第15話 笑顔の裏で何考えてるの?
馬…馬の姿が好きなのか。
馬に恋するってなんだろう。
だめだ。さっぱり理解できない。
「馬の姿が好きなの?」
「はい。一目惚れです。」
「あはは」
笑ってみたが、相手は真顔だった。うっそ、まじか。本気かこいつ。脳までピンク色かよなんて私は思ってない。断じてだ。
「えっと動物とかも、その〜恋愛対象に入るタイプ?」
何から聞いたらいいか混乱して、訳の分からない質問をしてしまった。先に訳の分からないことを言ってきたのは向こうだ、仕方ない。
「そうみたいなんです。」
あ、質問失敗したかもしれない。聞いちゃいけない性癖を聞いてしまった気がする。美少女で優しくて、料理上手で胸が大きくてなんてそんな上手い話はなかった。その代償として大きな癖を背負っているのか…。
「えっと、じゃあ人間の私は好きじゃないの?」
思い切って1番気になることを聞いてみた。
「私たち昨日話したばかりですよ?」
その言葉そっくりそのまま返してやる。
「え?でもさ昨日真っ赤になってなかった?」
「だってアレン様があの王子様の元ですもの。」
やばい。混乱してきた。というかなんか振られたみたいじゃない?地味にショックを受ける。何故だ。
「今日ご飯を作ってくれたのは?」
「王子様の身体に入るものですから、頑張って作りました。」
なるほど。私の身体は王子様(馬)になる為に大事にしてくれているというわけだ。そうですかそうですか!そうなんですか!!
複雑な心境だ。いや、もちろんいいんだけど。いいんだけど、馬の姿も人の姿も私なんだという自己主張が胸の中で騒いでる。
「そのーどういう関係になりたいの?」
「もちろん生涯添い遂げたいと思っていますよ。」
照れながら言うな。重っ。馬へのウェイトが重い。なんだ、女の子ってそんなにピンチを助けてくれたことを大事にしてくれるものなの?いや、サラだけか…特殊な性癖だし。まだ出会って間もなく、ほとんど会話も交わさぬ内に物凄い偏見と失礼な思いばかりが浮かぶ。
頭が痛くなったので、部屋へ逃げ帰ろうとしたが、ご飯のお礼だと今度馬の姿でデートすることを約束させられた。もちろん承諾するまで帰してくれなかっただけだ。私が恋を知ることはまだまだ先になりそう。
「はぁ。何だかえらい目にあったな。」
自室で独り言ちるのはエレノワースだ。何度も思うが短い時間で色々ありすぎた。心も身体も休ませたい。ベッドに体を深く沈める。
サラやルナのことは一旦後回しにして、今後、魔獣の出た理由が見つかればいいが、そうならなかった時またどこで出会うか分からない。レイア様の兄もまたいつ動き出すのか予想もつかない。このまま受動的に過ごすだけでいいのだろうか。防衛を繰り返していてはいつかは崩れる。攻撃は最大の防御と言われるように、こちらも何か考えなければと思う。頭はグルグル回っているものの疲れた脳みそでは問題があると理解するだけで精一杯だった。もうこれ以上は無理だと眠気に身を任せた。
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今日は休みが明けて学園に来ている。全員が無事だったおかげで騒ぎにはなっていたが、幸い大事には至っていない。引き続き調査はされるが学生は気にせずいつも通り過ごしなさいとの事だ。
「エレのん、なんか元気ない?」
お昼休み少し1人になろうと席を外したのだが、意外な人物に指摘されてしまった。彼女は噂好きのお喋りで、人の機微を気にするようなタイプには見えなかった。
「んー。ありがとう。なんか考えることが多くてさ。」
「似合わないね。」
「失礼だぞ。」
とは言うが、私自身そう思う。馬として生まれ過ごした時間の数年間は悩みなんて何も無かった。小さな世界に生きていたからだろうか。私が産まれる前の記憶の私はこんな風に悩んだことあるのだろうか。というかその記憶の事ですら悩んだことがない。流れに任せてここまで来たから問題解決能力が皆無なのだ。
「そうだよね。ごめん。悩むことぐらいあるよね。」
謝ってくれたが、実際初めて悩んでいるのだ。悩みがないと思われてもあながち間違いではない。
「全然。でもソフィアに気付かれるとはね。」
「あ!それって失礼じゃない?」
「あはは。ごめん。でも意外なんだよ。」
「噂好きのお喋り好きで、悩みなんてなさそう?」
そういう訳じゃないよ。と否定しようとしたが、「実際その通りよ!」と力強く言われて笑ってしまった。
「まぁでもお友達の頼みなら悩みくらい黙っててあげるわ。何かあったの?」
「それがさ、話したいんだけど自分でもよくわからないというか情報量が多くて容量オーバーというか。」
ふーん。と返事をするソフィアはこちらが本音なのか探っているようだが信じてくれたようでそっか。と納得したようだ。
「分からないでもないわ。そういう時は、一旦何も考えないのがベストよ。」
「そう?余計悪くならない?」
少し考える仕草をした後返事がやってくる。
「容量オーバーの頭になにか考えさせても無駄よ。そうでしょ?考えても結果なんか出ないんだから出来ることからすればいいじゃない。」
「そっか。」
「失敗したらまた出来ることからすればいい。そうやって少しずつ処理すれば、また容量内に収まるでしょう?そしたら最善策が見つかるはずよ。」
妙に腹落ちしてしまった。
「ソフィアってなんか良い奥さんになりそうだね。」
「えぇ?どういう事?褒めてる?」
微妙な顔をされたが、私としては本当に腑に落ちたのだ。ごちゃごちゃ考えるより行動なんて自分に合ってる。
「もちろん。私が男ならお嫁さんにしたいこと間違いなし!」
「何よ。褒めても何も出ないんだからね。あ、飴ならあげるわ。」
そう言って胸ポケットから取り出したオレンジ色の包み紙をカサっと開いて口の前まで持ってきてくれた。有難くいただく。いつもはセレンあたりにあげてるのかな。
「あ、オレンジじゃないんだ。」
「枇杷だよ。地元でよく採れるの。」
甘酸っぱい感じを予想していたのだが、ほんのり柔らかい甘さだった。今のソフィアみたいだ。もしかしたら元気で明るい彼女だけど、さらっと導いてくれる言葉の裏には色々あるのかもしれないなんて思った。
「あ、餌付けに成功したよってレイア様に報告しなきゃ。嫉妬されちゃうかもね?」
前言撤回だ。ただ、気持ちは軽くなった。まずは一つ一つ出来ることからと基本に帰ることにした。噛んでしまいがちな飴を傷付けないように舌で転がしつつ、ソフィアと教室に戻った。
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