第2章 入学
第7話 学園生活はいい感じ?馬だから人見知りしないわ。
ついに学園に到着した。
途中1泊せずに進んだので、予定より5時間も早く着いてしまった。
しかし、例年こういったことは珍しくないのか寮の警備員に声をかけられ学生証から生徒であることが分かると中に通された。第2王女ということもあり馬車の紋章から身分が分かりやすかったこともある。着く手前でレイア様が「もういいわ」と離れて待機していた従者を解散させた為、到着時に従者や運転者がいないことに酷く驚かれたし叱られた。それもレイア様も一緒にだ。あまり怒られたことがないのか変な顔をしていた。
その日は疲れ果て、荷物を部屋に運ぶのは寮の職員にお願いして簡易ベッドで休むことになった。
明日はいよいよ入学式である。
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そういえば、試験をどうしたのかのというとレイア様たちと時を同じくして私も入学試験を受けていた。座学も魔法もそこそこで心配だったが、体術を風の魔法でブーストして扱えることと、人から馬になる変身魔法が、高く評価されたようだ。実際は逆な上にレイア様の力が大きいことは伏せてある。ちなみにフレアが一緒に来ているのは先生として学園に務めるためだ。寮は私たちとは違う。これも第2王女を危険な目から守るために少しでも信頼出来る人を近くに置いておくためということだった。
ぼーっと物思いに耽けていると、無機質な挨拶が聞こえ入学式中か、なんてふやけた思考で壇上の方に目を向ける。
新入生代表は当然レイア様だと思っていたが、壇上に立っていたのは別の生徒だった。
無表情で淡々と話す姿は、壇上に立つことすら億劫に感じているように見える。白い髪に隠れる瞳は僅かに赤く光を帯びていた。彼女が視線を動かした時、目が合った気がしたが人が大勢いるのだから気のせいだと1人納得する。
無気力そうな彼女はルナ・ワードゲートという名前らしい。何でも旧家のお嬢様なんだとか。情報は左隣に座っていたお喋り好きで同じクラスらしい茶髪の女子生徒からだ。
右隣にいるレイア様はかなり悔しそうにしていた。普段はそんな素振り見せないだけにかなり自信があったのだろう。努力家の彼女だ。きっと、より一層励むようになる。
入学式も終わり、それぞれのクラスに移動する。魔法のレベルごとにクラスが分けられており、レイア様が配属されたAクラスの一つ下Bクラスになりそうだった。しかし、変身魔法のことがあり本当にギリギリでAクラス所属になった。チートのようなものだ。バレる前にせいぜい腕を上げなくてはいけない。
担任は仕組まれているのだろうか?今朝まで特別に同じフロアで休んでいたフレアだった。
男子生徒は名簿には4人いたが、フレアを見た途端にオレンジ頭が浮き足立っているのが私の席からもよく見えた。
「このクラスで担任を務めるフレアです。魔法の授業を担当しますが、それ以外は選択授業ですのであまり一緒に過ごすことはないでしょう。何か困ったら声をかけてください。」
ちゃちゃを入れてくるオレンジボーイを無視して、簡単すぎるフレアの自己紹介も終わり今度は生徒の番だ。Aクラスは男子生徒4人、女子生徒5人で合わせて9人いるが、半期ごとに試験があり1年に1度前期後期の試験結果によってはBに下がったり、Bクラスの人がAに上がったりするらしい。ヒヤヒヤしますね。
そんな事を考えていたら1番手のレイア様の自己紹介の番が終わりそうだった。さすが第2王女というか声の使い方や振る舞いが他とは違っていた。
そのあと自分も含め8人の自己紹介を終えたが正直覚えていられなかった。しかも体調不良で男子生徒が1人休んでいた。
初日から不運なやつだ。
唯一覚えられたのは、朝生徒代表挨拶をしていた秀才のルナ・ワードゲートと、隣に座っていたお喋りおさげソフィア・ガードマンだ。
まぁ無理に覚えずとも1年間は同じクラスなのだ直に覚えるだろう。
名前までは覚えられなかったけど、顔や雰囲気は記憶できた。結構濃いメンバーな気もするが、人の姿になって初めてこれだけの人と関わるのだ。楽しくなりそうである。
挨拶が終わり、フレアとは別に控えていた職員らしき人から選択授業について等々学園の説明が終わると早々に解散になった。
フレアはまだ仕事があるようだ。レイア様と説明で聞いていた学食に行くことにする。
なかなか美味しいという評判を聞いたそこは綺麗な施設だった。その情報を教えてくれた人を見つけたので声をかけてみる。
「ソフィア。ここは何がおすすめ?」
「あー!エレのん!!私に聞くとはわかってるね。今日はビーフシチューが当たりだよ!」
なにやら変な呼び方をされたが気にしない。
エレノワースってやっぱり呼びにくいのかな。フレア以外にはあんまり呼ばれたことないかもしれない。
「よかったらレイア様も、エレのんも一緒に食べましょうよ!セレンもいいよね?」
ソフィアの前に座ってる男子生徒は先程自己紹介を聞いた同じクラスの人だ。ソフィアが名前を言ってくれたおかげですぐに分かった。赤髪の元気そうな男の子。ソフィアと同郷なんだっけ。
「おう。構わねぇぞ!」
第2王女のレイア様にも驚くことなく女性に興味無いのか、もくもくとご飯を頬張っている。なんだそのドデカい丼は…メニューにあっただろうか?
レイア様も大丈夫そうだったので、有難く同席して食事をすることにした。レイア様も同じメニューでいいと言っていたので、私が持ってくるね、と声をかけ席を立つ。レイア様のことだ。1人にしても全然大丈夫だろう。
食券を買いに行くと、また同じクラスの人を見つける。皆考えることは同じか。食堂は結構賑わってる。
食券機が不親切なのか親切なのか微妙なもので、ボタンの上に分かりやすくメニューの写真がディスプレイに表示されている代わりにボタンの位置が離れており、上の方のボタンは結構高い位置にあった。
身長が高めの私が、普通に押せても高いなと感じるのだから背の低い子は大変だろう。
目の前にいるような子だったら。
そこにはレイア様のライバルになりつつある、とは言ってもレイア様が勝手に意識してるであろうルナ・ワードゲートがいた。
背伸びをしてるが届かないみたいだ。
「どれが欲しいの?」
と後ろから声をかけると、無視されてしまう。人見知りか?私は馬だけどな。
「お昼終わっちゃうよ?」
それでも無視されるので、これが欲しいの?と聞いたら首を軽く横に振られた。これ?と聞くとまた首を振られる。じゃあどれが欲しいの?と身体を持ち上げると、瞬時に強烈な1発を頭にもらう。
「いった…いったぁ。ねぇ!痛いよ!なんで?」
デコに頭突きを食らったのである。なんという石頭だ。割れるぞ。
「馴れ馴れしい。別になんでもいい。」
彼女はそう言うと、自分でも届くメニューを押して、さっさと離れていってしまった。思春期かなと思いつつレイア様の分も購入して、食券をお姉さんに渡す。
食事を受け取り、席に戻って座った時、さっき頭突きをしてきた小さい背中が目に入った。座ったばかりの私が突然立ち上がると、レイア様とソフィアが驚いていたが、気にせず目の前の背中に声をかけた。セレンは食事に夢中なようで気付いてすらいない。
呼びかけて反応がないので、つい肩に手をかける。また怒らせて頭突きか蹴りか入れられると思ったが、お盆を持っていたせいで出来なかったようだ。慌てて手を離す。
「さっきはごめん。1席空いてるんだ。食堂混んでるし私とは嫌かもしれないけど、一緒に食べない?」
「そう。…仕方ないわね。」
誘うと、彼女は以外にも素直に着いてきた。先にいた3人にも無愛想ではあるが「お邪魔するわ。」と声をかけていた。
もちろん黙々と食べ始めた。小動物みたいだなと思いながら、ソフィアが楽しそうに喋っているのをBGMにルナを見つめると、隣に座るレイア様に手を抓られた。
痛い。ソフィアの話をBGMにしてないでちゃんと聞けということか。人の話をスルーするのは良くないねと視線をソフィアに移すと何故かもう1度抓られた。
ソフィアがお喋りばかりしてるせいで、食事を残してしまい、残った分をあれだけ食べていたセレンが平らげたり、ルナは食べ終わると直ぐに席を立ったし、レイア様は何故か笑顔なのにちょこちょこ抓ってきて痛かったけど、大勢での食事は美味しかった。
本来のレイア様を守るという目的を少し忘れそうになっていたが、それを思い知らされる事件は直ぐに起きたのだった。
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