第8話 乙女の部屋に忍び込むなんて許さん。

食事を終えて、寮に帰ると片付けに追われ一日はあっという間に終わりに近づく。


寮の中もあまり知らぬまま、シャワーを浴びて人心地着いた。レイア様を守るためとはいっても部屋は別だ。私は睡眠が浅いからその方が助かる。それに何かあれば部屋は隣だ。直ぐに駆けつけられる。


ベッドに腰掛けるとウトウトした。昨日の疲れがまだ完全に取れてないなと思いながら、もう眠ってしまいそう。


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レイアの部屋には備え付けのベッドや家具以外にほとんど物はなかった。目立ったのは読み物だけである。今日はエレノワース同様疲れたのか早めに休もうとしているようだ。


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深夜2時。扉の前に人が立っていた。レイアの部屋の前である。


「何してるの?」


その人物は突然の声を掛けられた事に驚いた様子で振り返ると、そこにはエレノワースが立っていた。


いつ気付かれた?と驚いたのか目を見開いている。


「なぜ気付かれた、と思った?」


音だ。僅かな音。草食動物は気配に敏感だ。獰猛な動物にやられないよう生きるのに必死なのだ。隣の部屋に人が立っているぐらいの音容易に聞き分けられる。床を踏むキィなんて高い音が聞こえれば尚更だ。


この前の盗賊の事件もあり、いつ危機が迫るか分からない状況だ。レイア様が1人になるような時は一応警戒しようと決めていた。


目の前にいる怪しい人物の口元は布で覆われており確りと表情は読み取れない。


「邪魔はするな。」


「そっちこそ女の子の睡眠を邪魔するのは良くないんじゃない?」


「邪魔しなければお前には何もしない。」


「この部屋の子に何かされるぐらいなら邪魔させてもらうよ。」


話が通じないと決め込んだのか、こちらにじわりと近付いてきた。


虚勢を張ったが、戦闘は昨日が初めてだ。決して慣れているわけじゃない。息を飲む。


もうあと僅かで始まるかと思ったその時、後ろから人の気配がして、「誰かいるの?」と声がした。一瞬振り返ったもののすぐさま視線を怪しいやつに戻すと、もう目の前からいなくなっていた。


慌てて、隠れる為に目の前にあるレイア様の部屋の扉を開けて中に入った。カギが開いてることにエレノワースはすぐには気付かない。


部屋に入ると、人とぶつかり声を出しそうになったが手で口元を押えられる。


「へいあはま?」


声にならぬ声でレイア様か聞くと、「静かにして」と言われ黙る。暫くそのままでいると注意するためだろうか、声をかけてきた人物の気配はなくなった。レイア様にも何も無かったようで一息付く。


「気付いてたの?」


「話し声が聞こえて起きたのよ。」


どうやらレイア様も気は張っていたらしい。

中に入りどんな人物だったとか人数は1人であることを伝えたが、やはり身に覚えのない人物のようだ。


「何者か分からないけれど、兄の仕業であることは間違いないわ。」


確信があるようだ。今までも何度もあったのだろうか。


「王宮にいるうちは身元が割れている者しかいなかったから、下手に手は出してこなかったのよ。きっと学園に入ればこうなる気はしていたわ。」


「それならなんで?王宮に残る道もあったんじゃない?」


月光の光に照らされたレイア様は素敵な笑みを浮かべている。


「そんなものに怯えていては国は引っ張れない。王宮に閉じこもっていては世界は広がらないわ。」


だからこれでいいのよ。って今度は自嘲的な表情で言われ、私はあの時のようになんと答えたらいいのか分からず沈黙した。


「でも死ぬのは困るの。だからあなたを危険な目に合わせるかもしれないけど、また力を貸してくれるかしら?」


「何度だって貸すよ。」


力強く答える。母の言っていたことが少し分かった気がした。普段は気にした様子も見せないけれど、本当は張り詰めているのかもしれない。


「今日は一緒に寝る?」


「…いいの?あまり眠れないんじゃ」


「元々眠りが浅いだけ。邪魔なら戻るけど。」


背を翻そうとすると、裾を僅かに握られた。


「お願いするわ。」


レイア様は月明かりを背にしているせいで、表情は見えないけれど少し上擦った声が緊張を伝えた。


さっきはあんなに自信に満ち溢れていたのに、やはり我慢してるんだなと思った。王宮から出る時女王様にも抱きついていたっけ。


隣に並ぶといい香りがした。シャンプーなのかな。不思議とよく眠れそうだ。


「エル。ありがとう。」


15分ぐらいしてからだろうか、動かない私に眠ったと思ったのか、小さく小さく感謝の言葉が聞こえた。聞こえないように言ったつもりなのかもしれないけど、私には聞こえる。


なんとなく答えてはいけない気がして、寝たふりを続けて2分ほど経った時レイア様の距離が近くなった。仰向けで寝ていたのだが、お腹の辺りに横向きになったレイア様の手が回される。しばらくして私の腕に頭が乗った。腕枕じゃん。前世ではしたこともされたこともないんだが。


初めての腕枕が、する方になるとはと思いながら暖かいのがなんだか気持ちよくて抱き寄せて眠りについた。

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