第2話 ピアスと彼女と
「ヒロさぁ、好きな人できたー?
俺はもう誰か1人を愛するんじゃなくて、俺の事好きな人達みんなを愛したい。だって人生短いんだから、本当にこの人だ!っていう人を見つけるのはそもそも無理なんだよ。」
テツはいつもの調子で、レモンサワーを片手に涼しい顔で言う。彼は昔から彼女が途切れた事のない中々なヤリ手だ。
「もう俺はそもそも女という生き物が面倒くさい。毎日こうやってビール飲んで酒に溺れていたい。それでたまに綺麗な子とデートしてればいいよ。それが1番シンプル!」
「ヒロ..お前が1番面倒くさいな...」
そう、僕は面倒くさくて最低だ。
いつだってリセットしてしまうんだ。高校時代サッカー部に入っていた僕は大怪我が原因で、部活を辞めた。全てリセットしたくなった僕は当時付き合っていた女性に、なんの前触れもなく、突如として別れを告げた。
彼女は理由も分からず別れを告げられ
過呼吸に陥ってしまった。
だから僕は今でも過呼吸の人を見かけた際にはすぐにビニール袋を取り出して対処できる。僕は最低だ。嫌気がさす。
僕はいつだって醒めていたんだ。
あの時までは。
「ヒロくん、ピアス開けた事ある?」
「う〜ん。開けたいとは思ってるんだけど
いまいち踏ん切りがつかなくて。
でもそろそろ開けようかなー」
「ダメ。絶対開けない方が良いよ。
親から貰った大切なカラダなんだから!」
そう言って真面目な事を言う
沙希の耳には、しっかりとリングが光っていた。
そんな不思議な彼女には
何故か惹かれていた。
今までに会ったことのないタイプの子
そんな彼女とは僕がNYへ留学した事により、疎遠になっていた。
彼女はとにかくモテる子だったので
常に男が何人も追いかけていた。
自分がその内の1人にならなくて良かった。その程度に思っていたのかもしれない。
大学3年を休学して1年間留学を決めた僕は全てをリセットして、誰も自分の事を知らない場所に行くことに胸が高鳴り、心躍らせていた。
一方でいま思えば留学直前に出会った
沙希と、もう会うことは無いだろうと考えると、後ろ髪を引かれる思いだった事もまた事実だ。
NYは刺激的だった。差別も受けた。
自分が白人ではなく、黄色人種である事も初めて知った。僕は人より色が白かったんだ。
世間知らずも甚だしい。
生きていく事に必死だった。
英語も話せない、スーパーで食糧を買うのにも一苦労。五感をフルに稼働させて毎日を必死に生きているから夜はぐっすり眠れた。
日本人の友達は作らなかった。
そんな状況だから当然誰かを愛する事も
沙希の事を思い出す事も無かった。
あんな災害が起きるまでは。
3.11
私達日本人に取って一生忘れてはいけない悲劇。いや忘れられない悲劇。
衝撃的な映像を見て
1番にした事が沙希と連絡をとる事だった。
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