救出
第29話 あっさり教えた理由
「ねぇ、母さん。隠してたのになんですぐに教えてくれたの?」
女王様のお客様ということもありすんなり寝室を使わせてもらった。
1人と1匹が2人になったことも咎められることはなかった。
今は朝食を女王の間でひそりと摂っている。割と楚々とした内容だ。
「あー。えへ。バレちゃったのよ。あんたの存在。」
年不相応のふざけた笑みに怒りよりも驚きが勝る。
「…え!?はぁ!?…待ってバレたって誰に?」
「1番バレたくない相手によ。」
それは間違いなく第2王子のことだろう。
「あの、もう手遅れかもしれませんが、こんなに聞いてしまって良いのでしょうか?」
ルナは珍しく心配そうに尋ねている。
「そうね。漏れたら極刑じゃ済まないわね。」
物凄く妖しい笑みで告げられ、隣でゴクリと息を飲んだのがよく分かった。
「ルナはそんな事しないよ。」
「あら?随分信用してるのね。」
机に手をつけて力強く立ち上がったエレノワースが、前のめりに告げると先ほどとは違う柔らかな笑みを湛える。
「当たり前だよ。それに母さんだってわざわざ話したりしないでしょ。」
「私も信用されてるのね。」
さも当たり前だとエレノワースは頷いた。
「ふふ。そうね。ルナちゃんに危害を加えたりなんてしないわ。…あの子がレイアの命を本当に狙っているとも思えないのよね。」
そうだろうか?今までのことを考えれば、とてもそうは思えない。
「ねぇ、私も命を狙われるってことでいいの?」
「どうかしら?第3王女がいるという情報が漏れているのが分かっただけで、あんただと当たりがついてるかまでは分からないわね。」
そもそも第2王子が何をしたいのか。知っても仕方ないのではと思いつつも、結局母に聞いたが明確には分かってはいないようだった。
「大丈夫よ。あっさり殺すなんて有り得ないわ。自分が死んでもいいというのなら、とっくに済んでいるはずよ。」
ごもっともではある。理解は出来ないが。
食事を終えて、ティータイムに入った。
まだ混乱した頭の中、ハーブの紅茶の香りが手伝って徐々に整理されていくと、ルナのことをまだ聞いていないと思い当たる。大事なことなのにルナには自分のことばかりで申し訳ない。
「母さんはなんでルナのことを知ってるの?」
「嫌ね。当然じゃない。この国有数の名家よ。今でこそ勢いは削がれつつあってもね。」
「じゃあルナの呪いについては?」
「そう…もしかしてあなたの姉が不可解な事件に巻き込まれたのって…」
詳しく呪いについては知らない様子だったのでルナに承諾を得て話し出す。
「なるほどね。なかなか悪趣味な呪いだわ。いいわ。私の方でも調べてみるから何か分かったら連絡なさい。」
ルナは感謝の意を述べた。国の女王様が力になるというのだ。これ程心強いこともないだろう。
話は一通りできた。これ以上長居しても仕方ないと、ルナと学園に戻る準備を始める。
ルナが準備している間、母と二人きりになる。まだ母が女王様であることに実感はない。嫌な夢を見ているみたいだ。
それにまだ1つ聞けてないことがある。1番重要なことなのに。
「レイア様が私を殺したっていうのは?」
「言ったでしょう。レイアはあなたにそんなことしていないわ。」
「でも苦しんでいるみたいなんだ。そう思い込んでる。」
「あんた、それでここまで来たのね。」
そうだ。正直自分についての秘密なんてどうでもよかったんだ。いや、物凄い驚いたけど…気絶する程度には…。
「レイアは1度あんたに命を救われてるのよ。」
「?」
「といってもレイアがそう言っていただけなんだけどね。」
色々なことが分かったのに、知りたかったことだけがわからないままだ。その後は談笑しつつ、暫くして、準備が出来たのかノックが響き扉の方を向く。
「じゃあ母さん。突然来たのにありがとう。」
「いいに決まってるわ。というより黙っててごめんなさいね。」
「それは本当になんとも思ってないんだ。感謝することはあっても恨むことなんて何一つないから。」
「そう。」
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「ねぇ、どうしてレイア様は教えてくれなかったのかしら?」
「え?」
ルナを乗せた帰り道、もうあと僅かで学園という所で話しかけられた。
「だってあんなにすぐに教えてくれたのよ?だったらわざわざ帰らなくても良かったんじゃない?」
「…たしかに。」
「何か言いたくない理由があったのかしら?」
私を殺めたとは思ってないが、その辺に関してはそうなのだろう。しかし、それ以外は言いたくない理由になるのだろうか。
「それは私が自分で気付くしかないのかな。」
着いてきてくれたルナに感謝しつつ、レイア様のいる寮へと帰る。荷物を抱えて、もう着くからと何となく人の姿に戻った。
歩きながら「お腹すいたなぁ」とごちると、ルナはくすくす笑いながら「たくさん走ったものね。ありがとう。」なんて素直すぎる態度に驚く。
ありがとうはこちらの方だと言うと、女王様の力も借りられるのよ?感謝しても足りないわと、いつものすました顔。
「何も変わることなんてないと思ってたわ。でも、あなたのおかげで変わり始めた。ありがとう。エレノワース。」
ただそのあと飛び出てきた言葉は驚きだった。初めて名前で呼ばれたのだ。胸が少し痛むようなそんな感覚がする。
「ちょっと、それずるいよ。なんか胸のあたりがぎゅうってなった。」
正直に伝えると、ルナは何も言わなかったし、こちらと目も合わせなかった。なんとなくそれ以上何か言うことが憚られたので、今度こそ寮の中へ入る。
直ぐに元に戻った彼女にもう一度感謝を伝え、私はレイア様の元へと向かった。
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