第11話 ほっと一息。つけるのかしら。

あのあとフレアがテントまで来て、謝罪された。先生たちがあれだけ同行しながら助けられなかったことをだ。本来はこの一帯にあんなに凶悪な魔物は例がなかったようだ。もちろん誰も悪くない。あれは事故で、全員助かったのだからそれでいいだろう。


「集合した生徒の疲労の状態から森を出るのは危険と判断して、予定通り今日はここに泊まることになるけど構わないですか?」


「もちろん。というか先生がこれだけいればむしろ安心だよ。せっかくなんだし楽しもう。」


こちらの言葉にフレアはあまりいい顔をしなかった。結構落ち込んでいるみたいだ。レイア様を守れればそれでいいだろうに、ちゃんと教師してるんだ。


「ふーん。フレアもそんな顔するんだ。レイア様が無事なんだし問題ないよ。」


「馬鹿ですね。」


氷漬けにするような瞳を向けられる。ぞわりとした。先程の魔物より怖いかもしれないなんて言ったら首から上が消し飛ぶかもしれない。隣にいるレイア様も少し恐怖してるみたいだ。


「あなただってレイア様と同じように大切なんです。」


「あ…」


間抜けな顔をしてしまった。そっか同じように思ってくれていたんだと、少し嬉しく思う。それと同時にそんなことも分からない自分を反省した。


「ごめんね。フレア。」


「もういいです。次は気をつけてください。それとここでは先生と呼んでください。」


最後まで注意しながらフレアはレイア様にも用があるようで共にテントから出た。


体も回復し他の人の様子が気になったので私もテントを後にする。


「あーいい香りがする。」


テントを出るといい香りがした。思うまま吸い寄せられる。香りの方向にはソフィアにサラ、セレンもいた。


「起きたんですね!アレン様」


明らかにこちらに話しかけてるよなと一瞬思考停止する。少し間があって、あぁ私のことだと返事をした。


「エレノワースでいいよ。あまり慣れてないんだそれ。」


エレノワース・アレン。入学する前、戸籍を作る為に用意してくれた名前だ。呼ばれ慣れない為反応にものすごく遅れてしまう。


「そんな恐れ多いです。」


ふわふわピンクの髪が特徴のサラは、アレン様と呼ぶんだときかない。まぁ慣れておいた方がいいかとそのままにすることにした。様も取らないらしい。そういう子かな。


「命を助けて下さりありがとうございました。」


「いやいや逆だよ。むしろ腕と足治してくれたんでしょ。本当にありがとう。」


サラの肩に手を置いてエレノワースが微笑みかけると、サラの頬がぶわぁと音がつきそうなほど赤くなった。


「エレのん、サラちゃん口説いてるのレイア様に言いつけちゃうぞー!」


ニヤニヤしているのはソフィアだ。お喋り好きの彼女は今回の班でさらにレイア様と仲を深めたらしく訳知り顔である。


「な、別にお礼しただけだよ。それに私は女だ。口説くも何もないよ。」


「私はアレン様なら…」


「は!?サラ何言ってんの?喋ったの初めてだよね!?」


「あれあれ〜!これは本当に報告した方がいいかなぁ?」


わちゃわちゃやってる横で、セレンはいい香りのする鍋を、今か今かと見ているだけで特に話には入ってこなかった。


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まだご飯には時間がかかるとのことで、まだ眠っているらしいがルナの様子を見に行く。正直あのときは咄嗟に飛び出てしまったが、ルナの力がなければ今頃犬死していた。馬のくせにだ。一刻も早く様子を見に行きたかったが、勝手をした手前、正直気まずいのもあった。


そろりとテントに入ろうとする。


「入る前に声掛けて。」


「ひぇ」


「変な声出さないでよ。」


入る前に2度も怒られた。入っていい?と聞いて了承を得てから失礼する。


「ルナごめん。」


「ワードゲート…」


「それは嫌。」


「…もうなんでもいい。」


心の中でガッツポーズする。やっと呼ばせてもらえる。諦めない気持ちって大事だよね。


「それと何がごめんなの?」


「ルナが止めたのに、無視して走った。」


「いいわ。」


「いいの?」


正座していつ怒鳴られてもいいように食いしばっていたが、あっさり許されてしまうエレノワース。拍子抜けだ。布を膝にかけて座っているルナの方は相変わらず表情が乏しく言葉以上のことは分からない。


「…ありがとう。あなたのお陰で助かったわ。」


「え?いやいやいやいやいやルナがいなきゃ死んでたよ。」


「それでも判断して動いたのはあなた。最初に守ったのも、詠唱の時間を稼いだのもね。」


「そんな」


「最後だって…」


そう言いながら、エレノワースの正座の上に置いてある右の手を取られる。大事そうに両手で抱えられ手の甲をさすられた。


「ル、ルナさん?」


かと思えば、ぱっと離された。いきなりのスキンシップに驚き戸惑うも、少しは心を許してくれたのかなと思い舞い上がりそうになる。


「…ありがとう。私は大丈夫だから気にしないで行きなさい。」


「うん。ルナありがとう。」


離された手は熱くなっている。ポカポカして暖かい。今日は少し仲良くなれただけで我慢しようと思う。


「ねぇ。」


呼び止められ外に行こうとしたエレノワースが振り返る。ルナの表情はやはり読めない。


「どうしたの?」


表情が変わらぬまま告げられる。



「私の中にあまり踏み込まないで。」


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