第18話 学園祭かぁ。何するの?

ホームルーム。いよいよ学園祭の内容を決める時が来た。レイア様の件は深刻な事態には変わりないのだが、動きがあるまで気にするなと言われ、あまり深く考えないようにしていた。やるべき事をやるだけだとフンフンと気合を入れる。


何気に学級長はレイア様だ。首席のルナかと思われたが丁重に断った為に流れでそうなった。実際レイア様はこういう仕事が向いている。黒板にメモを取るなら手伝うとソフィアも前に出ていた。


「学園祭だけど、何をするか意見を挙げていきましょう。何かあるかしら?」


そう言うと、こういうのが好きそうな奴が1番に意見を出した。


「幽霊屋敷とかどう?可愛い女の子の悲鳴が聞きたいなぁ!!」


「…意見は参考になるわ。後半の部分は許容しがたいわね。」


レイア様には少し引かれていたが、オレンジ頭をきっかけにソフィアやセレン、サラからもポンポンと意見が出た。意外にもグレンも出していた。地味すぎて選ばれそうにもない案だったが感心する。ゾーンはまだ慣れないのか静かにしている。ルナは興味もないのか遠くを見ながらじっとしていた。


「ありがとう。結構出たわね。エルは何かある?」


突然振られて驚く。何も考えていなかったので昨日思い出したことが口をついて出た。


「男女逆転のメイド喫茶とか?」


メイド喫茶のワードでは伝わらず、給仕服を着用して接待することだと伝えると理解して貰えたようだ。ただこちらではそういうのを楽しむ文化はないようで、ピンと来なかったみたい。


「みんなありがとう。意見の中からひとつに絞ろうと思うわ。順番に言うからひとつに手をあげてね。」


投票結果は綺麗に割れた。3票ずつ別れたのである。意外と言うのはグレンの提案した朗読会というなんのイベント性もない意見にそれを出した本人と、ルナ、ゾーンが手を上げていた。


他の案は、キャバレーやホストと言うと伝わりやすいだろうか、富裕層御用達のクラブを提案したソフィアのものと、お化け屋敷が意見として残っている。


エレノワースが出した男女逆転の格好をするというのは思いの外ウケたもののピンと来ていない空気を読んで自分も手を挙げなかった為に脱落した。


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「じゃあ朗読クラブに決まりね。」


長考した結果、最終的に2つの意見を組み合わせて朗読クラブなるものをすることになった。お化け屋敷も有力かと思われたのだが、アルマの初めの発言のせいで女生徒が良しとしなかったのが敗因だろう。エレノワースもお化け屋敷に初めは手を挙げたが、またも空気を読んで2回目で意見を変えた。


朗読クラブの概要だが、グレン達が初めに出した意図とは違い、少し色物になっている。


指名が入った生徒を同席させて、飲み物やお菓子を出して接客する所まではクラブを似せたものだ。ただ、違うのは入れてくれた注文に応じて小説等の素敵なセリフを引用して(恥ずかしいセリフ)注文してくれた人に向かって言うというものだった。


明日からは放課後準備に取り掛かるらしい。何事も早めに滞りなくというのが学級長の方針だ。しばらくはクラスの人と長い時間過ごすことになりそう。


帰りは、サラとレイア様に挟まれ寮に帰った。ソフィアはなにやら部活に属しているらしく一緒には帰らなかった。


「はぁ。なんか疲れたな。」


サラとレイア様はなんとなくバチバチな感じだ。仲良くして欲しいんだけど、そうもいかないみたい。


サラはああ見えて肝が座っていて怖がるふりして擦り寄ってくるからタチが悪い。レイア様も敵対心剥き出しだ。


部屋について1人になり、あれこれ考えるのも面倒だと学園指定の運動着に着替えて外に出る。走り込みだ。こういう時は思いっきり走るに限る。馬の姿でもいいが、1年のAクラス以外の人に見られると不審がられる可能性もあるので人のまま走った。


寮周辺を走るとそよ風に吹かれて気持ちがいい。春ならではの香りだ。この国には日本と同じように四季がある為か、育つものや過ごし方が似ている。


勉強の方は全然ついていけないかと思ったが、元々フレアがスパルタで叩き込んでくれたおかげでそうでもなかった。レイア様も空き時間を使ってよく教えてくれる。魔法や体術の方もグレンが練習に付き合ってくれるので徐々に伸びるだろう。


ふわりと花の香りが漂ってきて、少し休憩でもしようかと立ち止まると花園があった。幾つかある休憩スペースの中に最近話もできていなかった人を見つけ駆け寄る。


「ルナ」


「…」


視線だけこちらに1度向けたあと、すぐに本に戻してしまった。こんなことではめげないと隣に腰かける。


「汗臭い」


「え!?うそ!?」


「嘘よ。でもなんで隣に座るわけ。他も空いてるでしょう?」


「いいじゃん。友達なんだから。」


僅かに反応していたがまた無視された。なんて強情なやつなんだ。この前は本当に一瞬可愛い所だってあったくせに。


「身体の方は平気?」


「えぇ。まぁ。」


シーン。やっぱり話は続かない。と言うよりも向こうが強制終了してくる。


「ルナー本当に仲良くなれないの?」


「あなたもしつこいわね。理由は聞かないんじゃなかったの?」


うんざりしたような顔を向けないで欲しい。心が折れる。折れては再建するからいいんだけど。


「理由は聞かないよ。でも仲良くしたいっていうか、もっとルナのこと知りたい。」


サラの時もそうだが人は話してみなければ真意は分からない。本音を隠せてしまうのも言葉だが、本当の意味で相手を理解するのもまた言葉が必要なのだ。感じたことなど憶測でしかない。本人から語られることをどれが真で嘘かを見極めるしかないのだ。


「私は話したくないわね。」


この調子だ。扉は閉ざされたらしい。それを意地でもこじ開けるのが私だと理解してもらう迄何度だってアタックするつもりだ。何故ここまで執着してるのか自分でも分からないが何となく放っておけなかった。


それにルナは話しかければ返事はしてくれる。


「朗読会にならなくて残念だった?」


「別になんでも構わないわ。」


「当日指名してもいい?」


「バカじゃないの。同じクラスだし、それに私は裏方に回るわ。」


一応参加するつもりみたいで安心した。ルナが裏方なんて勿体ない。というか、Aクラスは割と粒ぞろいだ。全員出た方がいいと私は思う。


「ルナ可愛いんだから出たら人気になると思うよ。裏方なら私がやるからさ。」


「はぁ?何言ってるのよ。あなたこそ出るべきよ」


「なんで?」


「見た目だけならいいんじゃない。」


「え?嘘。ルナに褒められた?だけっていうのが気になるけど、でも見た目は気に入ってくれてるんだよね!?」


ムスッとした目線を向けられる。おっと、どこに地雷があるかわからないなと慎重に言葉を選ぼうと反省しつつ、視線をくれた事が嬉しかったりする。


「一般的な意見としてよ。私の意見じゃないわ。」


「えー。そっかぁ。でもルナには絶対出て欲しい。可愛いセリフとか言ってもらいたい。」


また睨まれた。


「嫌よ。」


睨んだり、冷たかったりはするがそれでも返事はくれるのだ。だからやめられない。ほんの少しでも光があるなら手を伸ばしたい。


「ルナー」


「…。」


「ルナー」


「…。」


「ルナ」


「何よ?」


否、返事をくれるまで私が話しかけてるだけかもしれない。彼女が諦めたように本を閉じて脇に置いたので、その隙を狙ってベンチに座る彼女の太ももに頭を預けた。仰向けになって彼女を見上げると真顔で叩かれた。痛い。


「訴えられたい?」


「えー。女の子同士なんだからいいじゃん。」


「ダメに決まってるでしょ。どいてよ。」


また頭を叩かれた。割と容赦ない。もう一度頭を叩いて来ようとしたのでその手を掴む。


「やだ。」


そのまま指を絡めて動きを封じる。


「やめて。本気で叫ぶわよ。」


小さな身体からは負のオーラで溢れてる。流石にやりすぎたなと思って立ち上がった。


「ごめん。怒らないで。」


「…。」


「ごめん。」


「…いいわよ。でもこれからはやめて。」


「分かった。また話しかけてもいい?」


「許可しなくたって話しかけてくるじゃない。」


そっかと笑うと、心底呆れたような顔をされた。ほんの少し前より冷たくて悲しいが、めげはしないのだ。


「今日はもう行くよ。まだ冷えるからここに居るならこれ着ときなよ。」


着ていた上着を渡す。


「いらない。」


「大丈夫だって!腰に巻いてただけだから汗くさくないし多分。風邪ひくよりマシだと思うから」


それだけ言って、その場を去ろうとする。

ルナも諦めたのか「分かったわよ。」と言って受け取った。それを見届けてまた走り出す。もう話も出来ないのかなと思っていただけに話せたことが嬉しく、いつもより長く走ってしまった。


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