第26話 急がば回れ。すごく急ぐなら突っ切れ。

今まで、馬になってから…といえばいいのか。

これまで人に流されてきたことがほとんどだ。

悩んだことも、以前ソフィアと話したときと変わらずほとんどない。

周りの人間は大なり小なり悩みを抱え解決するために動くなり、溜め込んでしまうなりしている。


その悩みを知って寄り添うことは出来ても、本質的に理解することなんて到底出来やしない。


問題がなかった、認識出来なかった私には何かを思考することがほとんどなかった。ただ、自身が動かないことで苦しんでいるかもしれない人に気付いた今、知らないふりはもう出来ない。


まずはレイア様だ。兄のこと以前に私に隠し事がある。


レイア様には聞かないと決めたが、あの人に聞かないとは言ってない。


ずっと引っかかってはいたが別にいいかと流してしまっていた。


ついでにルナの情報も貰えたりしないかとは思うが、そんなに上手くはいかないかもしれない。


とにかく明日は学校を休む必要がある。


「フレア」


振り向いたその人は呆れ顔だ。


「エレノワースさん。先生と呼んでくださいと…」


「フレア先生。」


「もう。慌てた様子でどうしました?」


食い気味で先生と話すと、また呆れられてしまったみたい。


「えっと…」


「まずは隣に座ってください。」


言われた通りに隣に腰掛けた。暖かい紅茶を出してくれる。


「ありがとう。」


「それでどうしたんですか?」


「フレア…先生はさ、私に隠し事あるよね?」


「…どうでしょう?」


「いや、そのことはいいんだ。私自身なんとも思ってないんだ。そうじゃなくてそれを私が知らないことでクレア様が悲しんでる。」


「…そうでしょうか?知ったと分かったらもっと苦しんでしまうのではないですか?」


それは考えていたことだ。だとしても、それを知ったうえで彼女を受け入れればいい話だろう。


「あなたの想像を上回るようなことでも?」


「どうかな。でもレイア様を大事に思い続けられる自信はある。もちろんフレアもね。」


「この世に絶対はないんですよ?」


「私にはある。」


エレノワースは強い視線でフレアを射抜く。

ピンと空気が張り詰めたのがフレアの肌に伝わる。


「…なんであなたが言うと本当にそんな気がしてしまうんでしょうね?」


フレアの返事にニカッと笑みで応えると、張り詰めた空気は一瞬にして霧散した。


「王宮に行くんですね?」


「うん。そのつもり。」


「私も行きましょうか?」


「大丈夫だよ。フレアはレイア様のそばにいてよ。」


しばらく考える仕草をした後、結論が出た。


「で、なんで私が行かないといけないのかしら。」


小さな身体を偉そうに張って私を睨むのはルナだ。


「いやさ、魔物も出るしある程度強い魔法の扱える人ってルナしか知らなくてさ。」


「あなたのすぐ近くに凄い人がいるじゃない。」


「…ダメなんだよ。レイア様には頼めないんだ。」


事情を察してくれたのか、それ以上追求されなかった。ブツブツ言いながらも結局は付いてきてくれるあたり彼女は良い子だ。良い子なんていったら何されるかわかったものではないが。


ルナの気が変わらないうちに荷物をまとめる。馬の姿になり、彼女の荷物と自分の荷物を乗せさらに小柄な少女を背に乗せる。


この姿なら余裕だ。


入学した際に通った道を反対に行く。綺麗に並ぶ木々の隙間から流れる青を垣間見ながらスピードを上げていく。


「ちょっと…あんまり速く走らないでよね。」


「あ、あぁごめん。」


「やっぱり馬のあなたと普通に話せるのって違和感よ。」


自身にとってはあまりに普通の事だったので気にしていなかったが、動物と人が話せないと知るルナにとってはかなり違和感があるみたいだ。


「付き合ってくれてありがとうね。」


「一体どこへ向かう気よ。」


そうだった。てっきりルナには全て話したと思っていたが、王宮へ乗り込むなんて聞いたら帰ってしまうかもしれない。


そこは黙っておくことにする。


「私の家だよ。」


「はぁ?あなたの家ってどこにあるのよ。」


「ここから4時間も行けば着くよ。」


「結構あるじゃない…。」


また少し不機嫌になった彼女を宥めつつ流しつつ、怖がらない程度のスピードで駆ける。


「休まなくていいの?」


「まだ平気。この先に湖があるからそこで休憩をとるよ。ルナは平気?」


「えぇ。平気よ。」


2時間ほど走った頃だろうか。目的地の中腹まで走ってきた。30分程休みをとろうと休憩用に置いてあるのであろう川辺に向かって置いてあるベンチに腰掛けた。


「ルナこれ飲んで。」


持ってたコップにミルクを注ぐ。ルナがコップを受け取って一言唱えると、湯気が立ち始める。


「え!ずるい!私のもやってやって!」


「自分で出来るでしょう?」


「私火の魔法?苦手っぽいんだよね。風は扱えるんだけど冷めちゃう。」


「仕方ないわね。貸して。」


渡して直ぐに返ってきたそれは暖かかった。蜂蜜を入れて完成。


「美味しいわね。」


「ふふ。それならよかった。」


美味しいは美味しいが全力疾走してきた身体にはミルクだけでは水分不足だ。水も大量に飲み下しベンチに深く身体を預ける。火照った身体に丁度良いぐらいに冷えたそれは気持ちがいい。


「ねぇ。」


「ん?」


「そろそろ教えてくれてもいいわよね?何しに行くつもり?」


片道4時間を連れ回すというのに私はそんなことも彼女に言ってなかったらしい。


今までの経緯を掻い摘んで話した。


「…。それって私場違いじゃない?」


「そんなことない。というか現時点で事情というか心情を1番知ってくれてるのはルナだから、迷惑かけちゃってるけど最後までいて欲しい。」


「…まぁ、もう戻れないしね。」


「あは、ごめん。」


別にいいわ。と軽い調子で言われ、そろそろ行くわよ。って先に立ち上がった。


「ありがとう。ルナ。」


「別に。私の方の問題だって力を貸してくれるつもりなんでしょ。お互い様よ。」


その言葉が無性に嬉しくて後ろから小さな身体に抱き着く。


「…!なにするのよ…」


「ごめん。嬉しくて。」


「汗臭い…」


はっとして離れると、ルナはこちらを見ないまましばらく目を合わせてくれなかった。


「えーごめん。怒らないで。ね?」


「別に怒ってないわよ。早く乗せて。」


取り合うつもりはないという感じなので、馬の姿になり乗りやすいように少し屈む。


「ん。ありがとう。」


「ねぇ、臭くない?平気?ねえ!」


「うるさいわね。大丈夫よ。臭くないわ。早く行って。」


やんややんやしながら残りの道をひた走る。


目的地まであと1時間ほどだ

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