第79話 アリシアの恩返し



 ウェイプスさんからアリシアのぶんだけでなく僕のぶんの聖剣までもらい、浮き足立つような気持ちで宿に戻ってすぐのことだった。


「……ちょっと準備したいことがある。エリオは夕方まで宿で待っててほしい」


 アリシアが急にそんなことを言いだし、宿を出て行った。

 いったいなんだろうと思っていると、アリシアは夕方前に戻ってきて、


「……実は……エリオにお礼がしたいと思ってて」

「お礼?」

「……うん」


 アリシアはうつむきながらはにかむと、


「……エリオは私とずっと一緒にいてくれて……私のことをいつも一番に考えてくれて……今日はこんな凄い聖剣までプレゼントしてくれた。……エリオはそんなの当然って思ってるかもしれないけど……私はそれが嬉しくて、特別なの。だから……たまにはちゃんとお礼をさせてほしいと思って」


「アリシア……」


 アリシアの言葉に、僕はとても胸が温かくなるのを感じていた。


 生き恥〈ギフト〉のせいで帝都から追放された僕なんかと一緒にいてくれるだけで十分なのに……と思うけど、これはきっとそういう話じゃないのだ。

 だから僕は心の底からの笑みを浮かべ、


「ありがとう。アリシアのお礼、楽しみだな」

「……うん」


 そうしてアリシアに連れてこられたのは、ダンジョン都市サンクリッドの中でも1、2を争うほどの高級宿。そこの1階にあるレストランだった。



「うわぁ……美味しい。帝都にいたころもここまでの食事はなかなかなかったよね」

「……うん。エリオの口にあったみたいで……良かった」


 アリシアが予約してくれた豪華な食事に思わず声が漏れる。

 聖剣のために貯めていた資金とは別に、僕とアリシアはダンジョン攻略で得たお金を分け合いそれぞれの資産として管理している。今日の食事はアリシアが自分の取り分から捻出してくれたもので、僕はそのお礼を素直に楽しむのだった。


 冒険者向けのお店で出される大衆料理も大好きだけど、料理人の創意工夫と素材の良さが噛み合ったフルコースはまた方向性の違う楽しさがある。


「それにしてもこの高級宿、女帝旅団の系列店なんだっけ? そのおかげで僕たちみたいな子供が利用しても怪しまれないし、個室だからアリシアが目立つこともない。心置きなく食事が楽しめるよ。……もしかしてアリシア、前々からこの日のためにお店を探してた?」

「……うん。エリオにはずっと、お礼をしたいと思ってたから」

「そっか。ありがとう」


 アリシアの心遣いに、僕は美味しい食事以上に幸せな気持ちになる。

 

 前々から計画してたというなら「準備がある」と少し姿を消していたのはなんだったんだろうとは気になるけど……まあいっか。きっとうっかりしてて、当日予約に走ったとかそんなところだろう。聖剣が確実に今日仕上がるって保証もなかったしね。


 そうして久しぶりにアリシアと優雅な時間を過ごし、僕が幸せな気分に浸っていると、


「……エリオ。じゃあ、次にいこっか」

「え? 次?」

「……うん。お礼はこれだけじゃない。……むしろ、ここからが本番」


 そう言ってアリシアは僕の手を引き、レストランの上階へ僕を誘った。

 すなわち、この街一番の高級宿の内部へと。


(こんな高級宿でするお礼って一体なんだろう。……あ! もしかしてサンクリッドの夜景を一緒に見ようってことかな?)


 ダンジョン都市は四六時中活気に溢れており、夜になっても灯りが多い。

 高所から見る夜景は空と地上の両方に星空が広がっているかのようだといわれ、この高級宿のうたい文句にもなっていた。うん、きっとこれだ。


 なんだかちょっと大人なアリシアのお礼にドキドキしているうちに最上階へと辿り着く。

 その奥には大きな扉があり、


「……はいエリオ。これがこの部屋の鍵」


 アリシアに鍵を渡され、僕はちょっとワクワクしながらドアノブに手をかける。


(夜景観賞なんておしゃれなことするのは初めてだなぁ。帝都を追放されて以来バタバタしることが多かったし、たまにはアリシアとゆっくりした時間を過ごそう)

 

 そんなことを考えながら、軽い足取りで部屋に足を踏み入れた。

 するとそこには……


「おいなんだよこれ! ふざけんじゃねえクソガキども!」

「このケダモノコンビ……くっ、好きに嬲ればいいわ! 心までは折れないから……っ」


 女帝旅団の実質的ナンバ-2である豹獣人のリザ・サスペインさん。

 女帝旅団の団長であるステイシー・ポイズンドールさん。


 こちらを涙目で睨み付けながら悪態をつく二人の美女が、エッチな下着姿で巨大ベッドの上に転がっていた。


 ――――――――――――――――――――

 普段からエッチなことは散々してるから、改めて「お礼」と言われてもエッチなことを全然思いつかなかったエリオ君の負けです。

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