第90話 VS戦姫ソフィア・バーナード


 ダンジョン崩壊を起こしたと語るダンジョン都市最凶の冒険者。

 狼人ウェアウルフの戦姫旅団頭領、ソフィア・バーナードさんが、一切の気配なく僕の眼前に降り立っていた。


「……ダンジョン崩壊の穴を塞いだ謎の石柱……あなたの仕業ですよね……?」


 ソフィアさんは二本の短剣を構え、冷徹な瞳で僕を睨み付ける。


「……どうやったのか検討がつきませんし、そもそもアレがなんなのかまったく意味がわかりませんけど……あの石柱からはあなたの香ばしい匂いがぷんぷんしてました……アレは間違いなく、あなたの仕業です」


 確信を持った声で言うと、続けてソフィアさんはこちらに短剣を向けながら――


「……あの石柱、いますぐ解除してください」

「絶対に嫌です」

「……私たち、お友達ですよね……?」

「友達だから!」


 懇願するように言うソフィアさんに、僕ははっきりと告げる。


「友達だから、あなたにこれ以上の罪を犯させるわけにはいかない」

「そっか……邪魔するんだ……」


 瞬間、ソフィアさんの纏う空気が一変した。


「……あの石柱がなんなのかはわからないけど……アレはきっとあなたと繋がってる。殺すのは嫌だけど、あなたを気絶させるか魔力を断つかすれば消えるはず……だから……」


 ――まずはあなたを排除する。


「っ!! ソフィアさん! 待って、まずは話を――っ!?」

「……問答、無用……!」


 説得を試みた僕の声は途中で途絶えた。

 

 短剣を構えたソフィアさんが凄まじい速度でこちらに突っ込んできたからだ。


「クソっ! やっぱりソフィアさんを倒さないことには説得も――えっ!?」


 男根剣を構えて全力の迎撃を試みた僕は、そこで言葉を失った。

 破壊された屋台や建物の影に一瞬だけ姿を隠したソフィアさんを完全に認識できなくなったからだ。姿だけでなく、気配もまったく感知できない。


 そして次の瞬間、


 ――ヒュッ!!


 突如、背後から凄まじい殺気と圧が爆発。

 咄嗟に男根剣で防ぐも――ドゴォ!!!


「うわあああああっ!?」


 凄まじい衝撃が爆ぜる。

 しかも本当にギリギリの防御だったため体勢も不十分。

 異性特効が発動しているはずの身体が容易く吹き飛ばされる。

 

 建物を吹き飛ばしながらようやく止まった僕は、立ち上がりながら愕然と声を漏らした。 


「これは……やっぱりソフィアさんの能力は……!_」

「……もうわかってますよね……私の力」

「っ!」

 

 かつん、かつん、と僕に近づきながらソフィアさんが自らの力を明かす。


「……私のユニークスキルは〈不可視パラダイス・子供達ロスト〉。強力な気配遮断スキルです……」


 やっぱりか……!


「……人やモンスターは視覚だけではなく、聴覚や魔力の揺らぎからも他者の存在を感知する。……そして私の〈不可視パラダイス・子供達ロスト〉は……熟達した〈盗賊〉以上の精度で気配を消す……。いまあなたが紙一重で防御できたように、攻撃の瞬間まで気配を消せるほど万能無敵ではないですけど……それでも私の速度とあわせれば……あなたに勝ち目はないですよ……?」


「……っ!」


 ソフィアさんの主張はもっともだ。

〈神聖騎士〉であるアリシアの探知スキルもすり抜ける強力な気配遮断スキル。

 そして異性特効を発動したレベル265の僕さえ翻弄するソフィアさん自身の身体能力。

 普通に考えて勝ち目はない。

 けど、


「何度も言います。それでもあなたが後戻りできなくなるのを見過ごせない!」

「……そっか」


 ソフィアさんが二本の短剣を握り直す。


「……なら、あなたが意識を失うまで……刻みますね?」

「ぐっ……!? うわあああああああああっ!?」

 

 そこから先は一方的だった。

 いくら目で追おうとしても、速度に特化した狼人が物陰に身を隠しながら動き回れば捕えるのに苦労する。

 そこに強力な気配遮断の能力まで加われば、防御が手一杯だった。


 いや、実際には防御さえままならない。

 攻撃直前には気配が探知できるといっても、相手の速度は相当なものなのだ。


 威力よりも速度を重視した短剣での攻撃とはいえ、相手はダンジョン都市の頂点。 

 不完全かつ一息遅れの防御ではまともにダメージを殺せない。


 加えて、狼人ウェアウルフであるソフィアさんはこちらの気配を読むのも上手いのだろう。

 伸縮自在の男根剣を闇雲に振り回したところで当たる気配すらなかった。


 僕はあっという間にボロボロにされる。

 呆気にとられて戦いを見ていた旅団構成員たちが、悲鳴をあげるように叫んだ。


「お、おいなんだありゃ!? リザさんを瞬殺したあのガキが一方的に……誰か援軍呼んでこい!」


 蜘蛛の子を散らすように構成員たちが駆け出す。

 ソフィアさんはそれらを気にすることもなく――僕に強烈な蹴りを叩き込む。


「うあああああああっ!?」

「……さすがにもうわかりましたよね? 勝ち目はないって……」


 瓦礫に埋もれた僕に、ソフィアさんが語りかけてきた。

 それはまるで最後通告とばかりに。


「……これ以上、お友達を傷つけたくないですから……早くあの石柱を解除してください」

「まだだ……」

「……?」


 僕が漏らした掠れた声に、ソフィアさんが首をひねる。


「まだ勝負はついてない……!」

「……往生際の悪い」


 僕の無駄な粘りに呆れたかのようにソフィアさんが溜息を漏らす。

 そして再び、彼女の姿が掻き消えた。 


「これでトドメです……短剣スキル〈餓狼狩り〉」


 瞬間、爆発的な魔力の奔流が立ち上る。

 その一撃はいままででもっとも重い。

 中途半端な防御では確実に意識を刈り取られると直感でわかる必殺だ。


 そしてその攻撃が僕の首に迫った、その直前――


 ガギン!!


 重い金属音が周囲を激しく揺らした。

 

 分厚く変化した僕のアダマンタイト男根が、だ。


 刹那、攻撃を防いだ僕はソフィアさんに蹴りを叩き込む!


「な――っ!?」


 ソフィアさんが声を漏らし、ギリギリのところで攻撃を避けた。

 けれどその顔には、いままでにない驚愕と困惑が浮かんでいる。


「……? いま、私の動きを察知していた……? いやあり得ない……ただの、偶然」


 そしてソフィアさんは再び気配を消して突っ込んでくる。

 だけど――ガギィン!


 僕の男根が、再びソフィアさんの攻撃を防いでいた。

 完璧に。先ほどよりも数瞬早く。


「……っ!? どうして……!?」

「ずっと考えてたんだ……アリシアにも探知できないあなたをどう捉えればいいのか……」

「っ!?」


 動揺するソフィアさんに、僕は独り言のように告げる。

 もう彼女に勝ち目がないと伝えるために。


「この技はいろんな意味で使いたくはなかったけど……あなたは思ったよりずっと強かった。だからもう、四の五の言っていられない」


 そして僕は、ソフィアさんを止めるために編み出したその禁術を全力で解放した。


「――男根領域、展開」


 これでもう、ソフィアさんは僕の男根から逃げられない。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 ここ数年のジャンプ、めちゃくちゃ面白いですよね。

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