第20話 焼き餅焼いて食ぅ⤴︎⤴︎⤴︎ 後編
ホームルームでは、学園祭までのスケジュールを大まかに決めて、準備する班ごとにメンバー分けをして終了した。
フレアが終わりの挨拶をして解散になると、教室はガヤガヤと賑やかになる。
「アレン様、今日この後お時間ありますか?」
「あ、ごめん。この後レイア様と出掛けるんだ。」
「いえ、それならいいんです。気をつけて行ってきてくださいね。」
そう言いながらサラがエレノワースに一歩、距離を詰める。
肩の辺りに手を置かれ、背伸びする彼女がこちらに近づいてきて、また頬にキスされると思ったが避けることも出来ず目をつぶった。
頬に思っていた感触がなく、目を開けるとしたり顔のサラがいた。
「キスされると思いましたか?」
「え、あ、うん。」
「ふふ。レイアさんが見てますよ?」
耳元で囁くように言われて、バッと音がするほどの速さで離れる。
「か、からかうなよ〜」
「あらあら。」
清楚な女の子かと思ったら、とんでもない。こちらの反応を見て楽しんでいるようだ。レイア様のこともからかってるみたいだし、知っていたがやっぱりイメージと違う。
「エル」
キッと睨まれてあわあわしていると、張本人がフォローしてくれる。
「アレン様に糸くずが付いていたので取って差しあげただけですよ?」
「そ、そう。エルとはこれから約束があるの。もういいかしら?」
「もちろん。」
レイア様はバチバチな感じだけど、サラの方は余裕そうだ。それはそうだろう。こうやって私達の反応を見て楽しんでいるのだから。段々サラという女の子が分かってきた気がする。
それよりも今は目の前のお姫様だ。
「レイア様行こう?」
「えぇ、そうね。」
カバンを持っていない方の手でレイア様の手を取り歩き出す。とりあえずデートだし手ぐらい繋ごうと思いつきで握った。レイア様も嫌がってる様子はなさそうなので、寮に寄って荷物を置き少しだけ準備して学園を出る。
街までは少し距離があるので、馬になりレイア様を乗せて林道を駆けた。
「よく考えたら街にちゃんと出るのって初めてだ。レイア様はお店とか分かる?」
「まぁある程度はね。」
「んーでも、せっかくだし、どこかいい所を見つけたらそこに入ろうよ。」
レイア様の知っているところはきっと外れないだろう。でもせっかくなら2人にとって初めての方が思い出に残る気がしてそう提案した。レイア様も同意してくれる。
今日は荷物もなく好きに走れる。レイア様も騎乗が得意なので、馬車でこの道を通った時よりも何倍もの速さで街に到着した。人の姿に戻りレイア様と共に街を歩く。
「へー。この前はちゃんと見る時間もなかったけど、結構賑わってるね。」
「…。」
「…?どうかした?」
レイア様は何も言わずに袖を掴んできた。立ち止まってレイア様の方を見やる。
「…手。」
「手?」
「もう繋がないの?」
返事をすぐせずに、レイア様の手をギュッと握ってまた歩き出す。
「あ、」
「えっと、行こっか?」
黒髪の長身の女と、金髪美少女なんてかなり目立つ組み合わせだろう。第2王女が街を歩けば騒がれることになるかなという危惧は、髪の色を魔法で一時的に変えてコンタクトを入れることで対策している。学園では抑止力があるが、街に出れば分からない。その辺の対策は万端だ。
かくいう私も変装している。馬以外に姿形を大きく変えることは難しいので、男物の衣装に胸を潰して着て、髪の毛を適当にまとめた。傍から見れば青年といったところか。
その為奇異の目で見られることもなく、恐らく本来の意味でのデートに見えてることだろう。
変装してるせいかレイア様は無防備でむしろ心配だ。
「ねぇ、あれ!美味しそうよ。」
目線の先にはパンケーキのお店だ。こんな所でもパンケーキが流行っているのかなんて、自分自身は行列が苦手でそういう店では食べたことがなかったなと耽ける。
「そこにしよっか。少し並ぶけど2人ならあっという間そうだし。」
並ぶこと自体は彼女も苦手そうだが、甘いものには勝てないらしい。一緒に最後尾に並んだ。
「しばらく並びそうだし飲み物買ってくるよ。1人で待てる?」
「子供扱いしないで。」
子供扱いしてる訳じゃないんだけどなと思いつつ、ここに到着するまでにあったドリンクをメインに扱ってるお店で紅茶を買った。古き良きな国だが普通に栄えていて紙のコップが普及している。
近くまで戻るとベタな光景だ。レイア様が絡まれていた。あれは学生だろうか。美少女だもんな。勇気出して声かけるよね…分かるよ。でも今日はごめんねと思いつつ近寄る。
「あの、本当にお茶だけでも一緒にしませんか?」
「1人じゃないのよ。」
「お連れの方も一緒で構いませんから!」
しつこいけど好青年な感じだ。申し訳ないが、レイア様の方も困ってる。優先順位なんて決まっていた。あと、お連れの方も一緒は不味いだろと心の中で突っ込む。
こちらに気付いたレイア様が困り顔で助けを求めるよりも前に、空いてる手を彼女の腰に回して引き寄せる。
「ごめんね。今日のデート相手は僕なんだ。」
本当に申し訳ないという気持ちで謝ると、好青年は真っ赤な顔で「ご、ごめんなひゃい」と走り去っていった。悪い奴ではないんだろうなぁ。
「遅い。」
「えー急いだよ?」
「気付いてた癖に観察していたでしょう。」
なんだ、こちらに気付いたと思うよりも前に分かってたんだ。
「そんなに悪い人じゃなさそうだし、騒ぎにならないようにどうしたらいいかなって迷ってただけだよ。」
「…。」
「ごめんね。紅茶買ってきたよ。飲む?」
「次は迷わずに来なさいよね…。」
「また声かけられるつもり?」
からかうように言うと脇腹あたりを抓られた。いた、いたたた。
「もう…。」
「ごめんて。可愛いくてからかいたくなっちゃった。」
飲み物を渡すと、今度はちゃんと飲んでくれた。飲み終わったあとにもう1回抓られた。いて、いててててて。
「痛いよ?」
「痛くしてるの。言っても分からないみたいだから身体で覚えましょうね?」
この歳の子のこういう発言ってある意味18禁じゃない?なんて馬鹿なことを考えてるのがバレたらビリビリなんかじゃ済まされないだろう。隅にやって必死に反省してるのを装う。
「次がないように傍にいるね。」
「…もう。」
赤面してるレイア様をからかってるうちに順番が回ってきた。繋いでいる手を1度離して席に着く。さすがパンケーキ。注文してからあっという間に出てきた。目を輝かせてるレイア様は早速シロップをかけている。私もそれにならってシロップをかけ2人で挨拶をして手を付ける。
こんな時間がいつまでも続けばいい。しかし、時折本当に一瞬だが目を伏せる彼女の様子が気になる。
どのタイミングで聞こうか迷ってるうちにパンケーキはなくなってしまった。
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