第12話 クラス集合。若干1名欠席。
「私の中にあまり踏み込まないで」
ガツンと鈍器で殴られた気分だ。せっかく仲良くなれたのにどうして。
「なんで?」
「あなたは嫌いじゃない。」
「それなら…」
「お願い。」
有無を言わせない。みたいな強さが彼女にはあった。視線はまっすぐこちらを見据えている。
「理由を聞いても?」
「言えない。」
「そっか。」
理由は分からない。分からないし教えてくれない。溶けかけの氷は一瞬にしてまた凍てついてしまう。それでも、と逸らしそうになった視線を赤い瞳に合わせ、両肩を掴む。
「理由はもう無理に聞かない。でも私は諦めないよ。困ってるなら力になるから。」
検討外れかもしれない。本当に人と関わるのが嫌なのかもしれない。でも、物怖じせず歯に衣着せぬ彼女が言えない理由だ。何かあるのかもしれない。
「だめ。」
「嫌だ。」
「…。もう今日は1人になりたい。」
「分かった。疲れてるのにごめん。でも諦めないから。」
俯いた彼女はもう返事をくれる様子はなかったので、大人しく下がることにした。
外に出て、深呼吸をする。肺に冷たい空気が入った。夜はまだ冷える。ルナのことも気にかかるが焦っても仕方ない。ゆっくりでいいだろう。この集合地お風呂があるようで色々と洗い流すべく、支給のタオルを受け取った。
「アレン様」
「サラ。アレン様はやめてって」
途中でサラに声をかけられた。呼ばれ慣れないうえにそんな畏まった呼び方気恥ずかしい。抗議するもやっぱりやめてくれない。
「なんでアレン様?」
「王子様だからです。」
歩きながら話していた彼女がピタリと止まった。合わせてこちらも止まる。
「?」
「魔物から守ってくれたお姿とても勇ましかったです。私…その、いつか素敵な王子様と…」
モジモジしてる。既視感がある。ほら、恋愛シミュレーションゲームのヒロインみたいなさ。そういえばサラって瞳は紫陽花みたいな品のある色で、顔立ちは清楚な美人で、胸が…豊満ですね。男性にモテそうなタイプだ。というよりこの既視感の正体は告白シーンなんだよ。いや…待てよ?告白?誰に?私か?
「エル…!」
「ひゃい!」
怒気を孕んだ声はもちろんあの方からだ。
笑顔なのに青筋が見える。
「「レイア様」」
サラとハモる。
「エル、ドーターさんこんな所で何していらっしゃるのかしら?」
ドーターさんはサラの事だ。サラ・ドーター。
レイア様のこんな笑顔は初めて見た。学園に来て表情が豊かになっている気がするなんて感心してる場合ではない。
「お風呂に行こうとしていただけだよ。」
「そ、そうですよ!」
何もしていないのに、何かを取り繕うように話してしまう。
「そう。なら私も一緒だから、行きましょう。」
「あ、あぁ!そうしよう。」
会話もそこそこに風呂場へ向かう。森の中には不自然に立派な施設だ。男女で別れており竹のような材質の木材で仕切られていた。中には広めの浴槽がある。10人ほど同時に入れるのではないだろうか。
身体を洗い、湯船に浸かる。芯から温まるはずが先程のことがあり変な空気だ。
「…あのさぁ、2人はルナと話したことある?もしくは何か知ってることない?」
気まずい空気を脱すべく、あと自分が単純に気になったのもあり話題に出してみる。
「昼食を一緒にしたのが最後よ。特に知ってることはないわね。」
「そうですね。私も挨拶をしたぐらいでしょうか?」
シーン。終わりか。これにて終了か。もちろん出会って間もないのだ。仕方ないとも言えるが、無性にソフィアがここにいてくれたらなんて思った。
「あ、でもそうですね。旧家のお嬢様で何か訳ありみたいですよ。」
気まずい空気を察したのか、サラから助け舟が入った。旧家のお嬢様というのはソフィアから聞いた情報だ。ただ訳ありというのは初めて聞いた。人嫌いと何か関係あるのだろうか。
「訳ありって?」
「そこまでは…お役に立てず申し訳ありません。」
「ううん。教えてくれてありがとう。」
その後は何となく会話らしい会話もでき、なんとか雰囲気を持ち直すことが出来た。
これから楽しみにしていた食事だ。Aクラスの分はサラとソフィア、セレンが準備してくれた。
席に着く。なんだか色んなことが短すぎる時間にギュッと詰まったせいであっという間に距離が縮まった気がする。レイア様とサラに挟まれて座りルナは向かいの端の方にいた。
「みんな酷いよ〜。俺の事心配全然してくれないじゃーん」
「アレン様に守られて気絶していただけじゃないですか。」
アルマの言葉にサラが容赦なく返す。意外と毒舌なのかな。一緒に時間を稼いでくれたグレンはクスリと笑っていた。
「結構強く飛ばしちゃったよね?大丈夫だった?」
一時は殴ってやろうなんて思っていたが、実際アルマも悪いわけじゃないし、吹っ飛んで気絶した時は少し焦った。それにここまで背負ってくれたのは彼だと聞いていた。
「あはは。むしろ助けられたよ。こんな可憐な女の子に助けられるとはね。帰りは背を使ってくれてラッキーだったよ。」
こいつ…。フレアだけでなくチームが決まった時はサラを口説いていたし、私にも軽口叩いてくるし誰でも良いってか。やっぱり殴ろうそうしようと思ったが微笑ましい会話にそんな気持ちも霧散することになる。
「セレン美味しい?」
「あぁ!美味いぞ!ありがとな!!」
ソファアの問いかけに元気よく答えるセレンは犬そのものだ。しっぽが見えてきそうである。
なんだかんだ和気あいあいと食事も進む中、どうしてもルナが気になった。やはり食べ終えた後すぐ席を立ってしまった。つい目で追ってしまう。その様子をレイアが不安そうに見ているとも知らずに。
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