第89話 キャリーペニペニと覚醒の神聖騎士


「なんで私がここにいるのか不思議がってる顔ですね? では教えてあげましょう!」


 モンスターの湧き出る街中にいきなり現れたハーフエルフの少女。

 キャリー・ペニペニさんは風魔法でふわふわ浮きながらなぜかドヤ顔で語り始めた。


「実はあなたたちを送り届けたあと、私は正式にこの街と城塞都市の間を行き来する運び屋として採用されたんです。それでまあ、今日はお休みだったのでダンジョン都市のおいし~食事を楽しんでさっきまで宿で寝てたんですが、なんかうるさいなーと思って起きたらこの騒ぎですよ。ですが!」


 キャリーさんは腰に手を当てふんぞり返る。


「私はちんぽ専用輸送係を免れた豪運のハーフエルフ! モンスターに宿を襲撃される前にギリギリ脱出し、いまこうして元気に飛んでいるというわけです! で、今度はこっちから質問なんですけど、これは一体どういう状況なんですか?」


 キャリ-さんが首をひねって訊ねてくる。

 けど僕はキャリーさんの質問なんてガン無視で彼女の手を掴んだ。


「助かった! キャリーさんに頼みがあるんです!」


 そして僕はズボンに手を突っ込み、〈男根分離〉と〈男根再生〉を連発。

 大量の男根を次から次へと量産して、キャリーさんの持っていたバックに無理矢理詰め込んだ。


「ぎゃあああああああっ!? なにするんですか一体!? なんで私の鞄にちんぽ詰め込んでるんですか!? 頭がおかしい!」

「お願いですキャリーさん! いますぐその男根を街に発生した大穴の中に放り込んできてください!」

「は!? ちょっ、意味がよくわからな――」

「いいから! 人命がかかってるんです! 報酬はあとでいくらでも払いますし、僕にできることならなんでもしてあげますから!」

「え、えぇ……?」

 

 キャリーさんは目を白黒させてドン引きした表情を浮かべる。

 けど僕の真剣さを直感で理解してくれたのだろう。


「う、ぐっ、うわああああああああん! せっかくチンポ輸送係を免れたと思ったのにいいいいいっ!」


 キャリーさんは僕の男根を鞄いっぱいに詰め込み、高速で空を駆けていった。


「あとは犠牲が出る前に大穴が全部塞げれば……!」


 分離した男根は、対象に応じて勝手に〈適正男根自動変化〉が発動する。

 本体である僕がダンジョンにムラムラするようになった以上、分離した男根も勝手にダンジョンを塞ぐ形状に変化してくれるはずだ。


「間に合ってくれ……!」


 僕は祈りながら、残ったモンスターを切り伏せていった。


 

      ●


 エリオがダンジョンの大穴を塞ぐ手立てを発見する直前。

 モンスターの侵攻を食い止めるべく、それぞれの穴の前では激戦が続いていた。


「おい淫獣! あっちの防衛線が崩れそうだ、助けにいってやれ!」

「……はいっ」


 女帝旅団№2、豹獣人のリザ・サスペインが指揮を取る戦場。

 ここではアリシアも加勢し、次々と現れるモンスターの群れを押しとどめていた。


 さすがに集団戦の指揮ではリザに一日の長があるため、アリシアは彼女の指示に従いその力を発揮する

 気休めではあるが姿を誤魔化すアイテムを使い、出し惜しみすることなく〈神聖騎士〉の力を振るっていた。


「……〈身体能力強化【極大】〉……〈剣戟強化【大】〉……!」


「「「ガアアアアアアアアアッ!?」」」


 毎日のようにダンジョンに潜って高めた戦闘能力と、強力無比なスキル。

 その2つがあわさり、大量のモンスターがゴミのように蹴散らされていく。


 アリシアはレベルこそ旅団幹部たちの誰よりも低い。

 だがその強さはそこらの幹部が束になっても敵わないほどに成長していた。


 そんなアリシアを見て、リザが呆れたように声を漏らす。


「エリオといいこの淫獣といい、ガキのくせにどうなってんだこの強さ……」

 

 あまりにも得体の知れない強さに、いまさらながら怖気さえ覚える。

 だが、


「これならどうにか持ちこたえられるか……!?」

 

 ダンジョン崩壊がいつまで続くか不明な以上、戦いは恐らく撤退戦になる。

 多少の犠牲は覚悟したうえで、街の滅亡を避ける手を旅団の頭領たちは選択するはず。


 それまで持ちこたえれば、とりあえずこっちの勝ちだ。


 ――と、リザがエリオとは違う現実的な勝利条件を見据えて希望を見いだしていた、そのときだった。



 異様なプレッシャーが、目の前の大穴から這い出してきたのは。



「オオオオオオオオオオオオオオッ!!」


「な――!?」


 歴戦の冒険者であるリザが言葉を失っていた。

 なぜなら大穴から凄まじい勢いで飛び出してきたのは――生きた厄災だったのだ。


 レベル250。

 モンスターの中でも最強のポテンシャルを持つ龍種。

 地下60階層に出現する規格外のボスモンスター、青龍だ。


「ざけんなクソッタレ……!?」

「リザさん! アレは無理っすよ! ステイシー様の全力魔法でもねえと、龍の鱗にゃ傷ひとつつかねえ!」


 配下の悲鳴にリザは歯がみする。

 確かにもう、援軍を呼ぶしか手がない。

 だが女帝も獅子王も、そして規格外の強さを持つエリオも、現在は別の穴を担当している。


 助けを呼ぼうが呼ぶまいが、もはや被害拡大は避けられなかった。


「クソっ! 仕方ねえ、一部戦線崩壊は承知のうえで助けを――」


 と、リザが指示を出そうとしたときだ。


「……待ってください」


 アリシアが静かに、しかし断固とした声を発した。


「……エリオは、一切の犠牲を出さないつもりです……ソフィアさんのために。私はそれを諦めたくない……」

「はあ!? なに寝言ほざいてんだ淫獣! だったらあのバケモンを誰が――」

「私が……相手してみます」

「は……!? ちょっ、よせ、死ぬぞバカ!?」


 しかしリザの言葉はアリシアには届かない。

 彼女はその凄まじい身体能力で既に駆け出していたのだ。


「グオオオオオオオオオオオオオッ!」


 アリシアに気づいた青龍が雄叫びをあげる。

 すべてを焼き尽くす龍の息吹がアリシア目がけて放射された。


「……〈神聖堅守〉……〈自動回復付与〉……!」

 

 だがアリシアは止まらない。

〈神聖騎士〉の強力な結界と自動回復スキルで青龍の息吹を強引に突破。

 

 火傷を負いながら一気に肉薄し、その手に握る剣を振り上げる。


「あの淫獣、龍の息吹をしのぎやがった!? いやだが無茶だ! 青龍の鱗はとにかく硬ぇ! はじき返されて反撃食らうのがオチだぞ!?」


 リザが怒声をあげる。

 だがその声ももまた、極限まで集中するアリシアには届いていなかった。


(エリオにこの聖剣を……不壊武器をもらったときから、ずっと考えてたことがある……)

 

……全力で放ったらどうなるか)


(武器の損耗も……自分の体への反動も気にせず叩きつけたらどうなるか……)


「試すなら、いま……スキル……〈魔神斬り〉……!」


 瞬間、凄まじい衝撃が周囲を揺らした。


「な――――っ!?」


 瓦礫や砂塵が吹きすさび、リザたちはたまらず顔面を腕でかばう。

 そしてその衝撃がおさまると同時に顔をあげて――リザたちは自らの目を疑った。


「ガ……ア……!?」


 血の泡を吹いて地に伏していたのは、腹を大きく抉られて息絶えた青龍。


 そしてその傍らでは、返り血を浴びたアリシアが全身ボロボロで立ち尽くしていたのだ。


 だがアリシアの負った傷は暖かな光とともにすぐさま治癒。

 何事もなかったかのように剣についた血を振り払うと、アリシアは満足下にこう呟いた。


「……うん、よし。これでエリオを押し倒せる私に、また一歩近づけた……」


「な……あ……」


 そのあり得ない戦果にリザはいよいよ言葉をなくす。

 だがすぐに正気を取り戻し、周囲に声を張り上げた。


「ぼ、ぼさっとすんな野郎ども! 青龍を倒しても他にモンスターは湧いてきてんだ! いま起きたことは忘れて、戦闘に専念しろ!」

「へ、へい!」


 圧倒的脅威が瞬く間に取り除かれた戦場は士気も上々。

 アリシアの戦闘に触発された旅団構成員たちの奮戦により、防衛戦はモンスターの群れを押し返す勢いで続いていった。


 

 アリシア・ブルーアイズ 14歳 ヒューマン 〈神聖騎士〉レベル110(前回から40up)

 所持スキル

 身体能力強化【極大】Lv11(限界突破。前回から3up)

 剣戟強化【大】Lv10(前回から2up)

 周辺探知Lv11(限界突破。前回から1up)

 ケアヒールLv8(前回から4up)

 神聖堅守Lv10(前回から6up)

 魔神斬りLv8(前回から6up) 

 自動回復付与Lv8(前回から7up)

 神聖浄化Lv1(New)


(※76話付近で1週間ダンジョンに潜っていたぶんの成長も含む)



 ●


 キャリー・ペニペニさんが僕の男根輸送を引き受けてくれてすぐ。

 各地の戦況を知らせてくれている〈音響魔導師〉のアナウンスが酷く困惑したものに変わった。


『っ!? え、なんだアレ!? 巨大な岩の棒!? い、いや、まさか男根!? な、なにやら意味がわかりませんが、ダンジョン崩壊で生まれた大穴が次々と塞がれていきます!? あ、全部塞がった!? ……な、なにがなんだかわかりませんが、とにかくこれ以上モンスターが増えることはなさそうです! 皆さんもうひと踏ん張り!』


「よし……!」


 その声を聞いて、僕は思わず拳を握っていた。

 分離した僕の男根とキャリー・ペニペニさんがしっかり仕事を果たしてくれたのだ。


「あとは街に溢れたモンスターを全部倒すだけだ……!」


 このあたりにいるモンスターは大体すべて駆逐した。

〈周辺探知〉が使えるアリシアと合流して、各地の掃討戦に協力しよう。


 と、僕が駆け出そうとしたときだった。


「……これは一体……どういうことですか……?」

「っ!?」


 突如、僕の背後から低い声が響く。

 思わず飛び退き、僕は気配もなく背後を取ったその相手と対峙した。


「……せっかく頑張ってダンジョン崩壊を引き起こしたのに……どうして……?」

「ソフィアさん……!」


 戦姫ソフィア・バーナード。

 この大事件を引き起こしたと語るダンジョン都市最凶の冒険者が、2本の短剣を引き抜き僕を睨み付けていた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――

 第2部、ラスボス戦です。

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