第13話 嫉妬?嫉妬ファイヤーなんですか?

クラスで食事を終えたあと片付けをしようとしたが、エレノワースは本日の功労者だとサラや、ソフィア、アルマが率先して片付けをと申し出てくれたので有難くお願いすることにした。皆だって疲れているはずなのに有難い。



少し休もうかと食事をした場所から、すぐ近くに焚き火を見つけ近付く。

フレアがいたので隣に誘い、焚き火を囲うように配置されてるベンチに座った。


ふと、課題のことを思い出し石をポケットから取り出す。


「そういえば、これってなんなの?」


「あぁこれですね。お風呂豪華じゃありませんでした?」


「え、あぁ。確かに。お湯湧くんだねここ。」


「これを水の中に沈めると温めてくれるらしいです。湖から取り出して1年ぐらいで、ただの石ころに戻るから、こうして毎年の課題にして入れ替えてるらしいですよ。」


便利な石を集めるために便利に遣われたらしい。びしょびしょになること以外はそんなに大変じゃなかったから本当にただの交流が目的なのだろう。


「身体は平気ですか?」


「うん。平気。びっくりしたよ本当に。」


「あなたが皆を守ってくれたんですってね。」


そんなことはない。自分だけの力では全滅していた。2人で時間を稼ぎ、強力な魔法が当たり、負傷して担がれ治癒魔法で癒された。誰一人欠けても無傷では帰ってこられなかっただろう。


「ううん。むしろ守られたんだよ。」


「そう?ドーターさんに話を聞いたけれど、あなたの的確な判断がなければ帰れなかったと言っていたわよ。」


「サラは私を過大評価しているみたいなんだ。」


何が気にいられたのか分からないが、集合場所に来てから、やたら距離が近いのはそのせいだろう。何やら告白イベントみたいなのもあったし。未遂で終わったけど。


「そう?私はそうでもないと思いますよ。あなたの戦闘時における洞察力や決断力は優れていると思います。」


「フレアまで。結局無茶苦茶やって周りに助けられただけだよ。」


フレアまでそんな風に思っているのか。これは皆の認識にかなり誤解がありそうな気もするが、褒められるのは悪くないなと楽観視する。


「レイア様心配していたんですよ。」


「…そうだね。」


私が起きるまで、ずっとあぁしてくれていたのだろうか。学園に来て鈍っているがレイア様は国の第2王女だ。女王を継承するのは第1王女とは世間的にはなっているが、学生が終わる頃には正式にレイア様が成り代わるだろう。


彼女は学園に来てすぐ、第2王女と呼ぶことや贔屓は辞めて欲しいと話していた。しかし、Aクラスは貴賓変人とまではいかなくても変わってる人が多いようなので、そんな心配は杞憂に終わっていた。彼女は気品や考えこそ王位のそれだが、それを振りかざしたりすることは1度もなかった。美しい女性だ。最近になって年相応な表情豊かな一面を見せてくれるのが嬉しい。


「レイア様のことちゃんと見ていてあげてくださいね。」


「フレアまで母さんと同じようなこと言うんだね。」


おかしくて少し笑ってしまった。


「私はお母さんじゃありません。」


強めに否定してくるが怒ってはいないみたいだ。私はレイア様とフレアに怒られる確率が圧倒的に高い。


「分かってる。私に姉妹はいないけど、姉さんがいたら、こんな感じかなとは思うけどさ。」


「あなたみたいな妹は欲しくありませんね。」


ツンと返されてしまった。


「えー冷たいよ。」


「ふふ。妹というよりペットがいいところでしょうか?」


頭を軽く撫でられた。フレアはたまにこうして撫でてくれる。試験の勉強をしていた時もこうしてくれたよね。


「さぁ、あなたは何か気になってることがあるみたいですが、まずはレイア様を構ってあげてください。」


「え?」


耳元で小さく告げられ、後ろに人の気配を感じ振り返るとレイア様が近くまで来ていた。


「フレアに呼ばれたのだけれど…」


「レイア様申し訳ありません。用事は済みました。その代わりエレノワースが話があるようなので聞いてあげてください。」


それと学園で過ごす間は先生と呼ぶようにと、また注意をしつつその場を離れて行く。その代わりにレイア様が隣に座った。


「話があるの?」


「え?あぁいや、話って程じゃないんだけど、チームが別れたからあまり一緒にいられなかったでしょ?その間どうしていたのかなって」


あれはフレアのでまかせだ。慌てて選んだ話題にしては良いチョイスだと自画自賛する。


「そうね。石を探すのには苦労しなかったわ。ソフィアの出身地では、あの石で湯浴みをしていたらしくてね。魔法もかけずにセレンと飛び込んでいって、あっという間に終わっちゃったわよ。」


その時のことを思い出したのかクスクス笑っている。

無邪気な2人を楽しげに見守るレイア様が想像出来た。


「あなたはどうだったの?」


「大変だったよ。ルナがスタート地点で行かないとか言い出してさ、なかなかスタート出来ないし、石の場所知ってるくせに読書に夢中で教えてくれなくて、2時間ぐらい彷徨ったよ。」


こちらも思い出し笑いしてしまう。


「そう大変だったのね。」


「帰りはあんな目にも合うしね。」


「今日はよく頑張ったわね。」


「ふふ。ありがとう。」


エレノワースの髪をレイアの細い指が梳いた。


「あなたの髪綺麗ね。」


「レイア様には負けるよ。」


「私は手入れしているもの。」


そう言いながら、艶のある黒髪を一房手に取ると香りを嗅ぐように口付けされる。


「レ、レイア様!?」


突然のことにドクンと心臓が鳴った。


「おまじないよ。あなたに何時どんな時でも加護があるようにね。」


なんだおまじないか。すごく驚いた。でもレイア様からの加護なんてかなり効力ありそうだ。なんて考えていると、レイア様が深刻そうな顔をしている。


「エル…ワードゲートさんが気になるの?」


いきなり核心を突いた質問だ。実際ルナと出会ってからというもの何かと振り回されている。


「そうだね。気になってるかも…。」


「…そう。」


「うん。私は友達になりたいと思ってるんだけどね。拒否されちゃってさ。」


「あ、そうなの?そうよね。友達ね。友達。しかもこれからなる予定のね。」


納得しているのかしていないのか、レイア様は変な反応だ。妙にソワソワしている。


「本当に友達?」


「え?どういう意味?」


それ以外何も無いだろう。とは思うが、あまりにも深刻な顔で聞いてくるので、そうだよ。と、もう一度返した。するとふわりとこの場が明るくなる様な、いい笑顔のレイア様に僅かに脈拍が上がるような感覚がした。


「あ、ドーターさんはどうなの??」


笑顔から一瞬にして真顔に戻るので嫌な意味でまた心拍数が上がる。


「サラ?話したのは今日が初めてだよ。なんか妙に懐かれてるみたいだけど。」


「そうよね。後を着いてくるペットみたいなものよね。」


「そこまで言ってないけど…。」


私の返答を聞いて満足したのか、少し前から元気がなかったレイア様は憑き物が取れたみたいに雰囲気が軽くなった。


「嫉妬?」


「はぁ!?」


「いや、だから友達が取られちゃうって嫉妬してたのかなって」


私もだけど、レイア様も友人は私だけのはず。いきなり沢山の人と交流を持つようになった私に不安になったのでは?と仮説を立ててみる。するとあら不思議、怒ったり落ち込んだりしてたレイア様の奇行が分かる気がした。社交の場では発揮出来るお堅いコミュニケーションも、同世代と仲良くするという意味ではあまり意味をなさなかったのだろう。


「たしかに。そうね。家族みたいなあなたを取られるのが嫌だったのかも。」


「いつだって1番はレイア様だよ。」


安心してもらう意味も含めて告げる。ただ、反応は思わしくない。


「本当かしら?いつか居なくなってしまうんじゃないかって思うことがあるのよ。魔獣のこともあったし尚更ね。」


「居なくならないよ。死んだりもしない。約束する。だいたい実家はレイア様の家の馬小屋だからね。離れようがないよ。」


笑って告げると、二人の間に置いていた手に手を重ねられる。


「本当ね?私信じるわよ。いなくなったら許さない。」


「うん。信じてくれていいよ。何度だって確認し合おう。」


ここ最近不安定なレイア様。むしろ自分にはこういう姿を見せてくれるようになったのだから出来ることなら何でもしてあげたい。


ルナのことは気になるが、今日のところはレイア様と共にいよう。

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