第21話 寡黙な少女は 前編

出来ることから作戦は、サラと話が出来たこと、鍛錬を詰んだこと以外はほとんど課題として残っている。早々解決できそうにもない事ばかりではあるが…。以前のレイアについて気になっていたことも結局保留のままだ。


そうこうしているうちに学園祭が迫り今日は当日着用予定の衣装の試着がある。


セリフのメニューなんかは、サラやソフィア、アルマが率先して決めているらしい。嫌な予感しかしない。


「エレのんめっちゃ似合う。」


何故だ。この前の変装はいいとしても、なんで学園祭で1人だけ男装なんだ。ちなみに男子の方もゾーンだけ女装することになった。


黒地のワイシャツに白いズボンなんてそのまんまホストみたいな格好だ。こちらの富裕層御用達のクラブも女性キャストはドレスを身にまとい、男性キャストがいる店ではワイシャツにパンツルックが王道らしい。日本と余り変わらないな。少し違うのは派手な髪型や装飾をしないことやあまり接触しないということだろうか?よく知らないが。王様ゲームとかもないらしい。あとは日本でもそういう使われ方もするようだが、会議や打ち合わせで使われるのがメインとのこと。


「えー?変じゃない?」


「アレン様すごく素敵です。」


心配そうにエレノワースが聞くも、ソフィアもサラも大絶賛のようだ。ゾーンの方もドレスに着替え終わったらしい。


「え!?かわ…。お前ほんとに男か?」


これはアルマの発言。ゾーンは水色のマーメイドドレスだ。確かに可愛い…。


「正真正銘男ですよ。確認しますか?」


「しねぇよ!」


何やら楽しげだ。レイア様にも感想をと思ったのだが見当たらず、ルナが視界に入ったので声をかける。


「何よ。」


「ルナも着ようよ。」


「嫌よ。裏方に回るって言ったじゃない。」


「ダメって言ったじゃない。」


「真似しないで。」


ムッとされてしまった。あは、またやっちゃった。


「えールナちゃんも着ようよ。絶対似合うって!」


「私もそう思います!試着しましょうよ!」


ソフィアとサラが空気を読まずにノリノリで話しかけてくる。やめろ、今はやめるんだ!そう思ったのにルナの雰囲気は僅かに違った。


「…分かったわ。」


さも面倒そうに。でも断らなかった。

なんだか少しつまらない気分だ。自分の発言には同意して貰えないのに2人ならいいのかよーって。ただ、ドレス姿のルナは見たいので黙ることにする。


「へぇ。ルナちゃん髪さらさらぁ!」


「…。」


「あ、このドレス似合いそうです。」


何故か教室内に簡易的に作られた試着スペースに入れて貰えなかった。男装してるから今はダメなんだってサラに言われた。イミワカンナイ。


数分後に嫌そうに出てきたルナを見てガヤガヤしてたクラスが一瞬しんとする。


「…!」


「…。」


「えっと…」


「何よ。」


「…っ。」


「…どうせ似合わないわよ。」


表情は伺えないが、上手く答えられなくて沈黙する。言いたいことは沢山あるのにパッと出てこない。なんでもいいから出てこいと勇気を出すため拳に力を入れる。


「…。もういい。」


そう言ってルナが教室を出てしまった。


「…ばか!エレのんなんで褒めてあげないの?」


「え?」


周りもしんとしてた癖に私だけ怒られた。


「ちが、その可愛すぎて咄嗟に反応出来なくて。」


「あらあら〜」


サラがにやにやしてる。アルマやグレンたちも同意見なのかすっごい可愛かったなとかボソボソ言ってる。


「いいから追いかけてきて…」


ソフィアの迫力に圧倒されてエレノワースは直ぐに教室を出た。


宛もなく探すが広い校内のどこにいるか分からない。図書室やトイレにはいなかった。足音を聞こうにも多くの学生がいてどれがどれなんだか分からない。


1階から8階までくまなく探したはずだが、見つからず、普段は入ることのない最上階のドアに手をかけた。


「ルナ」


そこには探していた人がいた。


「…。」


屋上は解放されているものの学生がいる階からは遠いのであまり使われていないのだが、まさかここにいるとは。


「ルナ」


「…。」


「ルナちゃん」


「しつこい。何よ。」


振り返った彼女の淡藤色のドレスはスカートがシフォンレースで風に攫われて靡いている。


真っ白の髪がたゆたう様は羽衣を纏う天女のようだ。


「凄く綺麗…。」


「…。」


「ごめん。ルナ。さっきはその…ルナが綺麗すぎて言葉がすぐ出てこなくて。」


「なっ。」


「凄く似合ってる。」


「別にそんなこと聞いてないわよ。というかそういうこと言ってきそうな気がしたから逃げたの。」


誰から見ても華奢な身体を包むドレスも、それを纏うルナ自身もあまりにも綺麗だった。


「え?でも、ごめん。どうしても伝えたくて。」


「そう…。」


「ルナ…」


「忘れてないわよね?」


虚をついたのは冷たい声だった。当然なんの事かはすぐに分かる。


「私に踏み込まないでって言ったでしょう?」


「それは嫌だって言ったよ。」


「あなたねぇ。」


「だってなんか嫌なんだよ。仲良くなりたい。」


「聞き分けのない人ね…」


大きくため息をついたルナに負けずエレノワースはまた1歩近づいた。


もう一歩縮めようとした時視線に制止される。


「理由を話すわ。でも聞いたら私から距離を置いて。」


「理由によるかな。」


「それでいいわ。」


2人は屋上から地面を見下ろすような形でフェンスの近くに立つ。ルナは地面を見つめたまま呟くように口を開いた。


「あなた人を好きになったある?」


あまりにも予想外の質問。

巡らせてみるも恋をした記憶はない。過去日本にいた頃は…?と思い出そうとするが上手く思い出せない。


ルナは気にする様子もなく話し始めた。

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