第87話 ダンジョン崩壊
※ガラにもなく重い展開が続いてしまってすみません。次回88話よりいつもの淫魔追放です。
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しばらく周辺を探し回ってもソフィアさんを発見できなかった僕たちは、〈現地妻〉で女帝旅団の本拠地にワープしていた。
ソフィアさんがダンジョン都市の滅亡を画策していることを知らせ、旅団の人海戦術でソフィアさんの行方を捜してもらおうと考えたのだ。
女帝旅団の本拠地には同盟の打ち合わせで獅子王(美少女)も来ていて、僕は戦姫ソフィアさんの話をするとともに、彼女の捜索を依頼する。
「なるほどな……戦姫はこの街の歪みが生み出した復讐鬼だったか」
「ま、復讐されるのも仕方ないロクデナシの街だものね。けどだからといって、こっちも一方的にやられるほどお人好しじゃないから。悪いけど事前に対処させてもらうわ」
獅子王と女帝ステイシーさんは言って、旅団構成員に戦姫旅団の情報収集を命令。
ソフィアさんを少しでも早く見つけるために迅速に動いてくれた。
僕の言葉が信用されているというよりは、ソフィアさんがそれだけ警戒されていたということなのだろう。
「ま、けどそこまで焦る必要もねーだろ」
そんな中、ステイシーさんたちと一緒に僕の話を聞いていた豹獣人のリザさんが笑い飛ばすように言う。
「あの戦姫がどんだけ強くても、この大都市を滅ぼすなんざ不可能だっつーの。組織をめいっぱい拡大してんならまだしも、いまの戦姫旅団は内戦直後だぜ? 仮にあたしら敵対旅団幹部をコツコツ消してく算段があったとして、そしたら今度は三大旅団の弱体化を察した帝都から聖騎士が統治しに来るだけ。街を滅ぼすなんざ夢のまた夢だ」
「まあ確かにそうなんですが……」
リザさんの言うことはもっともだ。
街を滅ぼすというソフィアさんの言葉は復讐心が先走った誇張表現と取るのが普通だろう。
「けどなんだか嫌な予感がするんです。ソフィアさんの言葉がただの戯れ言とはとても思えなくて……油断は禁物だと思います」
「つってもなぁ」
僕の言葉を聞いたリザさんがボリボリと豹耳を掻く。
「この大都市を滅ぼそうと思ったら、それこそ数十万の大軍やらモンスターやらがいきなり目の前に現れねえと無理だろ。んな現実的じゃねーこと警戒してたら逆に足下すくわれて――」
……と、リザさんが言い終わる直前のことだった。
――――――――――――ドッ!!!
とてつもない揺れが、ダンジョン都市を襲ったのは。
「なんだ!?」
凄まじい地響きが建物全体を軋ませる。
しかもその揺れは収まるどころかどんどん大きくなり、なにかが崩落するような轟音も聞こえてくる。
さらには異常なまでの魔力の奔流が地の底から噴き上がるような気配までして――僕たちは一斉に部屋を飛び出していた。
僕、アリシア、ステイシーさん、リザさん、獅子王が一直線に向かうのは、女帝旅団の敷地内で最も高い尖塔。その屋根の上。
そこからダンジョン都市を見下ろし、僕らは目を疑った。
「ダンジョンが……崩落してる……!?」
街の中央にあるダンジョンへの入り口。
そこが大きく陥没して、巨大な深淵を覗かせていた。
しかも異常はそれだけじゃない。
街のあちこちが陥没し、幾つもの大穴を形成していたのだ。
突如として出現した大穴から噴き上がるのは、人知を超えた濃密な魔力の奔流。
続けてそれぞれの穴から飛び出してきたのは――大量のモンスターだった。
「これは……ダンジョン崩壊!?」
「バカな……! 発生から長い年月を経た巨大ダンジョンが崩壊するなど……まさか人為的なものか!? いやそれこそ現実的では……!?」
ステイシーさんと獅子王が愕然と声を漏らす。
僕もその悪夢みたいな光景に頭が真っ白になった。
けど、
「……っ! 止めないと! 被害が拡大する前に! 少しでも!」
脳裏をよぎるのは、一緒に楽しく食事をともにしたソフィアさんの微笑みで。
僕は誰よりも早く、街に溢れ出すモンスター目がけて走り出していた。
●
揺れるダンジョン都市。
その一角にある廃屋めいた建物で、少女が笑っていた。
2本の短剣を携えた見目麗しい剣士、戦姫ソフィアだ。
「……ダンジョン崩壊……偏った魔力の影響でモンスターを生み出すダンジョンが、魔力のバランスを大きく崩すことで発生する災害。崩壊したダンジョンからはモンスターが際限なく溢れ出して……周囲に被害を与える」
ソフィアは歌うように、楽しげに言葉を続ける。
「……けど、都市が形成されるような巨大ダンジョンは膨大な魔力の偏りがありながら安定していて、崩壊することはまずない。でも実は……その均衡を破る力技がある……」
そう語るソフィアの手に握られているのは、魔力の凝縮された魔石。それもかなり純度の高い高級品だ。
「……魔石は特殊な方法で砕くと……激しい魔力の爆発を巻き起こす。この魔石をできるだけダンジョン核に近い深層に集めて、集めて、小国を買えるくらい集めて……遠隔爆破すれば……歴史ある大ダンジョンもバランスを崩して、崩壊する……教えてもらった通りだ……」
さすがにこれだけ大きなダンジョンともなれば、人為的な崩壊促進で完全に壊れたりはしない。いずれは自然に修復されるだろう。
だがそれでも……ダンジョンが修復されるまでにあふれ出るモンスターの数は、街を滅ぼすに十分すぎる脅威となるだろう。
「……へへ、えへへへへっ。〈気配遮断〉のユニークスキルでモンスターを避けて……コツコツとダンジョンの奥に魔石を運んできた甲斐があった……!」
ソフィアは凄絶に微笑む。
そしてその傍らでは、初老の男が青ざめた表情で崩れ落ちていた。
「し、信じられねぇ……このガキ、本当にやりやがった……!」
戦姫旅団が血姫旅団と呼ばれていたときから事務経営を取り仕切っていた幹部だ。
戦姫が集めきれなかったぶんの魔石調達や旅団維持業務のために飼い殺しにされていたその男は、ソフィアを見上げて声を震わせる。
「どうなってる……! どうなってんだよ! お前は血姫様だけが好きにできる奴隷で! 授かった〈ギフト〉も平凡で! ユニークスキルなんかもねえ貧弱なガキだったはずなのに! どうやってこんな化け物みてぇな……!?」
だが男の叫びは最後まで続かなかった。
一瞬で戦姫に切り刻まれ、その場に崩れ落ちたのだ。
血姫とともに弱者を搾取していた男などもう用済みとばかりに、戦姫は短剣についた血をはらう。
「……この街はもうモンスターの巣窟……あとはしばらく様子を見て、疲弊した獅子王旅団と女帝旅団の主力を乱戦の中で消していくだけ……そうすれば、他国が介入する間もなくこの街は地図から消える……」
簡単だ。
さあ、このろくでもない街をさっさと消し去ろう。
戦姫ソフィアは晴れやかな気持ちで廃屋から外へ出る。
そのときだった。
「あれ……?」
復讐に狂った彼女の脳裏にふと、お人好しの少年と性欲の強そうな少女の顔がよぎる。
この街で初めてできた友達と街を巡った、つい先ほどの幸せな記憶。
瞬間、戦姫ソフィアの口からか細い声が漏れた。
「私は本当に、
強い疑問が弾ける。
しかし次の瞬間。
「……っ!!」
戦姫の心が真っ黒な闇に包まれ、同時にその体も濃い霧のような闇に包まれた。
『全員殺せ』
戦姫に力を与えてくれた女の声が木霊する。
数秒後、戦姫の顔から迷いは消えていた。
「……うん。とりあえず、皆殺しにしてから考えよう……」
瞳から涙がこぼれていることにも気づかないまま――。
戦姫は殺戮へと歩み出す。
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次回、淫魔追放88話「それはまるで、木の股で興奮する男子中学生のように純粋な」へ続く。
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