第76話 変身スキル


 リザさんたちを返り討ちにし、女帝旅団を完全掌握した翌日。

 僕とアリシアは再び城塞都市に戻り、凄腕鍛冶師であるウェイプスさんのお店を目指していた。


 昨日の今日でなぜ再びウェイプスさんのお店を訊ねるのかといえば、魔法武器作成の資金を渡すためだ。

 

 魔法武器生成には僕が納品した青龍の素材だけでなく、生産系〈ギフト〉によって作られた高額素材の購入も必須。

 なので魔法武器生成予算は事前に渡しておく必要があり、今日は必要経費の概算が終わったウェイプスさんに依頼費用をもっていくことになっていたのだ。


 そうして僕とアリシアはレジーナを介した〈現地妻〉で城塞都市へとワープ。

「さすがに放置プレイが長すぎではありませぬか主様!?」と僕の下半身に抱きついてきたレジーナと、それに便乗して服を脱ぎ始めたアリシアをどうにかなだめ、ウェイプスさんのお店を目指していたのだけど……。


「なんか、また変なスキルが発現しちゃったな……」


 僕はアリシアと並んで歩きながら、自分のステータスプレートを見下ろしていた。


 昨日はアリシアの仲良しが爆発して確かめる暇がなかったのだけど……そこには、恐らくリザさんとの仲良しがきっかけで獲得したと思われるスキルが出現していたのだ。



 自動変身:対象の好みに応じた姿に変身できる擬態系スキル。対象の欲求の強さに応じて変身のしやすさや精度が変化。対象から離れると変身は解除される。



 鑑定水晶で性能をチェックしたみたところ、それはどうやら世にも珍しい「擬態系スキル」の類いらしかった。


 ただ、今回のスキルは物珍しいだけでそこまでぶっ飛んだ性能ではないように思える。

 説明文を読む限り、相手の好みに合わせて変身するスキルなうえに持続力も皆無みたいだから、誰かに化けて潜入や逃走ができるものではないみたいだし。

 なにより一番その姿を隠してあげたいアリシア――第三者を変身させられるスキルでもなさそうだったから。


 まあ鑑定水晶で確認できるスキルの性能がすべてというわけじゃないから、実際に使って検証してみればなにか凄い利点が見つかるかもしれないけど……検証はまた後日かな。


「どうもこの変身スキルの発動には第三者の協力が必須みたいだからね。〈淫魔〉のことを知られても完璧に口止めできるレジーナ……はまた(性的に)暴走しそうだし、ステイシーさんかリザさん辺りにあとで協力してもらおう」


 アリシアが教会に追われている以上、一緒に行動している僕もできるだけ目立たないほうがいい。そうなるとスキル検証を頼める相手は限られるため、すぐすぐにスキル検証はできそうになかった。


 その理屈なら別にアリシアに協力してもらえばいいだけでは? と僕も最初は思ったのだけど、 


「……私はエリオが一番大好きだから……エリオがそのスキルで変身してもエリオのままだと思うよ?」


 と、気恥ずかしいと同時に強烈な説得力のあるアリシアの言葉に僕は即納得してしまうのだった。


 それに、もしアリシアを対象に変身した結果、万が一にでも僕以外の姿に変身しちゃったらやっぱり少なからずショックだと思うし……。


 そんなこんなで新しいスキルの詳細が気にはなりつつ、僕たちは頭を切り替えてウェイプスさんのもとへと向かうのだった。




「おう、来たな来たな! 不壊属性魔法武器の予算、ばっちり計算しておいたぞ!」


 相変わらずいまにも潰れそうな武器屋へ顔を出すと、ウェイプスさんが上機嫌に僕たちを出迎えてくれた。


「不壊武器ってのはその名前の通り、ほとんど壊れねえし手入れもまず必要ねえからな。あんまり作る機会もねえから、久々にはりきっちまった! ……最近、あのやたら性能の良いおもちゃに堕とされかけてたし、他に集中できるもんができて本当に助かった」

「?」

 

 ウェイプスさんが若干顔を赤くしてなにかボソボソ呟いたけど、僕の意識はそれよりも机の上に広げられた予算表のほうへと吸い寄せられる。


 なにせウェイプスさんが用意してくれた武器作成素材の内訳は、びっくりするような高級素材やマジックアイテムのオンパレードだったからだ。


「ちょっ、ウェイプスさんこれ、どれだけ気合いの入った武器を作ってくれるつもりなんですか!?」


 僕がアリシアとともに調達してきた青龍素材を筆頭に。

 大陸の西端に位置する特殊ダンジョンからしか採れないとされる魔鉱石。

 熟練の錬金術系〈ギフト〉持ちしか作れない合金。

 その他諸々、入手や保存に手間のかかる希少素材。


 武門貴族出身とはいえ、僕とアリシアは武器製作については最低限の知識しかない。

 それでも明らかにウェイプスさんが最上級の武器を作ろうとしてくれているとわかり、心底驚いた。

 あまり感情を表に出さないアリシアでさえ「……すごい」と目を見開いている。


「そりゃまあ、お前ら2人は身内を助けてくれたんだしな。それに……」


 ウェイプスさんが目を細める。


「あたしの見立てが正しけりゃ、お前ら2人は「ただの最高級武器」じゃ釣り合わねえよ。やるならあたしの技術の全部を込めて剣を打ってやる。もちろんそのぶん値段は張るが……お前らなら余裕だもんな?」


「~~っ。はい、もちろんです!」


 ウェイプスさんの審美眼。

 そして粋な心遣いに心底感謝しつつ、僕は用意しておいた金貨を取り出した。

 念のために多めにもってきておいて正解だった。

 

 ドンッ! と金貨の入った袋を机に置く。


「う、うおっ。事前に懐具合聞いてたから大丈夫だろとは思ってたが、マジで一括支払いしやがったぞこいつ……。よーし、ならこっちも気合いいれねえとな!」


 と、武器製作に関する打ち合わせが順調に進み、ウェイプスさんが「そういや剣の柄をどうすっか聞いてなかったな」とサンプルを取りに奥へと引っ込んだそのときだった。

 武器屋の出入り口が勢いよく開き、一人の少女がお店に飛び込んできた。


「もー、ちょっと聞いてくださいよウェイプスさん! ルージュさんが酷いんです! 鑑定水晶バブルが終わらないうちにじゃんじゃん水晶作成しろって残業だらけで! 給料は良いしスキルLvも上がるんで良いんですけど、家に帰ったらもう寝るしかなくて、遊ぶ時間が全然ないんですよ! ……格安で譲ってもらってる生ディルドも全然使う暇がないし……ウェイプスさんからもルージュさんになにか言ってあげてくださいっ」


 それは僕とアリシアのよく知る少女だった。

 僕らが城塞都市で色々な人たちと出会うきっかけとなり、最終的に男根売買契約を結ぶ原因となった赤髪の町娘ソーニャ・マクシエル。

 そんな彼女が「あれ!? エリオール!?」と僕の存在に気づき、僕も「あ、久しぶり」と挨拶をしようとした――その瞬間。


 ――ボンッ! ボトッ!


 僕の身体はちんこに変身して地面に落下していた。


 ――――――――――――――――――――

 次回ちゃんと色々説明するので許してください。


(※という引きで大変申し訳ないのですが、本業がかなりバタついてまして、次回の更新は来週水曜日の夕方になります。すみません)

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