第54話 デリバリー

「シスタークレア? どうしたんですかこんな時間に」

 

 魔石灯だけがかすかに周囲を照らす遅い時間。

 僕たちの泊まる宿に一人で訊ねてきたその破天荒なシスターに僕は目を丸くする。

 するとシスターは清楚に微笑みながら、


「いえね、ちょっと思ったんですよ。いくら捜索の過程であなたの求めていた素材が多く発見できたからといって、あの女の子を無事に見つけ出したことへの報酬が0というのは少し道理にあわないのではないかと」


「は、はぁ」


「そこでですね。わたくしのほうからエリオールさんへ、個人的に報酬を贈呈しようかと思いまして」


「え? い、いえそんな、悪いですよ。僕としては村の人にたくさん美味しい食事を振る舞ってもらえただけで満足ですし」


「遠慮なさらずに。あなたにはわたくし自身命を助けてもらった恩もありますし、そのぶんも含めたお礼だと思っていただければ」


 そうまで言われてしまっては断れない。


「それじゃあお言葉に甘えて……でも報酬って一体」


 まさか教会から盗んだっていうお金だったりしないよね……と僕が身構えていたところ、シスタークレアは自らの胸元をごそごそと漁り、


「はいどうぞ、そこら辺で拾った綺麗な石です!」


「え、ええと……」


 シスタークレアが満面の笑みで差し出してくれたのは、深緑色の小さな石だった。

 確かに綺麗だけど……ええと、どういう反応をすればいいんだろう。


「ふふふ。良いでしょう。お散歩していたときに地面から生えているのを見つけまして。これは是非あなたに差し上げなければと思いましてね。それを肌身離さず身につけていれば、きっと良いことがありますよ! こんなに綺麗なんですから!」


 子供みたいに目をキラキラさせてシスタークレアは語る。

 う、ううむ、お酒の匂いはしないし、本気の善意で言ってくれてるみたいだ。


 まあ報酬と称してお金とか渡されるよりはずっと微笑ましいし、受け取りやすい。

 わざわざ夜の宿に尋ねてくるアンバランスさには少し違和感があったけど、シスタークレアのやることだからあまり難しく考えても仕方ない気がした。


「ありがとうございます、大事にしますね」


「約束ですよ! さてそれじゃあ用も済みましたし、わたくしもシルビアのもとへ戻りましょう。……ああそれから、一つ助言を」


 と、一度僕に背を向けたシスタークレアが振り返る。

 

「……っ」


 そこで僕は息を呑んだ。

 薄暗い廊下でこちらを見るシラフのシスターの表情がやけに神秘的で、真に迫っていたからだ。そしてシスタークレアは驚く僕を見つめながら、


「選ぶならダンジョン都市です」


「え?」


「その街があなたがたの成長を促してくれるでしょう」


 なんの脈絡もなくそう言って、僕が引き留める間もなく帰っていってしまうのだった。


「な、なんだったんだろう」


 不思議には思いつつ、この日は色々ありすぎて疲れていたのだろう。

 シスタークレアからもらった綺麗な石をなくさないようバックパックにしまうと、僕はすぐ眠りについてしうのだった。




 しかし翌朝。


「シスタークレアからもらったこの石、なんだか変な気配がするような……?」


 しっかり眠って心身を回復させた僕は、朝日を受けて輝くその石を見て首を傾げていた。昨日は「そこら辺で拾った」発言もあって気づかなかったけど、なんだかこの石、やたらと強い魔力を帯びているような……。


「けど危険地帯に生えてる鉱石とも雰囲気が違うんだよね……もっとこう、奥に凝縮されたものが滲み出てる感じというか……」


 僕はその不思議な感覚が気になり、懐から鑑定水晶を取り出した。

 回数制限のある高級アイテムをそうほいほい使うべきじゃないんだけど、どうにも気になったのだ。

 そうしてシスタークレアからもらった石を鑑定してみたところ、


「……は!?」


 僕は思わず、宿が揺れるほどの大声を発してしまっていた。


「……? どうしたのエリオ……」


 僕の声で目を覚ましたアリシアが驚いたように声をかけてくるけど、それに応える余裕もない。

 なぜなら鑑定水晶に、こんな結果が表示されていたからだ。



 豪魔結晶:大地の魔力が凝縮された石。

 身につけた者が扱うスキルの魔力使用量を半分以下にし、魔力回復速度を倍にする。レベルアップ時の魔力上昇割合も増加させる。

      品質:高


 それは数十年に一度ほどの割合でしか採掘されないという幻の魔鉱石だったのだ。

 鑑定水晶に表示されているように、その効力は破格のひとこと。

 強力な魔術師系〈ギフト〉が身につければ戦争の勝敗さえ左右すると言われる国宝クラスの代物で、言うまでもなく人助けのお礼程度で受け取っていいものじゃなかった。


「ちょっ、これっ、なんであのシスターがこんなもの!? っていうかこんなの受け取れないよ!? 早く返さないと!」


 僕は半ばパニックになりながら、シスタークレアと護衛のシルビアさんが泊まっている宿に突撃した。けど、


「ああ、あの人たちなら今朝早くに出発しましたよ」


「ええ!?」


 いや確かにこの村はただの中継地点って言ってたけど、なんでそんなに早く!?

 僕が驚いていると受付のお姉さんは「あ、そういえば」と手をあわせ、


「昨日大活躍なさったエリオールさんですよね? クレアさんから書き置きを預かっております」


 言われてその書き置きを受け取れば、


『諸事情ありまして早めにこの村を発ちます。昨日渡した贈り物は気に入っていただけたでしょうか。返品不可ですのでその石をわたくしだと思って肌身離さず身につけておいてください。それでは、また近いうちにお会いしましょう』


「な、なんなんだ本当に……」


 シスタークレアの謎だらけな言動に、僕は最初から最後まで振り回されっぱなしで終わるのだった。



 ――――――――――――――――――――

 前話は変に期待を煽る引きになっちゃってすみませんでした、反省です 汗

 そのあたりの捕捉とシスターの真相については次話にて。

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