第78話 武器調達の予想外その2
今回は箸休めのゆったり回です。
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色々な意味で危険なスキル〈自動変身〉が発現してから数日。
不壊武器作成のための資金をウェイプスさんに渡した僕とアリシアは、すっからかんになった懐を暖めるため、再びダンジョンに潜りまくっていた。
〈現地妻〉による瞬間移動でダンジョン攻略を途中から再開。
〈ヤリ部屋生成〉で大量のモンスター素材を一気に運搬。
このコンボによって高レベルのモンスターを狩りまくり、ギルドに素材を納品しまくったのだ。
あんまりやりすぎるとさすがに女帝旅団のコネで誤魔化しきれないので、極一部は城塞都市の冒険者ギルドや商業ギルドにこっそりお裾分け。貴重な素材は各方面で大変喜ばれ、僕たちの懐もしっかり潤っていった。
そしてそんなダンジョン攻略の日々と並行してしっかりと行ったのは、問題のスキル〈自動変身〉の制御訓練だ。
けれどこれに関しては割とすぐに制御が効くようになった。
以前、僕が男根を売り捌くハメになった際に男根が使用される様子を夢で見てしまう不具合があったけど……アレと同じで強く念じ続けることでどうにか暴発を抑えられるようになったのだ。
ただ、実はこれも完全とは言えなくて……
「……あ、エリオがまた……変身して私を誘ってる……❤ 悪い子……お姉さんがしっかり教育してあげないと……❤」
「あ!? また身体が小さく!? ちょっ、ちがっ、これはわざとじゃなアッ――――!?」
アリシアとの仲良しの最中は余裕がなくなるせいか、アリシアの思念が強すぎるせいか……たまに暴発してはアリシアを暴走させてしまうのだった。それによってさらに僕の余裕がなくなるから変身しっぱなしでアリシアがさらに暴走して……と暴走の永久ループだ。
ただ、興奮しまくりのアリシアがとても可愛いし、(相対的に)身体の大きくなったアリシアに全身を包み込まれながらお姉さん口調で仲良しされるのは変な中毒性があって……夜の変身スキル暴発からなかなか抜け出せないのだった。
……なんか僕、アリシアに変な開発されてない? 大丈夫? 戻れなくなってない? と思わなくもない。
ちなみに。
つい興味本位でモンスター相手に〈自動変身〉を任意発動してみたところ、きっちりモンスターに変身できた。身体構造もモンスターそのもので、ダンジョン内での隠密活動に使えるかと思ったんだけど……通常とは違う意味でモンスターに襲われかけるという恐怖に見舞われた(僕を襲おうとしたモンスターはアリシアが八つ裂きにした)。
あんな恐怖はそうそうないし、まかり間違って他の冒険者に攻撃されたりしたら目も当てられないので、二度とモンスターには変身しないと誓った。
さて、そんなこんなでソーニャに丸呑みされそうになってからおよそ1週間。
注文した不壊武器――聖剣の受け渡し予定日を迎えた僕とアリシアは、はやる心を抑えながら城塞都市の武器屋へと向かっていた。
「おうっ、よく来たな二人とも! 注文された武器のほう、きっちり仕上げてるぞ!」
店の前には黒髪の美しい女性、ウェイプスさんが腕組みして待っていた。
なんだか目の下のクマが凄いけど、纏っている空気は快活そのもの。
いつも以上に豪快な様子で僕とアリシアの肩を抱くと、ぐいぐいと店の中に案内してくれる。
「久々のでかい注文だったからな。つい夢中になって色々力を入れ過ぎちまった! 中毒になりそうだった一人遊びからも上手いこと距離が置けて――ああいや、なんでもねえ」
「?」
「と、とにかくだな。お前らが満足できるだろう出来にはなってるぞ!」
なんだか顔を赤くして言葉を濁すウェイプスさんが気になったけど……すぐにそんなことはどうでもよくなった。
ウェイプスさんが店の奥にあるらしい武具生成の工房から持ってきた武器が、あまりにも神々しかったからだ。
「……わぁ」
普段は表情の乏しいアリシアが感嘆の声を漏らす。
ウェイプスさんが作り上げてくれた不壊武器はそれほどまでに素晴らしく、僕も思わず見惚れてしまうほどだった。
「注文通り。不壊属性付与の魔法剣――つまり聖剣だ。いちおう見た目にもこだわったが、目立つのは嫌だっつー話だったから、隠蔽処理もしてある。周囲にはただの上等な剣程度に見えるはずだ。もちろん見た目が変わっても頑丈さや切れ味は変わんねぇから安心しな。使い勝手はどうだ?」
「……はい。文句のつけようもありません」
ヒュヒュヒュヒュヒュン!
ウェイプスさんの用意してくれた試し切り用の素材――レベル80モンスターの堅殻をいとも容易く細切れにしながらアリシアが嬉しそうに頷く。
(僕ほどじゃないけどアリシアも聖騎士には思い入れがあったから。聖剣を手にできて嬉しいだろうな)
伝説級の〈ギフト〉である〈神聖騎士〉にようやく聖剣を持たせてあげることができて僕も嬉しい気持ちになる。
聖剣を手にしたアリシアは一枚の絵画のように美しく、思わず見惚れてしまうほどだった。
「よしよし。久々の聖剣作成だったが腕は鈍っちゃいねえな。事前に説明したとおり、不壊武器はその丈夫さが売り。手入れも武器更新もほぼ必要ねえもんだ。ただ、実は強力なモンスターの素材や高級魔石によってあとから強化できるって性質もある。今後もなにかあればあたしに相談してくれ。素材と資金さえありゃ防具作成の相談にも乗れるしな。それと――」
ウェイプスさんが一度言葉を切る。
かと思えば奥からまたなにか持ってきて、
「これはオマケだ。予備として武器作成用の素材をかなり多めにもらってたからな。良い仕事させてもらったし、こっちも受け取ってくれ」
「え? オマケって一体なにを……え!?」
なにかと思って包みをほどいた僕はぎょっと固まった。
なぜならそこにはもう1本の不壊武器――聖剣があったからだ。
しかもそれはアリシアの受け取ったサーベルタイプとは違う。僕が普段使っている剣と同じタイプで……ウェイプスさんが僕のために打ってくれたのは明らかだった。
「え、ちょっ、受け取れませんよ!? 1本分の代金しか払ってないですし、オマケで聖剣は破格すぎます!」
「さっきも言ったろ? 素材は多めにもらってたし、実は別途購入した素材もちょっと余らせてな。そのぶんちょっと性能は落ちるから、遠慮せず受け取っといてくれ。おかげであたしの武器作成スキルもさらに向上したしな。それとも――」
ウェイプスさんはいきなり怖い顔になると、
「あたしが作った武器は受け取れねえってか?」
「いえそんなことは全然ないですありがとうございます!」
あ、これは代金払うとか言ったら盛大にキレ散らかすやつだ。
それなりの付き合いになったウェイプスさんのお怒りを感知した僕は、そうして素直に武器を受け取った。
今後とも聖剣の強化や防具の相談でお金を渡す機会はあるし、恩はそっちで返そう。
それにしても……。
「僕が、聖剣……」
〈淫魔〉なんて〈ギフト〉を授かったことにはじまり、男根剣とかいう性剣を振り回すことしかしてこなかった僕が。
〈ギフト〉も所持スキルも恥ずかしいものばかりだけど……聖剣を握った瞬間、小さいころから憧れてきた聖騎士に少しでも近づけたような気がして思わず笑みがこぼれた。
男根剣の存在を隠したいときや、対人戦で手加減したいときなどにとても重宝するだろう。
「……良かったね、エリオ」
「う、うん!」
アリシアも僕の笑顔に笑顔を返してくれて。
僕たちは粋な計らいをしてくれたウェイプスさんに何度もお礼を重ねる。
そうしておそろいの聖剣を携えて、僕たちは2人並んで足取り軽く帰路につくのだった。
――そうして宿に戻ってすぐのことだ。
「……あの、エリオ……」
「うん?」
「準備したいことがある」と珍しく1人で宿を出て行ったアリシアが、戻ってくるなりなんだかモジモジしていた。なんだろうと思っていると、
「……エリオは、聖剣をプレゼントしてくれたり、私と一緒にいてくれたり……いつも私のために色々してくれる。……だから」
普段は表情に乏しいアリシアはそこで小さくはにかむと、
「……改めて、ちゃんとしたお礼をさせてほしい」
ぽそりと、そんなことを口にした。
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