水が、汚泥のように濁っていたのだ。


 慌てて手持ちの鑑定水晶で覗いてみれば、


『水:瘴気汚染』


「な、なんでいきなりこんな……」


 と、僕が困惑していたところ――


「おー、いたいた。ったく、宿なんざ金がかかんだから、あたしらの拠点に来いって何度も言ってんのに。探すのも面倒だろうが」


 宿の中庭に、看板娘さんとは別の獣人女性が現れる。


 聞き慣れたその声に振り返れば、そこに立っていたのは女帝旅団のナンバー2、リザ・サスペインさんだった。

 リザさんは看板娘さんに案内されてきたのか、彼女に軽く礼を告げてから、僕に向き直る。


「おいエリオ、ちょっと頼みがある」


 そして彼女は声を潜め、井戸の異変に戸惑う僕へ真剣な表情でこう告げた。


「今朝から街中の井戸と川の様子がおかしい。解決のために力を借りてーから、淫獣アリシアと一緒に女帝旅団の本拠地に来てくれ」


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 新章開幕です。新章開幕からサブタイトルの注釈がアレです。全部コッコロが悪い。新スキルの詳細は次々回あたりに。


 ※そういえば91話投稿時や93話投稿時に☆が普段より増えててびっくりしました。フォロワーさんも順調に増えてますし、応援コメを筆頭に執筆意欲がムラムラです。ありがとうございます!


※2021/10/14 一部描写を修正しました

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