第91話 おちんぽ必中領域
「――男根領域、展開」
瞬間、僕がいま握っている男根剣とは別の男根――股間から生える本体男根がズボンのウェスト部分からすべて飛び出した。
そしてその男根は、一瞬にして無数の細い糸へと枝分かれする。
生半可な枝分かれじゃない。
目に見えないほど細く変化した男根は、数え切れないほどの本数に分かれ、瞬く間に周囲一帯を埋め尽くしたのだ。
「……っ!? なんですか……これは……!?」
男根は目に見えないほど細い。
それでもナニカが周囲を埋め尽くす感覚に気づいたらしいソフィアさんが動揺の声を漏らす。
けど次の瞬間には意識を切り替え、真っ直ぐ僕を睨み付けてきた。
「攻撃の気配は感じない……これがなんであれ、とにかく……あなたを気絶させれば済む話です……!」
凄まじい速度で動き回り、物陰に身を隠して気配を遮断。
これまでと同様、ソフィアさんは僕の感知できない死角から痛烈な一撃を叩き込んでくる。けれど、
「
「っ!」
ガギィン!
ソフィアさんの一撃を、僕は完全に防いでいた。
なぜならもう、僕にはソフィアさんがどこにいるのか手に取るようにわかるから。
「……っ!? さっきから、どうして私の動きが……!?」
ソフィアさんの顔が三度驚愕に歪む。
ソフィアさんの動きがわかる理由。
それは僕がこの周囲一帯に張り巡らせた男根だ。
言うまでもなく、男根は体の中でも極めて敏感な感覚器官。
僕はその感覚を遮断しないまま、蜘蛛の巣のように男根を張り巡らせているのだ。
いくらソフィアさんが気配を遮断しようと、存在そのものまでは消せやしない。
彼女が地を踏めば、同時に僕の男根を踏む。
彼女が空を切れば、同時に僕の男根に引っかかる。
この領域内にいる限り、僕の男根は必中。
つまりソフィアさんがどこにいるのか、手に取るようにわかるのだ。
相手がどれだけ早く動こうが、気配を遮断しようが、男根領域の前ではすべて無意味。
(アーマーアントの巣穴を探索し、迷子の女の子を探しだした男根探知の応用だ!)
もちろん、この技には相応のリスクがある。
周囲一帯を覆うために極限まで薄くのばした男根は悲しいほどに脆い。
そして相手の動きを探知するため、感覚はある程度残しておかないといけない。
つまりソフィアさんが動くたび、僕自身が動くたび、傷ついた男根から少なくない痛みが返ってくるのである。だけど――
「そのぶんはっきりと、チンポであなたの居場所を感じる!」
これこそ肉棒を切らせて骨を断つ、捨て身の淫魔奥義だ!
驚愕するソフィアさん目がけ、棍棒状に変化させた超重量の男根剣をぶちかます。
「っ!? くっ!?」
ソフィアさんが避けようとするも、その動きも感知済みだ。
傷つく男根の痛みと引き換えに!
「うりゃああああっ!」
「きゃあああああっ!?」
僕の攻撃が、そこではじめてソフィアさんを完全に捉えた。
短剣でガードしたソフィアさんだったけど、そんなもので防げるほど男棍棒の破壊力は低くない。〈淫魔〉の膂力もあわさり、ソフィアさんが大きく吹き飛ぶ。
ドゴオオオオオン!
幾つもの建物をぶち抜き、そこでようやくソフィアさんは止まった。
僕が急いで駆け寄るも、その華奢な体は起き上がる気配もない。
(速度特化の〈ギフト〉は元々力や防御が低くなりがちだし、ソフィアさんは速度を重視してかなりの軽装だったから……)
手加減したけど、それでも威力が強すぎたかもしれない。
心配しながらソフィアさんの様子を窺う。
すると、
「……どうして、邪魔するんですか……」
倒れたまま、ソフィアさんが呻くように漏らした。
「……こんな街、残しててもしょうがないのに。滅ぼさないと、また私みたいな被害者が出るのに……」
「……大丈夫です」
小さな子供のように漏らすソフィアさんに、僕は少し迷いながらも断言した。
「悪い人がいたら、僕がどんな手を使っても、言うこと聞かせて平和にしますから」
「……??」
ソフィアさんが僕の言葉に目を丸くする。
そして不思議そうにぽつりと漏らした。
「……なんででしょう。ただの綺麗事なのに、あなたの言うことなら、信じられる。お友達だから、でしょうか……?」
「そ、そうですね。お友達だからですね、きっと」
多分、セットクで無理矢理平和にしてる実績が既にあるから、言葉に妙な説得力が滲んじゃってるんだろうな……。
けどまあだからといって、「この街を平和にする夜の大運動会はもう実行済みです」なんて言えるわけがない。
だから僕は言葉を濁しつつ、どこか憑きものが落ちたようなソフィアさんを抱き起こそうとした――そのときだった。
「あ……!? うあ……!?」
「っ!? ソフィアさん!?」
突如。
僕の手を取ろうとしたソフィアさんの身体から、負の感情を煮詰めたような黒いナニカが噴き出した。
「アアアアアアアアアアアアアアッ!?」
「うわっ!?」
獣のような絶叫をあげたソフィアさんが弾かれたように立ち上がる。
そしてその両腕が先ほどまでよりずっと強い力で振るわれた。
ドス黒い闇の力を借りたかのように、ガードした僕を容易く吹き飛ばす。
ソフィアさんの身体はもう、戦うどころか立ち上がることさえできないはずなのに!
「なんだこれ!? ソフィアさん、一体なにが!?」
「殺さないと……」
「っ!?」
「全員、殺さないと……」
「なにを……!?」
明らかに正気を失った目でソフィアさんが呟き、纏う闇は勢いを増していく。
そしてその闇が――女性の声を発した。
『このガラクタ、ここまで来て壊れるのかよ……なら精々、周りも一緒に巻き込んで派手にぶっ壊れな』
「な――っ!?」
悪意の塊めいた闇が、
直後――ソフィアさんが動いた。
まるで操り人形のように、壊れかけの身体で短剣を構える。
「ソフィアさん! 動いちゃダメだ!」
「ウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアア!」
必死に呼びかけるも、返ってくるのは獣の雄叫び。
殺意と狂気に彩られたソフィアさんは自分の身体が痛むのも構わず、僕に襲いかかってきた。まるで命を燃やすかのように、黒いモヤを噴出して。
キャハハハハハハハ!
黒いモヤが心底楽しげに
なにがどうなって――!?
と、僕がソフィアさんの攻撃を避けながら混乱の極地に叩き込まれていたとき。
「なんだありゃ!?」
背後から叫ぶような声があがった。
振り返れば、豹獣人のリザさんが驚愕しながらこちらに駆け寄ってくる。
リザさんだけじゃない。
僕とソフィアさんの戦闘を見て援軍を呼んだ旅団構成員の声が届いたのだろう。
女帝ステイシーさん、獅子王、アリシアも駆けつけ、ソフィアさんの有様に目を見開く。
「おいエリオ、なんだあの戦姫の有様は!」
「わかりません! 戦闘に勝ったら、いきなりあんな……!」
リザさんの質問に僕も叫ぶように返す。
そんな僕たちの混乱に答えるように、女帝ステイシーさんが絶句しながら口を開いた。
「この魔力の気配……禍々しさも強力さも私のユニークスキルとは比べものにならないけど、まさか何者かの洗脳スキル!?」
「洗脳!?」
ステイシーさんの言葉に僕が言葉を失う。
それと同時に、〈神聖騎士〉のアリシアが確信を持って断言した。
「……アレだ……私がソフィアさんから感じた、嫌な気配の正体……!」
「……!」
だとしたら、まさか。
あの黒いモヤこそが、ソフィアさんを異常な復讐に駆り立てたモノの正体なのか!?
愕然とする僕の隣で獅子王が叫ぶ。
「洗脳スキルだと!? しかも女帝以上のものとなると、もうこの場では殺すしか止める手はないぞ!?」
瞬間、僕らの動揺を察知したかのように、黒いモヤが悪意に満ちた声を発した。
『キャハハハハハ! その通り、このガラクタを止めたきゃ
黒いモヤがソフィアさんの身体を使って僕を指さす。
『これ以上、このガラクタに人を殺してほしくないとか綺麗事ほざいてたなぁ? だとしたら、もうヤることはひとつしかねえだろぉ? キヒッ、キャハハハハハ!』
「……っ!」
悪意に満ちた女性の笑い声。
それを聞きながら僕は――ひとつの決断を下していた。
ソフィアさんを異常な復讐に駆り立ておかしくしたものが得体の知れない洗脳スキルだというのなら。
この正体不明の黒いモヤの言う通り、ヤることはひとつしかない。
『キャハハハハハッ! どうしたガキぃ。押し黙って、まさか
瞬間、黒いモヤがはじめて間の抜けた声を漏らした。
けれどそれも無理はない。
なぜなら黒いモヤはソフィアさんの身体ごと、いきなりまったく別の空間へと送られたのだから。
セッ●スしないと出られない部屋。
スキル〈ヤリ部屋生成〉。
「ソフィアさん、ごめん」
僕は黒いモヤに激しい怒りを抱きながら、はっきりと宣言した。
「僕はいまからあなたを――あなたの罪を犯す」
僕の男根で、あなたを縛るなにもかもを上書きするために。
―――――――――――――――――――――――――――――
罪は犯せるし、法律にも穴はある。
※89話で出たアリシアのステータスなのですが、新しく発現した神聖浄化Lv1というスキルの表記が抜けていたので加筆修正しました。
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