第3章 学園祭

第19話 焼き餅焼いて食ぅ⤴︎⤴︎⤴︎ 前編

今日の授業はペアワークだ。エレノワースはレイア様とやることになった。クラスは9人なので、フレアも混ぜてペアを作るのだが、アルマがフレアと組みたがり、それを嫌がった為ソフィアがフレアと組んで、セレンがアルマと組むということで落ち着いた。その他はルナとゾーン、サラとグレンのペアだ。


ペアワークといっても楽しそうなものではなく、魔法を使った演習だ。模擬試合みたいなものをする。攻撃魔法が当たったら大怪我確定なので、魔法具を使い魔力を込めて打つことで当たり判定が出るとビリっと痺れるくらいのものだ。


レイア様となんて大丈夫だろうかとは思うが、強力な魔法を使えないのは好機だ。本気で行こう。



ところが、何度やってもビリッとしたのはエレノワースだけだった。


「あなたなんで打ってこないのよ。」


「っはぁ。…本気でやってるんだけど、いざレイア様に当てようとすると魔法が打てなくて。」


「え?」


「レイア様に攻撃は出来ないかも…」


「エル…。」


はにかむレイア様。可愛い。ただ、彼女は大分容赦なく当ててきたけどね。結構なビリッだった。魔力量に対して多少強弱の変わるそれは相当の威力だ。怪我しないとはいえ実践向きらしい。


「エレノワース減点よ。」


容赦ないのはフレアもだった。当てる気が無いなら減点、それはそうだ。減点発言以降他の生徒たちは真剣に当てにいってた。1年が終わる頃にはクラスの査定があるのだ。みんな、Aクラスにいたいはずだ。減点は避けたい。Aクラスには学費がない。優秀な生徒である限り学園に無償で通える。Bクラス以下はかなりの金額を払って通っているらしい。


それは分かっているのだが、どうしてもレイア様には当てられなかったのでひたすら避けることに集中した。


授業を終えてレイア様に話しかけられる。


「エル…当てても良かったのよ?」


「なんか出来なくて…まぁ実際打っても当たったか分からないけどね!」


あははと笑うと、レイア様も微笑んだ。

午後は選択授業だ。その前に楽しい美味しいお昼休み。いつもは学食で食べているのだが、レイア様に連れられ最近来たテラス席に座る。


「お昼持ってなくて大丈夫なの?」


「えぇ。いいわ。これあげる…。」


レイア様からお弁当を渡される。これってもしかして…。


「味は保証出来ないけど…食べたところで問題は無いはずよ。」


「もしかして、レイア様が!?」


「そうよ。何?食べたくない?」


「そんなわけないよ。凄い嬉しい。開けていい?」


あのレイア様がお料理なんて…!と思いながら蓋を開けた。お世辞にも綺麗なお弁当とは言い難いが、可愛くしてくれようとしたことは凄く伝わる。


「ドーター…サラに教えてもらったのよ。」


「いつの間に!?」


「昨日食堂で悪戦苦闘してたら声をかけてくれたの。まぁ一度断ったんだけどね。」


と、バツが悪そうだ。サラが手伝ったなら味は間違いなさそうとは失礼か。なにより2人が仲良くしてることが嬉しかった。


頂きます。を合図に、卵焼きをとって咀嚼する。正直に言おう。美味しい…!!


「…美味しい。もっとなんかダークマター的なあれを予想してた。」


「ちょっと…またビリビリしたいのかしら?」


「ち、違うの。誤解だよ。本当に美味しい。ありがとう。」


不用意な発言で、とてつもなく素敵な笑顔で怒らせるところだったが、きちんと気持ちを伝えると、アクアブルーの瞳は綺麗に細められた。


「なんで作ってくれたの?」


「言わないとダメかしら?」


「そんな事ないけど、今までこんなことなかったから。」


凄く言いにくそうな顔をしているが、苦虫を噛み潰したような顔と声で話し出した。


「…あなたサラの手料理食べたんでしょう。」


「え?誰から聞いたの?」


「サラからよ…帰り道言ってたじゃない。」


そんな会話したっけ覚えてない。分かることは、何だこの生き物。え?また嫉妬したの?この短期間で?可愛すぎませんか??ということだけだ。

昨日寮へ帰ったあと、レイア様とサラはそのまま少し話していたみたいでそこから「お弁当くらい作ってあげるわよ!」みたいな流れだったらしい。


「えー嫉妬?嫉妬したの?大丈夫だよ。1番の親友はレイア様で、家族みたいに思ってるのもレイア様だけだって。」


「な…!!嫉妬したわけじゃないわよ。」


プンプンしてるレイア様も最近は慣れっ子だ。よく手入れのされた金髪を1度撫でる。


「ありがとう。」


「どんなタイミングよ…」


「ごめん。」


謝りつつもクスクス笑うと、レイア様も少し表情が崩れた。


「お弁当ありがとう。お礼がしたいんだけど、何がいいかな?」


「別に何もいらないわ。」


そうは言うが、それではこちらがおさまらない。


「放課後、甘いものでも食べに行こうよ!」


「それってデート?」


「え?」


「だから、それはデートなのか聞いてるの」


「まぁ、デートといえばデートかな?」


赤い顔で怒ったように聞いてくる彼女はトマトみたいだ。食べ頃かな?なんて思いつつ返事をする。


「サラの次?」


「ん?」


「あなたにとって2回目のデート?」


「んー前回のはデート…なのかな?どちらにしても人の姿で行くのも、自分から誘うのもレイア様が初めてだよ?」


気になることはあるようだが、やがて満足したように頷いた。


「そう。じゃあ今日の放課後はデートね。」


やたら強調してくる。サラへのライバル心がむき出しすぎる。サラは私じゃなくて過去に助けられた馬に私の姿を重ねただけだったんだけどね。もちろんあの話は誰にも言わないけど。


「そうだね。」


「嬉しい。」


ポスっと腕の中にレイア様が入ってきた。最近こんな触れ合いが多い気がする。いくら16歳の女の子とはいえ、こんなに美少女に抱きつかれてはドキドキもするというものだ。


冷静さを水面下で保ちながら頭を撫でてあげると、嬉しそうに頭を押し付けられた。いつからこれ程までに甘えるようになってくれたのか、きっかけも分からないが嬉しいことに違いはなかった。


昼が終わり2人で教室に戻る。

隣を歩くエレノワースの制服の袖をレイアは僅かに掴んでいた。


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