第74話 女帝旅団メス堕ち完全屈服


「逃げろ! 旅団構成員たちの抗争だっ!! 巻き込まれるぞ!」


 騒ぎに気づいた街の人たちが悲鳴をあげて逃げ惑う。

 冒険者たちの抗争はそこまで珍しいものではないらしく、彼らの逃げ足は迅速そのもの。

 そうして周囲から速攻で人が消えていくなか、女帝旅団最高幹部リザ・サスペインさんが武器を構えた。両手に装備した長いかぎ爪だ。


「いまだに信じられねえ。サンクリッドの女帝と恐れられたあのステイシー姐さんがこんなガキどもに籠絡されて腑抜ちまったなんてな。だがてめえらを拠点に誘い込んでから姐さんがおかしくなったのは事実。どんな汚い手ぇ使ったか知らねえが、舐めた真似しやがって。落とし前つけさせてやる!」


「ちょっ、待ってくださいリザさん! ステイシーさんの件はそっちが先に僕らを害そうと――というかこんな街中で暴れるなんてなにを考えてるんですか!?」


 いきなりの出来事。

 それも周囲の被害を完全無視したリザさんの襲撃に、僕はとっさに話し合いを試みる。

(いやまあ、僕とアリシアが仲良しの末にステイシーさんに〈主従契約〉を結ばせて色々と命令しているのは事実だから話し合いもなにもないんだけどね!)


 が、リザさんは豹獣人特有の柔らかい身体を活かした独特の構えを取りながら「黙れクソガキが!」と僕の言葉を断ち切った。


「そうやって姐さんも誑かしたか!? はっ、誰がてめえの話なんざ聞くかボケ!」


 そしてリザさんは豹の尾を逆立て、僕たちを取り囲む〈飛び爪〉構成員たちに怒声を張り上げる。


「おいてめえら! これ以上こんなひょろっちいクソガキどもに顎で使われるなんざ死んだほうがマシだろ! ガキだからって容赦するんじゃねえ、卑怯な手ぇ使われる前に問答無用でぶっ殺せ!」

「「「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!」」」


 瞬間、旅団幹部たちを擁する精鋭部隊が一斉に襲いかかってきた!


「くっ!?」


 冒険者――特にこの街の旅団構成員たちにとっては力がすべてだ。

 旅団頭領の代替わりも公開決闘によって行われ、純然たる実力者がトップを務める仕組みになっているという。


 頭領の指示が絶対とはいえ、駆け出し冒険者である僕たちを優遇するよう命令された構成員たちに不満が溜まらないわけがなかったのだ。ステイシーさんを介したアリシアの命令で、これまで許されていた横暴を禁止されたのならなおさら。

 ましてや自分たちより弱い人間にかしずくなど、この人たちのプライドが許さないのだろう。


 つまるところ、旅団頭領であるステイシーさんと〈主従契約〉を結んだだけで女帝旅団全体を完全掌握できるわけがなかったのだ。


 だったら――この騒ぎを速やかに終わらせる手はひとつしかない。


「アリシア! 迎撃だ!」

「……ん」


 瞬間、僕は股間から剣を抜き放つ。

 発動させるスキルはもちろん、〈男根形状変化〉と〈男根形質変化〉。

 枝分かれしたアダマンタイト製の男根棒が宙を駆け、こちらに襲いかかる数十人の〈飛び爪〉部隊をなぎ払った。


「「「なっ――がああああああああああああああっ!?」」」


「っ!? なんだ!? 魔剣!?」


 吹き飛んだ〈飛び爪〉部隊が悲鳴を上げ、リザさんが驚愕したように叫ぶ。

 と同時に、アリシアが駆けた。

 

「……身体能力強化【極大】」


 スキルを発動させ、吹き飛んだ冒険者たちに迫る。


「はっ、バカが! 魔剣には驚かされたが威力が足りねえな! 誰一人気絶すらしてねえぞ!? んな状態で突っ込んできて、てめえみてえな小娘が勝てるか!」


 僕の男根に吹き飛ばされた冒険者たちがアリシアを見て迎撃の姿勢を取る。

 確かに彼らの言うことはもっともだ。

〈飛び爪〉部隊は構成員2000人を誇る女帝旅団の中の最精鋭。

 しかもいまは旅団幹部であるレベル100越えの冒険者たちもそこに加わっているのだ。


 僕が吹き飛ばしたこともあり、大きなダメージもない彼らが自信満々にアリシアを迎撃するのも無理はない。けれど、


「……〈剣戟強化〉……〈魔人斬り〉」


「は? ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!?」


〈飛び爪〉部隊の面々は、全力を解放したアリシアの手で次々と各個撃破されていった。


 現在のアリシアのレベルは70。

 普通ならレベル100オーバーの冒険者も混ざる精鋭集団には敵わないだろう。

 そう、普通なら。


 けど〈ギフト〉には明確な格差があるのだ。

 伝説級の〈ギフト〉と称される〈神聖騎士〉が持つ潜在能力は人族の枠をはみ出した代物。

 ダンジョン攻略によってレベルが上がり、戦闘経験も積んだアリシアの強さは単純にレベルだけでは計れないものとなっていた。


 加えて、精鋭冒険者が怖いのは個々の強さよりもその連携。

 僕の男棍棒によって陣形を崩された〈飛び爪〉部隊は本来の実力を発揮する間もなくアリシアに狩られていった。


「さすがアリシア。僕の意図を汲んで、気絶しない範囲で戦闘不能にしてくれてる。男根剣でたくさんの人を気絶しないよう戦闘不能にするのはさすがに難しいから助かるよ。旅団幹部の目撃者がたくさんいないと、またなにかインチキで倒したんじゃないかって疑われちゃうから」

 

「ああ!? な、なんなんだあの小娘は!?」


 と、アリシアの思わぬ反撃にリザさんが愕然とした声を漏らす。

 けれどその驚愕も一瞬で、


「ぐっ、だがアレならまだあたしのほうが強え! あの女さえどうにかすりゃ、インチキ洗脳野郎なんざすぐに――」

「させません!」


 アリシアに斬りかかろうとしたリザさんを僕が食い止める。

 彼女の進行方向に回り込み、男根剣でそのかぎ爪を受け止めたのだ。


「は……!? な……んだその速度!? それにあたしの攻撃を正面から受け止めるなんざ、この街じゃ獅子王や戦姫くらいしか……!?」


 レベル200の〈獰猛戦士〉が目を見開く。

 瞬間、僕が足を振り上げれば――ゴシャアアアアア!


 レベル255に達した〈淫魔〉の脚力がリザさんの手を思い切り蹴り飛ばし、かぎ爪を遠くへ吹き飛ばした。


「あ……?」


 なにが起きたのかわからない様子でリザさんが目を見開く。

 だが数瞬後、リザさんは自分の武器を蹴り飛ばされたと理解したようで、


「な……!? この……調子に乗るんじゃねえぞクソガキがああああああ! 死に晒せ! 身体強化スキル全発動!〈餓狼突き〉!」


 使えるすべてのスキルを持って、僕に必殺の一撃を繰り出した。


 僕が待ち望んでいた、全力の一撃を。


「やあああああああああああああっ!」

「っ!? ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」


 そして僕は男根剣を使うこともなく、真正面からリザさんの全力を叩き伏せた。

〈異性特効〉も発動したレベル255〈淫魔〉の膂力。

 盛大な破砕音とともにリザさんが地面に叩きつけられ、獣のような悲鳴が響く。


 そしてその悲鳴がおさまれば――辺りは沈黙に支配された。


「ええと……」


 僕は辺りを見回す。

 周囲にはアリシアの手で気絶することなく戦闘不能に追い込まれた〈飛び爪〉部隊の構成員と旅団幹部たちが愕然とこっちを見ていて、僕は気まずく思いながら口を開く。


「これで、僕たちに大人しく従ってもらえますかね?」


「「「舐めた真似してすみませんでしたああああああああっ!」」」


 瞬間、旅団構成員たちが一斉に頭を下げる。

 その勢いに僕とアリシアが思わずビクッと驚いていると、


「な、なんだよあいつら!? 本物の化け物じゃねえか……!」

「そりゃステイシー様も骨抜きになるわ……」

「いやけどよ、さすがにあんな子供に旅団が支配されるってのはどうなんだ……?」

「だったらお前、あいつらに喧嘩で勝ってこいよ」


 お、おお……。

 この手の人たちは実力差をわかってもらえば話が早いと思って真正面からぶつかったわけだけど……これは思った以上だ。さすがにこれだけで完全服従とはいかないみたいだけど、ひとまずこの騒動は収まるかな……と安心していたところ、


「クソがぁ!」

「「っ!?」」


 僕の一撃で地面にめり込んでいたリザさんが即座に復活。

 さすがの耐久力でふらふらと身体を起こすと、


「クソ、クソクソクソク! ふざけやがって……なんなんだてめえらは……完敗じゃねえか……まさか姐さんは本当に実力でこいつらに……クソッ!」


 リザさんは親の敵でも見るような目で僕を睨む。

 それから大きく息を吸い込むと、


「殺せ」


 僕に首を差し出すようにして、とんでもないことを言い出した。

 え!?


「あたしの負けだ。さあ殺せ。タマぁ取りにきたんだ。逆に取られる覚悟はできてる」


「は!? え、ちょ、ちょっと待ってくださいよ! なんでいきなりそうなるんですか!?」


「ああ!? なに言ってんだクソガキ。旅団内で相手を殺すつもりの抗争を仕掛けたんだ。指詰めるだけじゃ到底足りねえ。少なくとも扇動役のあたしが首差しだだしてケジメつけるのが筋だろうが。さあ殺せ! じゃねえとぶっ殺すぞ!」


 無茶苦茶だよこの人!

 そうして僕はリザさんを必死に説得するのだけど、やがてリザさんは心底憎しみのこもった目を僕に向け、


「ああそうかよ。んな甘っちょろいこと言ってあたしに生き恥晒せってんならこっちにも考えがあるからなぁ……!」


 え。


「女帝旅団の名前で……いや、てめえらクソガキどもの名前で他の旅団にカチ込み仕掛けてやる。どっかの国や教会でもいいな。とにかくてめえらが報復で無茶苦茶になるよう全方位に喧嘩売って、あたしを生かしたことを後悔させてやる!」


「な……!?」


「投獄しようったって無駄だ。あたしには協力者も多いし、仮に何年投獄されようが絶対にあたしは諦めねえ。とにかくあたしを生かしてる限り、絶対に安心して暮らせねえようにしてやる!」


「ちょっ……!?」


 とんでもないことを言い出したリザさんに僕は絶句する。

 そんなことをされたら何も知らない人たちに多くの被害が出るし、僕たちの存在が各地に広まってしまう。教会の追っ手がアリシアを求めて殺到するような事態になってもおかしくなかった。教会だけでなく、帝都だって動きかねない。

 

 かといって……僕たちにリザさんは殺せない。人殺しなんてまっぴらごめんなのだ。

 けど女帝旅団の全員が完全に僕に従う保証もない以上、投獄にも不安が残る。

 となれば……リザさんを止める手段はひとつしかなかった。

 

 セットクである。


 なので僕は必死になって、


「リザさん! 僕はあなたに酷いことをしたくないんです! だからカチ込みなんてやめてください! お願いしますから!」

「はあ!? 甘ったれんなクソガキが! ここまで言って引き下がれるか! あたしを殺さねえ限り、絶対に後悔させてやるからなぁ!」


 僕は土下座さえ繰り出してリザさんにお願いする。

 けれどリザさんはどれだけ説得しても考えを変えず、議論は平行線を辿った。

 そうして不毛な時間が過ぎ去ったあと、


「……わかりました」


 僕は腹をくくった。


「もうこうなったら仕方ありません。リザさんがそうであるように、僕にも譲れないものがありますから……。大切な人を守るために僕はこの手を……いや、男根を汚します」


「? はぁ? なにいきなり下ネタぶっこいてんだガキが。人を殺す覚悟もねえようなやつがなにを偉そう……に……あ?」


 瞬間。リザさんが目を丸くして周囲を見渡した。

 なぜならそこはさっきまで僕たちがいた裏道ではなく、広々としたホテルのような空間で――


「は? なんだここ? 〈飛び爪〉部隊の連中はどこに――って、ああ!? てめえなにしてやがんだ!? ちょっ、服を脱いでんじゃねえクソガキ! ちょっ、おい、ほんとになにして――ひっ!? お、おいまさかここであたしを……待て! 待て待て待て待て! おいマジでどういうつもりだいきなりなにをふざけんな殺すぞちょっマジでやめ、あたしはこれまでずっと戦い漬けで経験が――にゃあああああああああ❤❤❤っ!?」


 その日、僕はまたひとつ人としての一線を越えてしまった。



 ――――――――――――――――――――

 続きます。

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