第47話 現地妻の活用とほのぼのデート回(後編)
まだアーマーアントの異常発生による影響が少し残っているせいか。
街道には時折、強力なモンスターが現われる。けれど、
「身体能力強化【極大】」
「剣戟強化【大】」
「魔神斬り」
ドグシャアアアアアアアアアアッ!
周辺探知スキルを持つアリシアが大暴れ。
いままで正体を隠すためにあまり戦えなかった鬱憤を晴らすかのように、モンスターを蹴散らしていく。そして戦闘が一区切りつくたび、
「……むふー」
僕にだけわかるくらいうっすらと得意げな顔をして駆け戻ってきては、その小さな頭を差し出してくる。
撫でて欲しいのだ。
なんだかちょっと照れくさいけど、アリシアとのこういう時間はなんだか久々で。
「やっぱり〈神聖騎士〉は……というかアリシアは凄いね」
僕ははにかみながらそう言って、白銀の髪の毛を撫でた。
アリシアのほうからも頭をぐいぐいと手の平に押しつけてきてとても可愛い。
徒歩での2人旅を選んだ理由のひとつはアリシアにも戦闘経験を積んでもらいたいからだったけど……これは思った以上の収穫だったかも。
アリシアの嬉しそうな顔を見て、僕はそう思うのだった。
「よし、じゃあ今日はこのくらいで切り上げよっか」
そうしてアリシアと一緒に街道を進んでいると、特に会話が多いわけではないのに時間はあっという間に過ぎていった。
日が暮れる少し前に僕らは進むのをやめ、近くの木に印をつける。
本来ならここで背負っている野営セットを展開するわけだけど……今回は事情が違った。
これが僕とアリシアだけで徒歩移動にした最大の理由だ。
(レジーナ、いまからそっちに行っても大丈夫?)
『っ! 主様! もちろんでございます!』
念話が通じることと、レジーナの許可を確認。
続けて僕は〈現地妻〉を発動させた。
途端、空間が歪むような感覚に襲われ、一瞬で景色が切り替わる。
(……! これで移動に丸一日かかるような距離も効果範囲内ってことは確定だ)
気づけば僕はレジーナの住処に一瞬で移動していて。
目の前では全裸のレジーナが息を荒げていた。
「って、なんで服を着てないの!?」
事前に連絡した意味がないでしょ!?
てゆーかこれ、もしかして僕が念話を飛ばしたあとに服を脱いでない!?
「屋内で主様をお出迎えするのに服を着ていては失礼かと……その証拠にこうして叱っていただいて妾は、妾は……❤」
「いいから早く服を着て!」
と、そんな一悶着はあったものの。
続けて〈現地妻〉を発動させれば問題なくアリシアもこの場に到着。
そのままいつもの宿に移動し、僕らは一晩仲良くしてからふかふかのベッドで疲れを癒やす。
そして朝になって再び〈現地妻〉を発動させれば、
「……凄いや。鑑定水晶で事前に視てたから大丈夫だとは思ってたけど、本当に任意のタイミングでアリシアを元いた場所に返せるし。ひとまず制限時間はなさそうかな」
アリシアを〈現地妻〉で移動させ、それを追うように僕も移動。
そうすると僕たちは昨日〈現地妻〉を使った場所まで一瞬で移動していた。
近くの木につけた印がそれを証明している。
一度街に戻ったのに、またここから目的地を目指せるのだ。
泊まりがけの任務だとアリシアの欲求不満が心配だったけど、これなら疲れを癒やしアリシアの爆発を抑制しつつ遠くを目指せる。野営のために見張りを立てる必要もないし、荷物もかなり減らせる。至れり尽くせりだった。
あとはどのくらいの距離まで〈現地妻〉の効果が有効かが重要なんだけど……僕は2日目の夕方にも問題なく〈現地妻〉が発動して街に戻れたことであることに気づいた。
「な、なんか……移動に1日かけた距離と2日かけた距離で、〈現地妻〉発動に必要な魔力の量が変わってない気がするんだけど……」
無機物転移なんかがそうだけど、この手のスキルは距離に応じて消費魔力が跳ね上がったりする。なのにその変化がないってことは……
「距離に関しては本当に無制限なのか、このスキル……!?」
〈主従契約〉を結んだ相手との間でしか発動しないとはいえ、どう考えても異常な性能だった。レベル200を超えた僕でも一日に数回しか使えないだろう魔力消費の多さを考えても破格すぎる。
「すごい……つまりレジーナを街にお留守番させておけば、『野外だからダメ』っていうエリオとの仲良しレスもなくなる……やっぱりエリオは運命の人……」
「アリシアが僕との運命を感じるタイミングがおかしい!」
いや嬉しいけどさ!
と、そんな風に〈現地妻〉の性能とアリシアの愛情の強さに少し圧倒されながら、3日目の道程を進んでいたときだった。
「……ん、エリオ。この先に……なにかいる」
〈神聖騎士〉の周辺探知スキルで周囲を警戒していたアリシアが、不意に前方へ鋭い視線を向けた。
「……1,2……ずっと動かない。モンスターか野盗かはわからないけど……待ち伏せかも……」
「わかった」
アリシアの言葉に警戒しながら進む。
けどその警戒はすぐに吹き飛んだ。なぜなら、
「う、ぐ、誰か……」
そこからしばらく行った先で、2人の女性が苦しげな声を漏らして倒れていたのだ。
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