第27話 聞かせてもらいましょうか

「嘘でしょ?」


「あはは」


「聞いてないわ。」


「えへ。」


バシンと背中を叩かれた。

私たちは目的地に到着している。


「レイア様にかけられた魔法だとは知っていたけど、ここで育ったなんて言ってなかったじゃない…」


ここは栄えている街の中心。目の前まで来なければ気付かないだろうとは思っていたが、やはり怒られた。


「ごめんて。言ったらついてこないかなって。」


「…。もういいわ。来てしまったものは仕方ないし、で、簡単に入れるわけ?」


「壁登ったりなんて古典的なことしたら死ぬ可能性があるからね。そのあたりは準備済みだよ。」


と言いながら、エレノワースはキラリと光る手紙をちらつかせた。


「そう。じゃあ行きましょうか。」


「待って待って。」


2人ではなく、1人と一頭になり門に近付く。

兵士に声をかけ先程のものを見せるとすんなり中に入ることが出来た。


「こんなにあっさりでいいの?」


「いいんだよ。あれは王族しか発行出来ないんだ。偽物でも持ってこようものなら、この門をくぐった瞬間にそれが燃えちゃう仕組みになってるらしいよ。目の前で見たことは無いんだけどね。」


「へぇ。そうなの。」


「ほら、行こう。」


長い時間が経っているわけでもないのに懐かしく感じる。衛兵が前を歩き、知った道を通される。


「元気そうじゃないか!!」


デカい声と図体のハーデンと久しぶりの再開だ。

馬の姿のままだから、ベタベタ触ってくる。


「そちらのお嬢さんは?」


「学友だよ。後で紹介する。それよりも母さんのところに案内して欲しいんだ。」


「偉い急いでるな。どうしたんだ。」


「それも後で。」


やれやれ思春期の娘は仕方ないなみたいな態度で腹が立ったが馬小屋の前のハーデンの休憩室で待たされた。こちらとしてはすぐ案内してくれてもいいんだが、何か譲れない様子だったので大人しく待つ。衛兵はハーデンに合流した時点で元に戻って行った。今回は名目上は旧家の娘の献上品という形で中に入ったのだ。


人の姿になり、ルナに紅茶を入れて隣に座る。


「本当に私も同席してていいの?」


「大丈夫。」


暫くしてハーデンに声をかけられ馬小屋に行く。


「母さん。」


「あら、エレノワース随分帰ってくるのが早いじゃない。」


「まあ。うん。大事な話があるんだ。」


「そうみたいね。後ろの隠れてるお嬢さんは?」


一旦小屋の前に待たせていたルナが母には分かるようだった。


「なんで?」


「ふふ。中に入ってもらいなさい。話したいことは大方分かっているわ。」


ハーデンが2人来てると気を利かせて伝えたのか、それともなんでもお見通しなのかと思いつつ、ルナに中に入ってもらう。


「ルナ・ワードゲートです。」


「知っているわ。ワードゲート家とは今でも親交があるもの。」


ルナが驚いた顔のまま少し私に距離を詰めた。ルナを知っていることが気になるがそれは後で聞くことにし本題に入る。


「母さん。単刀直入に聞くけど私に隠し事があるよね?」


「そうね。学園に行けばすぐに帰ってくると思っていたわ。」


「私ってさ、元々馬じゃなくて人なの?」


「そんなわけないじゃない。」


怖いぐらいあっさり認めていたくせにここにきて翻されるとは思っていなかった。隣にいるルナも変な顔をしている。外から小鳥の囀りまで鮮明に聞こえるほど静まり返っていた。


「お言葉ですが、私には馬の姿の状態のエレノワースさんの言葉が分かります。そして今話しているお母様の言葉も。意思疎通はほぼ不可能なはずです。これが何よりの証拠では?」


「そう。よく勉強しているのね。でもそれは正しいのかしら?ほぼなのよね?魔法も技術も常に進化しているわ。王宮という最先端のものが入ってくる場所にそれがあってもおかしくないんじゃない?」


それはルナも話していたことだ。知識上はそうだが、万が一もあると。


「そうですね。おかしくはありません。ただ現状においては有り得ません。」


強気なルナの発言に、エレノワースは情けないが事を見守ることしか出来ない。


「なぜ?」


「簡単なことです。動物にとって、人間ほど語彙の多い言葉を習得する必要がないからです。言語強制変換するにしても代替になる言葉がありません。喜びだけでもヒトは多種多様な表現があり、それを必要としない動物には全て一様に嬉しいとだけしか変換されないはずです。感情の共有は出来ても詳細な内容までは理解出来ない。」


「そうかしら?」


「えぇ。今私が話したことをそのまま聞いてくれたならそのはずですよ。」


その瞬間馬小屋の小窓から1羽の小さな鳥が入ってきた。


「この鳥とお話出来ますか?」


小さな鳥はぴぴぴと囀る。


「…出来ないわね。」


「何も分かりませんか?話している間ずっと近くで鳴かせていたのですが…」


ぴよぴよ鳴いている、静かにしているエレノワースはもちろん理解していない。


「えぇ。そんな玩具じゃ私は騙せないわよ?」


ルナは嫌な顔をする。その瞬間小鳥が石ころに変わった。小鳥と話せないのを手立てに畳み掛けるつもりだったのだろう。だがあっさり魔法だと解かれてしまった。


「聞いてはいたけど、ここまで魔法を扱えるとはね。驚いたわ。」


ルナはふっと息をついた。


「ごめんなさい。付け焼き刃じゃだめね。でもあなたたちが馬だとして、こんなに魔法が使えるなんてとても信じられないわ…。」


「ふふふ。ごめんなさいね。今日2人が来ることは分かっていたし、隠すつもりもないわ。ちゃんと話をしましょう。」


ことを呑み込めないまま話は進んでいく。母さんってこんなキャラだっただろうか。母にボケっとしてるんじゃないわよと突っ込まれた後に、良い友人をもったわね。と褒められた。


「ルナさっきのってどこまで準備してたの?」


「たった今よ。全部でまかせなんだけどね。」


「え?そうだったの?」


「あなただったら簡単に騙せたのにね?」


その発言にエレノワースは不満こそあったが1人だけ置いてけぼりの先程の状況があっては言い返す言葉がひとつも出てこなかった。母さんに指示された王宮内の客間で待機している。


しばらくして、扉が開いた時知っていた以上の事実に声も出なかった。





「え、女王様…?」


「ふふ。さすがに気付かなかった?」


そこにはこの国の女王様が立っていて、2人の驚く声がシンクロした。

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