第14話 壁にミミリン障子にメアリー。大事な話は筒抜け?

凶悪な魔獣が出た原因は何であったのか。人為的に仕組まれた、はたまた森に迷い込んだ偶然なのか。まだ何も掴めていない。


目撃者が生還出来た事で情報が入り、学園の教員や研究団体を派遣させたが、未だ明確な理由は分からないままだ。


その話は王宮にも入っていた。


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豪奢な造りの広間にある立派な椅子に腰掛ける男は嘆いている。


「レイアを学園に入れるのは失敗だったんじゃ…」


王様の情けない姿に、ため息をついた女王様が叱咤した。


「あの娘にはいずれ国を背負ってもらうのよ。あなたが甘やかしてどうするのよ。」


「分かっているさ。君みたいに逞しければ心配だって減るんだが。」


「あなたが決めたんじゃない。」


そうだ。第1王女でなく第2王女に王位を継承すると決めたのは他ならぬ王様だ。


「仕方ないじゃないか。あの娘しかいなかったんだ。」


「それならくよくよするんじゃないわよ。」


肩を小さくする王というのは不格好だ。それに比べて女王様の背はピシャリと伸びており貫禄が感じられる。


「だ、だいたい君が3人目の娘を隠したりしなければこうはならなかったんだぞ。」


「ふーん。またいなくなってもいいのね?」


ゴゴゴゴゴと地鳴りが聞こえそうな迫力に慄くも何とか持ちこたえている。


「君は女王様だ。そんな勝手が何度も許されるわけないだろう。」


「あら、あの時1人になってもいいって言ったのはあなたよ?それに催事の際は参加していたでしょう。片方が不在したときのためにお互いがいるのではないの?」


この話は分が悪い。王様は今日も折れるしかなかった。




2人は気付いていないが、このとき影から聞き耳を立てている者がいた。


影で話を聞いていた人物は二人に気付かれることなくいつの間にか姿を消していた。


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「あーーー。もうダメ。疲れた。」


日が照る中、黒髪を一つにまとめたエレノワースは魔法の訓練に勤しんでいた。


例の一件の後、一泊した一行は森から出て学園に戻ってきていた。混乱もあり学園は1日休みになったのだ。


魔獣に攻撃が通らなかったことが心底悔しく、こうして休みの中鍛錬している。


相手をしてくれたのは意外にもグレン・パーカーだった。長身でガタイも良く相手に不足はない。


「お前もよくやるな。今日ぐらい休めばいいのに。」


「ダメなんだよ。いざという時使えないんじゃ意味ないから。」


そうだ。レイア様に危機が及んだ時周りに誰もいなかったら自分がやるしかないのだ。


「変身魔法なんか使える癖に、基本的な魔法はどれも半端だよな。」


「だ、だよね。だから強くなりたいんだ。」


「俺が言うのもなんだがセンスはあると思うぞ。」


「ほんと?」


「あぁ。この前の最後の一撃、威力が凄まじかったからな。」


休憩中は分析なんかしながら昼過ぎまで付き合わせてしまった。


「サンキューグレン。休みに悪いね。」


「いや、俺もいい訓練になったよ。そういえば今日はあの王女様は?」


「レイア様なら今日は部屋にいるよ。」


なんだ?グレンもしかして…


「レイア様が気になるの?」


「ばか。ちげぇよ。」


違うらしい。堅物っぽいもんな。初めは寡黙な男だと思っていたが、ただの人見知りみたいだ。


「なんだ。つまんないの。」


「人を殺しそうな目で聞いてきたくせによく言うよ。」


「そ?まぁお腹すいたしご飯でも食べて解散しよ。」


「ごめん。俺ちょっと寄るとこあるから飯は1人で済ませてくれ。」


とのことで、用事がある堅物とはそこで解散した。ベタベタした身体を先に綺麗にしてくるかと1度寮に戻ることにする。



シャワーを浴びてサッパリすると、本格的に腹の虫が騒いできた。


いつかレイア様にもらった白いシンプルなシャツを着て、黒いパンツを履く。制服とは違いズボンだ。以前の記憶を辿ればもっとラフな格好をしていたのだが、こちらではそうもいかない。乾ききっていない髪を一つにまとめ部屋を後にする。


寮には共同スペースで使える調理室のようなものがあり、多くの学生が自炊しているそうだ。そこを使わせてもらおうと決め込み、まずは買い出しだと寮を出ようとした。しかし、目の前の人物によって用が済んでしまった。


「アレン様!アレン様も寮だったんですね。」


買い物から帰ってきたらしいサラに呼び止められて、ご飯をご馳走してくれる事になったのだ。実際買いに行くのも面倒なぐらい疲労していたので助かる。


「何か食べたいものはありますか?」


「うーーーーん。今ならなんでも美味しく食べられるよ。」


「そうですか。好き嫌いはありますか?」


「ないよ。なんでも平気。」


サラは上機嫌のようだ。この前レイア様のことで気まずい思いをさせてしまっただろうから良かった。2人も仲良くしてくれたらいいな。


「では腕によりをかけて準備しますからお待ちください。お腹空いてるでしょうから今日は簡単なものにしますけどね。」


そう言ってフワフワの髪を結んでお団子にしてる。エプロンを身につける姿は男ならグッとくること間違いないだろう。なんでこんな娘に気に入られてるんだろう。


背中を見つめながら、包丁の子気味いい音を聞いていたがそれが心地よくて机で眠ってしまっていた。


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声がする。優しい声だ。あの時もこんな声がしたようなしていないような。だめだ。やはり思い出せないし、核心に触れるようなことがあれば、またあの頭痛が襲うと思い無意識に避けた。


体を微かに揺すられる。


「んぁ、」


「こんな所で寝たら風邪ひいちゃいますよ。」


可愛い顔が目の前にある。


「っ。サラごめん!寝ちゃってた。」


「大丈夫ですよ。今出来たところです。食べられそうですか?」


優しい瞳に見つめられて、むず痒い気持ちになる。体感した時間だけで言えば精神年齢はフレアよりも上なはずなのに、ここ最近どうも子供扱いされることが多い。


微妙な時間のためか、室内には2人きりだ。暖かくて美味しい食事に感謝する。付け合わせのスープがじんわり腹を暖めた。美味しい美味しいと食べている姿をニコニコと見られてしまう。


「サラは食べないの?」


「ええ。私昼は外で頂いてきたので。」


「え!ごめん。面倒かけちゃった。」


「いえ、そんな!好きでしたことですから。」


優しい女の子だ。ひたすら優しいというのは周りにいないタイプなので新鮮だ。アルマには毒舌だったけど。


「どうしてこんなに良くしてくれるの?」


「あ、えっと昨日はいいそびれたのですが、私…」


あれ待てよ。サラが赤い顔で両手を豊満な胸の前に合わせている。また無意識にスイッチ踏み抜いたんじゃないの。この雰囲気…あの時と同じじゃないか。


「サ…」


「私、馬の姿のあなたに恋してしまったんです。」


「え?…えぇええええ!?」

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