第28話 真実を知る

「母さん?」


「そうよ?」


「女王様?」


「そうよ?」


先に理解したのは、ルナのようですぐに立ち上がり、膝を曲げて跪礼をする。


「あぁ。いいのよ。畏まらないで。そこに掛けてちょうだい。」


エレノワースの方はポカンとしている。


「あんたはあほ面していないで、ルナちゃんを見習いなさい。」


いつの間にかルナちゃん呼びだ。


「え?私を産んだのは?」


「私よ?」


女王様がにっこりと微笑んだ。


「え?ぇ?ぇええええ!?」


「静かになさい!」


2度目の紅茶が目の前に置かれる。先程よりだいぶ高そうな茶器、香りも異なる。


「エレノワースもう分かってはいると思うけど、あなたが気付いたように元々人間よ。馬じゃないわ。」


「あんなに草も食べたのに!?」


「人も食べられるものでよかったわね。」


そういえば母は草に口をつけていただろうか?


「というかなんで?どういうこと?」


「…隠したのよ。」


「?」


「女性が優先的に王位を継承して婿を入れるのは理解してるわね?」


「うん。」


「レイアが最もそれに近いことも理解してるわよね?」


こくりと頷く。ルナは静かにこちらに寄り添っている。


「レイアの命が第2王子に狙われていることも?」


「知ってる。なぜ野放しにするの?」


「野放しにしている…そうね。罰せられないのよ。どうしても。」


「そんなの納得いかないよ。」


納得いくわけがない。実の兄妹じゃないのか…?妹の命を狙うなんて許せない。


「呪いよ。あなたもかかっているわね?」


「あぁ。マジナイね。レイア様を裏切ると馬の姿になって二度と人には戻れない。だっけ。」


「え?あぁ。そう。それと似たようなものよ。第2王子が死ぬと、レイアも命を落とすわ。」


「え?待ってそれって第2王子になんのメリットがあるの?」


なんてややこしいんだ。第2王子はレイア様の命を狙っていて、レイア様が死ぬと第2王子も死ぬ???


「じゃあ第2王子が自害に及んだら?」


「自害では死ぬのは自分だけよ。レイアも同様。他殺においてのみ第2王女と第2王子の命が繋がってしまう。」


「呪いを解く方法は?」


「分かっていたら解いてるわよ。」


そうか。だから誰も下手に第2王子を罰することが出来ない。聞きたいことは色々ある。なぜ命を狙っているのか?自分を殺してまでやりたいことなのか?でもそんなの聞いて分かったら解決しているはずだ。


「じゃあ私を隠した理由は?」


「…万が一レイアに危険が及んだ時あなたが王位を継ぐのよ。」


一呼吸置いて話されたそれは認めたくない言葉だった。まだ理解がおいついていないが、女王様が母親という時点で私は王位継承の可能性のある1人であり、レイア様と姉妹であることだけはどうしようもない事実だった。


「レイアを守ってちょうだい。」


「言われなくてもそのつもりだよ。」


これだけは元から変わりない。変わるわけがない。家族とわかったからじゃない。大事な人を守るそれを決めたのはもっと前のことだ。


「母さん。レイア様は私を1度殺したと言っていたけど、どういうこと?」


「…。そんなこと言ってたの?」


女王様は考えるそぶりを見せた後こう言い切った。


「あの子はあなたを殺してなんかいないわ。」


「…。」


「もう今日は疲れたでしょう?休みなさい。」


「いやまだ聞きたいことが…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「痛い…」


すごく痛い。肺が潰れてしまったように息がままならない。全身は痛みに冷たくなっていく。


痛い。痛い。


腕の中には何か暖かいものがあって、私はそれを離すものかと力の入らない腕で抱いている。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…ぇ…ねぇ!起きて。」


薄ら目を開けるとサラサラの白い髪と赤い瞳が目に入る。


「大丈夫?魘されていたわ。」


そう言いながら手ぬぐいで額の汗を拭ってくれた。全身は発熱したかのように熱い。


「ごめん。なんか凄い嫌な夢を見て…」


「どんな夢…?」


「覚えてない…けどなんだか凄い痛くて」


小さな手がエレノワースをあやす様に動く。


「それより話の続き…!」


「…バカね。あなた話してる途中で気を失ったのよ?」


「え?」


「窓見てみなさい。」


暗い窓からは月が覗いていた。どうやら本当らしい。思い出せるのはいきなり力が抜けてしまったということだけだ。


「4時間も走った頭にあれだけの情報が入ったんだもの。無理ないわ。」


サラと頭を撫でられる。


「ルナ…あ、ごめん。起こしたよね。」


「大丈夫よ。それより汗が凄いわ。着替えてこちらにいらっしゃい。」


本当だ。気持ち悪い…。布団が濡れるほどとは恥ずかしいと思いながら、身体を濡れタオルで拭き準備されていた衣服に着替える。


「いいの?」


「いいわ。もうひとつ部屋を貸せなんて図々しいでしょ?」


何も考える気が起きず、素直にルナのベッドに潜り込んだ。


「ねぇ。ルナ。ありがとう。」


「どうしたのよ?」


「ルナがいてくれたから取り乱さずにいられた気がするんだ。」


近くにいる小さな背中に腕をまわす。


「ちょっと…!」


「ルナは小さいのに強いね。」


「小さいは余計よ。あのね、必要以上に密着するのも禁止。」


「お願い。今だけだから。」


まわした腕の力を弱めずにいると、しばらくして仕方ないわね。と声が聞こえた後、後ろから回した腕に暖かな手が添えられた。


そのままもう一度意識を手放した。

もう嫌な夢は見ない。

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