第9話 課外授業はあの子とペア

学園2日目の朝はレイア様の機嫌がやけに良かった。軽く朝食を摂ってから、学園に向かう。


寮なので目と鼻の先に目的地はある。正門前でピンクの髪の女の子に挨拶をされたので、同じように返し中に入った。あ、今の子も同じクラスだ。他のクラスと違い人数が少ないせいで見掛けると、すぐに分かる。ただ名前が思い出せない。また後でいいかと思いそのまま教室へ向かった。


「レイア様さっきのピンク色の髪の子名前覚えてる?」


「あぁ見ていなかったわ。ごめんなさい。」


どうやらレイア様は他に気が向いていたようで、挨拶を返した癖に覚えてすらいないみたいだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「交流を深めるための一環として年の初めは1泊2日の郊外授業です。魔法を使う機会もあるからクラスの人がどんな力を使えるのか、その中で把握しておきなさい。」


「え!フレアちゃんと一緒に眠れるんですか!?」


「就寝時は男女別です。それとアルマ・アーリアさん、フレアではなく先生と呼びなさい。」


アルマ・アーリアと呼ばれたオレンジ頭はまたフレアにちょっかいを出している。注意されてもなお反省した様子がないので雷(物理)を落とされていた。「ぴげぇ」と奇声をあげたあと、しばらく動かなくなったようだ。


一連の流れを気にすることなく(ふーん。郊外授業か。座学より楽しそう)だなんて、フレアの説明を聞きながら考えていた私は痛い目に合うことになる。



今年は森に籠るらしい。サバイバルすぎるよ。1泊2日だ。ここでの時間が進むほどに前世の記憶が曖昧になるのだが、学生の時にこんなハードな課外授業はなかったと思う。


「夜はクラスで合流するけど、日中は課題があるから3人1組で動いてもらうわ。ゾーン・シーダさんが今日も休みだから1組は2人でね。」


チームはシンプルにあみだくじで決まった。


Aチーム・レイア、セレン、ソフィア

Bチーム・グレン、サラ、アルマ

Cチーム・ルナ、エレノワース


Aは良いチームに見える。レイア様の高度な魔法に、ソフィアのコミュ力がある。セレンも食べ物にしか興味無さそうだしレイア様には無害そうだ。


Bは知らないメンバーばかりだ。アルマはフレアに鼻の下を伸ばして、雷を落とされたオレンジ頭。あのピンクの髪の子はサラっていうんだった。確か治癒魔法が使えたはず、なんて朧気な記憶を引っ張り出す。3人目のグレンについては全く情報がない。自己紹介の時も、名前だけ言ってさっさと座っていた。このチームはサラが苦労しそうだ。


Cは、私とルナだ。


…嫌われてる。凄く嫌われてる。昨日だって、席が空いていないから仕方なく座っただけで食べ終わった瞬間に帰ってたもんね…。

というより、寮に帰る時にレイア様に言われたのだ。


「あなたあの子に嫌われてるの?」


って。全然気付かなかった。激しめの人見知りなんだと思っていた。食事中だって誰とも話していなかった。


だが、そう言われて気付いたのだ。親切でやったつもりが裏目に出ることもあるのだと。ルナに嫌われていると思うと少し寂しいが、この1日で仲良くなればいいじゃないかとポジティブに考えることで現実逃避した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「私行かないわよ。」


他のチームが森に入っていく中、開始早々白髪赤目のちびっ子に宣言されるエレノワース。涙目だ。


「そんなに嫌ですか?」


馬の癖に打たれ弱いようだ。第2王女にすら敬語を使わない人物が白髪少女に気を使っている。エレノワースの心境は綺麗な白い髪と同じく揺れるのに、その髪の持ち主は頑としている。


「言う必要ないでしょ?」


冷たい。産まれてこの方こんなに冷たくされたことは無かった。そもそもそんなに色んな人と話したことはないが、レイア様や、ハーデン、母もなんだかんだ優しかったのだ。ぬくぬくと育ったエレノワースには辛いだろう。


Aクラス以外の他のクラスのチームにもどんどん遅れをとっている。先生たちもほとんど森の中に入ってしまった。課題ってなんだっけ。ショックで気が遠くなる。


「嫌われるようなことしたかな?持ち上げたのが嫌だった?本当にごめんね。」


ご飯をつまみ食いしたあの日や、レイア様のスカートを捲って怒られたいつかの日よりもずっと真剣に謝る姿は少し不憫だ。


「…何勘違いしてるの。嫌いなのはあなたじゃない。」


ルナは一瞬キョトンとした後、言葉少なに否定した。その瞬間言葉の意味を理解するのに謎の時間がかかった後、内心物凄く安堵する。身体にもそれが伝わりついしゃがみこんだ。


「じゃ何が嫌なの?」


「笑ったらまた頭突き」


「絶対笑わないから。絶対に。絶対!」


「怪しいわ。いいけど。…人と関わるの苦手なの。」


絶対だからと念押しされた一言に笑いは起きなかった。


「え?見たまんまじゃん。」


おでこが腫れたのは言うまでもない。機嫌を直すのに時間はかかったものの、歩きたくないと言うルナにエレノワースが馬になり、それにルナが乗るということでやっとスタートすることが出来た。


「あなたよく鞍なんて持ってたわね。」


「えへへ。もしかしたら誰か乗るかなって。」


「変な人。」


変身魔法は珍しいらしいが、馬になってもクールなルナはあまり驚かない。道中もルナは必要以上に話さなかった。それでも嫌われていないと分かっただけで、全然違う気持ちだ。気をつけるのは馴れ馴れしくしないこと、あまり触れないことだ。


「課題の目的地ってこの辺りだよね?」


「そうね。一旦降ろして。」


大人しく降ろす。彼女の華奢な身体は軽くて本当に乗っていたのか怪しいくらい。


この辺りにある光る石を持っいくんだっけ。光る石なんて何に使うんだか。ただ、光るようならすぐ見つかるだろう。早々に終わらせてしまおう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


見つからない。何時間経った?1時間か?2時間くらいか?ルナは開始早々読書始めちゃうし、私は闇雲に探すしかなかった。汗が滲む。そこまで暑くはないとはいえ、これだけ動けば汗もかく。


「ルナ」


「…」


「ルーナー」


「…」


「ルナ・ワードゲートさん!!!」


「…何よ。」


呼び続けた甲斐あって、やっと視線をくれた。太陽が照り付ける中涼しそうな木陰に向かって話しかける。


「手伝おうとかないの?」


「ないわね。」


「一緒に探そうよー。」


「動かなくていいと言ったわ。」


まあそうなんだけどさ。機嫌直したくて何もしなくていいとは言ったけどさ。あるじゃん。頑張ってるし、ちょっと手伝おうかなとかさ。とかさ。…ないか。


諦めて方向性を変えることにする。


「じゃあヒントとかない?」


「水の底じゃない?」


「知ってたの!?」


「聞かなかったじゃない。」


いや絶対うそだ。ちょっと目逸らしたよね?私の存在忘れて本読んでたからだよね?


ここで喧嘩しても仕方ない。近くの湖に入るため服を脱ぐ。上着に手をかけ、近くの小さな木にかける。シャツやスカートも同じようにだ。


「ちょっと。あなた何脱いでるのよ。」


声に、抑揚はないが戸惑っている表情だ。光る石をさっさと見つけて合流したいので下着にも手をかけようとする。


「ばか!それ以上はやめなさい!」


本気で怒られてしまった。言われるまで、裸になることにあまり抵抗がなかった自分が怖い。


「じゃあルナはここで待っててね。」


「言われなくても」


ルナにお願いして魔法をかけてもらう。頭を風の魔法と水の魔法で覆ってもらったのだ。風の1層で空気を作り、それを水中で侵食されないように魔法をかけた水で覆うって感じのイメージだ。水中で10分ぐらい持つらしい。凄いね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ルナ!石見つけたよ」


水面に上がると同時に声をあげるが反応はない。視線を動かしてもルナの姿はなく、また本でも読んでいるのかと考える。

石は10分経つ前に見つけることができた。「1日目の課題は簡単」の言葉通りすぐに終わった。本当に交流のための一環のようだ。ルナが教えてくれていれば直ぐに終わったのになんて思いながら水中から出る。


「ルナー!戻ったよー!」


下着姿のまま彷徨く。先程までいた木陰を探しても彼女はいない。このままでは埒が明かないので、濡髪を一つにまとめ制服に着替えた。石をポケットに、鞍を片手にルナ探索に戻る。


耳は良いが、流石に森の中では色んな音がしていて判断が難しい。一旦合流しようかとも思うがルナが心配だ。


置いて行ったというよりは、置いていかざるを得なかった。と考える方がいいだろう。え?いや、まさか置いていってないよね?嫌いじゃないって言ってたよね…。そんなことを考えても仕方がないと切り替える。置いていかれたなら行かれたで構わない。彼女の無事が優先だ。


王宮周辺の安全な環境とは違い、ここは魔物も出るらしい。といっても見たことはないのだが、学園試験前の勉強をしている時にフレアに教えられた。


(もし、ルナが襲われていたら…)


クラスにルナの行方が分からなくなったことを伝える手段もなく、エレノワースは手がかりを探すためにもう一度ルナがいた木陰を探すことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る