第17話 ついに登校してきたあいつ

朝起きると目の前にレイア様がいた。鍵かけてなかったかなとか、人の気配に気付かなかったんだとか思いながら身体を起こす。


「寝坊すけ。何時だと思ってるの遅刻するわよ。」


時計を見ると時間ギリギリだ。レイア様はそれだけ言うと、先に行ってしまった。慌てて制服に着替えて歯磨きだけして外に出る。自慢の足を頼りに教室まで駆けた。


「きゃ」


教室の入口で人にぶつかり、咄嗟に相手の身体を支える。


「っごめん。大丈夫?」


「あ、アレン様大丈夫です。昨日はありがとうございます。」


サラだった。昨日のことがあり気恥ずかしくそれきりお互い黙っているとソフィアに声をかけられる。


「あら〜なんか2人雰囲気が違わない?」


「え?別にそんなこと」


「そうかなぁ?なんか違うよねぇレイア様」


先に席に着いていたレイア様は絶対零度の眼差しでエレノワースを睨んでいた。ソフィアはまずったという表情でそそくさ自席に戻る。裏切り者め。


「レイアちゃんせっかくの可愛い顔が台無しだよ。」


オレンジ頭の軽率な発言のせいでさらに眉間にシワが加わった。アルマ…後でぶっ飛ばす。アルマはそそくさと席に戻る。グレンは関係ない触れないと言わんばかりに本を読んでいる。セレンは机で爆睡していた。ルナは気にする様子もない。


助けてくれる人はいないのかと色々ピンチだった時に救世主の声が聞こえてくる。


「あなた達、何してるんですか。早く席につきなさい。」


フレアだ。女神に見える。私達は助け舟にそそくさと乗って席に着いた。


教室は春先に関わらず底冷えしていたが、フレアの後ろについてきた生徒に気付いたことで一瞬にして空気が変わる。


「今日はゾーン・シーダの初めての出席です。改めて自己紹介からしましょう。」


フレアの後ろにいた生徒は、黒板のある前に立つと自己紹介を始めた。


「ゾーン・シーダです。家庭の事情により今日まで出席出来ませんでしたが、これからはどうぞよろしくお願い致します。」


背は165cmぐらいか。私より小さい男の子だ。顔は鼻筋が通っていて、小さな唇に切れ長の瞳。薄紫の髪は短く纏められている。なかなかの好青年というか美少年だった。


その後、レイア様からまたゾーンに向けて挨拶をしていく。


初めてクラスに全員が揃った。


「では魔法学の授業を始めます。」


フレアが話している間、ちょこちょこレイア様と目が合った。もちろん友達同士の目が合っちゃったわねなんてものではなく、後で分かってるわね。みたいな目線だった。


ゾーン・シーダは優秀でフレアに問題を当てられてもスラスラ答えていた。対してセレンは大きく外して笑われていた。


授業が終わると、すぐさまレイア様に連れ出される。何をされるのか内心ビクビクしている。


「あなたご飯も食べてないでしょ?」


ただ想像通りには進まず、そう言ってチョコレートを2粒くれた。ここではチョコレートは高級品だ。王宮でも何度かしか口にしたことがない。


特に何か言われるわけではなかった。チョコレートを口に入れると滑らかに溶けていって寝ぼけていた頭が回っていくような気がする。


「昨日は何があったの?」


「話しながら散歩しただけですよ。」


最後にされたことも伏せておく。挨拶みたいなものだと思うし話す必要もないだろう。


「そう。あなた私にはあんな顔しないくせに。」


ポスっとレイア様がこちらにもたれてきた。存外甘えん坊だよなと思いながら受け止める。


「レイア様?どうしたの?」


「黙って。」


言葉の意味ほど声色は冷たくなくて甘やかだった。休み時間が終わる僅かな間黙ってそうしていた。綺麗な手は私の制服を掴んでいる。


「エル…私の傍にいてよね。」


休み時間も終わりに近付いたときレイア様はそう言って、エレノワースの手を引き教室に戻っていく。ぎゅっと心臓が掴まれるような気がした。その後の授業は頭が回転してるにも関わらず少し集中に欠けた。



「来月末に学園祭があります。外からのお客様も来るような催しです。クラスで何かやることになりますので、明日の授業までに案を考えておいて下さい。」


ホームルームの時間フレアに告げられる。

へぇ、こちらの学園も記憶にある頃の学校と変わらないなんだなんてぼんやり思う。断片的な記憶はちらほらと出てくる。そういえばあの頃はメイド喫茶が流行ったなぁ。このクラスでやったら楽しそうだ。明日の話が終わり挨拶をして一度席に着く。


「エル話したいことがあるの。」


先程のように終わるとすぐ声をかけられ今度こそ昨日のことについてかと思っていたのだが、話は思わぬ方向に進む。


エレノワースとレイアは学園にあるテラスに来ていた。他クラスの人もいるが、多くは帰宅しているか部活のようなものに属しており人は疎らだ。


「レイア様どうしたの?」


「フレアが直に来るわ。少し待って。」


暫くして、フレアが現れる。


するとレイア様が紙を机の上に置いた。

レイア様が手を翳すと紙にジワジワと文字が浮び上がる。


「すごっ!!」


「静かにして。」


隣に座るレイア様に太ももを叩かれた。痛い。フレアも苦笑いしている。


「フレアには先に話していたのだけど、改めて聞いてもらうわ。今まで起きたことの調査報告が上がってきたの。」


紙には、先日の盗賊のことや、夜中に侵入してきたであろう人物の記載があった。盗賊にあったのは偶然かと思っていたのだが、そうではなかったらしい。確かに統率の取れた動きは盗賊というには違和感があったとも言える。


「ここまでは想像の範囲内よ。問題はここから。」


レイア様の指さす箇所には目を疑うような文が書かれていた。どうもレイア様の兄、第2王子が魔獣に関与している可能性があるというのだ。流石に無理がないかとは思う。あれはとても人が扱えるような代物ではなかった。


「これ本当なの?」


「分からないわ。ただ、魔獣が倒れた場所に残っていた魔法の残り香のようなものが検知されてそれが恐らく王家のものだったの。」


このことは学園の研究者等にはバレていないらしい。レイア様の派遣したもの達が先に回収してしまったようだった。魔法の痕跡は通常直ぐに消えてしまうのだが、石化されたそれから消えるのは少し時間がかかったとの事だった。


「でもあんなものどうやって。」


「それが分かれば苦労しないわ。でも相手は確実に私を殺しに来てるわね。」


苦い表情を隠せないといった様子で呟くレイア様。


「これから益々こういうことが増えると思うと少し怖いわね。ここまでするとは思ってなかったのよ?」


机の上に置いてある手に力が込められた。


「第2王子はなぜそこまで拘るんですか?」


「そうね。何故かしら?私にも分からないわ。でも、こんなことする人間に任せていいはずがないのよ。私は生きなければいけない。」


瞳には鋭い光を湛えている。


「私に出来ることならなんだってするよ。」


レイア様の強く握りしめている手に自身の手を重ねた。フレアもレイア様の反対の手に手を乗せ握る。


「2人ともありがとう。まだ出来ることが少ないけど一緒にいてくれるだけで心強いわ。」


第2王子が関与している証拠を掴み牽制する必要がある。好き勝手やらせる訳にはいかないと、時間の許す限り今後の対策を練る。


しばらくは普通通りに過ごすが、時が来たらあることを実行することになる。それまではクラスが離れ離れになることがないように、そばにいられるように鍛錬を積み勉学に励むと再度誓った。

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